赤色が溢れる前日に
ランは伽耶王国侵攻の実行計画を立てている途中でした。
伽耶王国領のみ行われる祭事の時、王国のトップは赤い衣装を身に纏い、民も赤色の花や装飾品で国中を飾ります。
月家の失踪、華の国の実質的な支配により祭事の意味は失われ、伝承も時と共に廃れていきました。
しかし依然、形だけは残っていたのです。
その祭事ではランの能力の引き金となる赤色のものが溢れているため、ランはそれを狙っていました。
祭事の日であれば、制圧は一人でも行えます。
あとはスミレを月家の再来だ、と担ぎ上げ、伽耶王国を統治し、そこを拠点にスミレを生物兵器みたく扱うことで全世界を掌握することがランの思惑でした。
しかし、スミレを思い通りに動かす方法がまだランには掴めていません。
自分に絶対的な忠誠を誓う風華や、利害が一致しているシルフィやココナとは違い、スミレは目の前のことしか考えません。
厄介なのは自分の感情がそのまま異能に直結するため、表だけ従うことすらスミレはできないのです。
ーー最悪意識を失わせて他国に放置したあと、時間差で起こして歩く殺戮兵器にするしかないかしら。
ランはスミレを力ずくで行動不能にした一見以来、彼女を人として扱う気は失せていました。
ーーラン、、、、。スミレさんとアオイの母親になるためにも苗字を捨てた。だけどその意味ももうない。
ランは既に自分を人だとは思っていませんでした。
これまで手にかけた人、痛めつけた人。
彼らの顔は既に忘れていたし、罪悪感もなにも覚えていません。
目の前にあるのは野望だけ。
それ以外は全て雑念。
ーー唯蘭は仮名だけどこっちを本名にしようかしら。
祭事は明日。
ランは異能を使えない廉の存在を思い出しました。
おそらく、手にかけることになるかもしれない初めての家族。
ーー奇術で18年間誰にも無能なのを隠し続けた功績だけがあなたの生きた意味ね。




