第五話の五 シャドウの弱点
シャドウとの戦闘が始まって十五分が経過した。戦闘は有利どころか、一方的に攻め込むシャドウに何とか防戦で拮抗するという状況になっていた。リーチが短いはずのナイフを使っているはずなのにシャドウは全くそれを物ともしていない。
「グッ! 強い……」
「俺はこれでご飯を食べているんでね。強くて、当然なのさ! 弱いと雑なパンしか食えないからな!」
ニニエも相当な怪力なはずなのにもかかわらず、ガンガン攻め負けていた。隙を見て襲い掛かるリラもあっさりと反撃を食らって距離を離されていた。
「まず、お前たちは根本的に対人戦闘経験が少なすぎる。力で押せばいいというものではないのだよ!」
ニニエは何とか押し返そうと渾身の力を入れた。するとその瞬間シャドウは逆に力を抜いて後ろに下がった。するとどうだろうか。バランスを崩したニニエは無防備になった。シャドウはそこを逃すことなく反撃し、ニニエを壁に叩きつけた。
「チッ! だあああああああああッ!」
リラはニニエが蹴り飛ばされたのを見て襲い掛かった。しかしそんな感情に身をまかせた攻撃が通用するわけがなく、気が付いた傘が彼女の手元から離れていた。
「!?」
「力があれば大丈夫とでも? それは少し違う」
シャドウはナイフの柄でリラのお腹を叩いた。
「重要なのはタイミングと力を使う場所だ。あまり力を入れていなくても、この通りだ」
リラはゆっくりと崩れ落ち、お腹を抱えて悶絶し始めた。しかしそこで俺には疑問が浮かんだ。
「な、なぜ殺さない! 二人とも殺すことが出来ただろう!」
「なぜ? 殺してどうなる。俺はこの仕事を終えたらさっさと金を貰って討伐ギルドに戻る。そしたら今度はお前達や商業ギルド、ラント商会がお客さんになるかもしれない。だというに殺してしまったら俺は大損するだけではないか」
「お前どんだけ金が好きなんだよ!」
「だったらお前はどうなんだ! 俺を金の亡者と罵るか!」
「俺も大好きだけどさ!」
敵であるはずなのに、シャドウという男を憎むことが出来なかった。何というかこの男、強いのだがなんとなく間抜けそうなのだ。
「……だけど、僕たちだって生活懸かっているもん」
ニニエはメイスを杖に立ち上がった。そしてリラも歯を食いしばりながら立ち上がる。
「私たちにだって、守りたいものがある」
「そうよ! 僕は今の荒んだ食生活をよくしたい。美味しいお菓子をデブになるまで食べたい!」
「私だって、本当はあんな汚い服じゃなくて綺麗な服をいっぱい着たい。そしていっぱい可愛いって言われたいもん!」
「お前らああああああッ! なんかいい話風に言ってるけど、欲望ダダ漏れだぞ! それに許さねえからな! 稼いだお金は全部俺の城を作るために貯金するんだよッ!」
全くみんな自分の欲望に忠実で困っちゃうよねと思いつつ、俺達は決意を新たにシャドウに向き合った。しかし肝心の彼は呆れ切った表情で俺達に可哀想な人を見る目を向けていた。
「クッ! あいつの強さは桁外れだ、どうすれば勝てるんだ!」
「僕的にこれは新しい選択として撤退をするべきでは……」
「時間ないんだからそんなこと出来るか! こうなれば決死の突撃しかないな」
何とかこの緩んだ空気をシリアスに戻そうと俺は知恵を絞って発言するが、見事に空回りしてさらに微妙な雰囲気になった。
すると、シャドウは気持ちの切り替えが終わったようで体制を低くした。
「まあいい。ここでお前たちを倒して俺は防戦に戻るとしよう。この一撃、手向けとして受け取れ」
シャドウは地面を蹴り、滑空するように距離を詰めた。そのあまりの速度に二人はまるで反応できず、少し後ろに下がる程度しかできなかった。
そして、切り裂かれる。
「ニニエ、リラ!」
目の前の光景に俺は悲痛な声を上げた。しかしすぐに何かがおかしい事に気が付いた。
それは、何とシャドウが血を流しているのだ。鼻から。
「え?」
「……ぐほぁッ!」
彼は激戦の末にダメージを食らって吐血したかのような感じで鼻血を流す。一体何があったんだと思いつつ、俺は二人に目を向けた。
「「……」」
「あ……」
そこで俺は気が付いた。二人は間一髪で避け、服だけ切られて素肌が丸見えになっていた。それはもう、ニニエの健康的な白い肌とリラのエロエロしい褐色の肌が……。
「って純情少年か! お前これくらいでなに鼻血噴射してんの!?」
「……くッ、卑劣な攻撃を」
「お前がやったんだろ! それに微妙にうれしそうじゃねえか!」
「な、なぜ俺の弱点が純情であるという事が分かった?」
「だから自分で蒔いた種だろうが! この程度で鼻血流してたらお前、ラノベの主人公になれないぞ!」
突然の思わぬダメージにシャドウは膝をついた。女性陣二人はと言うとシャドウの予想外の反応に顔を赤くして胸を隠していた。こいつらあかるさまに意識されるのは流石に恥ずかしいのね。
「……おい元女神、やれ」
「……」
ニニエは無言でシャドウを蹴り飛ばした。彼は何ともいい笑顔で壁に激突し、そのまま動かなくなった。
とそこで思い出す。俺この二人にラッキースケベされたことなかったなと。そう思うと俺よりも先にラッキースケベを果たしたシャドウに敬意と殺意が湧いてくるのだった。




