風の知らせと遮断
いつもより数刻ほど早い時間、唐突に聞こえてきた知らせが風華の目を覚ましました。
「陽蘭様以外に考えられない。なにを考えているんだ。」
異能で伝えられた声から伝わる恐怖と憎悪。
兄の穣峰からの夥しい声、声、声。
それから城中がばたばたしているであろう、足音。
飛び交う声は死者、怪我人、街の状況。
どれも穏やかではない現状を伝えてきます。
原因はランが独断で伽耶に進行したことが招いた混乱でした。
「伽耶王国全体で赤色のものが暴走している!何をする気だ!」
「失踪後、上空の飛行艇は確認している。無駄な逃避行も進行も中止しろ!」
風華は義兄からの知らせを全て遮断しました。
ランについていく限り、自分は決して善人ではいられません。
それを分かった上で、仕えているのだから今更痛む心もありませんでした。
ランではなくても印との合併・吸収で差別・虐殺は起きたでしょうから。
貴族の娘、として仕えた主君に絶対の忠誠を。
ランが決断したのなら自分はついていくまで。
そこまでの覚悟はできていたと思っていたのに、風華の脚はすくんでいました。
やらなければ、自分がやられる。
背後には守らねばならない家族がいる。
そういう境遇であれば、前に進むしかありません。
しかし、今風華が置かれているのは圧倒的力をもつ、支配者の従者でした。
時々わからなくなる善悪。
「廉様が華に入られた。伽耶王国はラン様の手に落ちた。」
「なにが目的だ。」
義兄の話は遮断していましたが、父からの声は聞こえてきました。
「お父様、助けて。」
風華は思わず口にしてしまいます。
咄嗟に口を塞いでも、声は父の風燕に聴こえていました。
「そこにラン様がいらっしゃらないのならば、降りてきなさい。あとは私がなんとかする。」
久しぶりの父との会話に、風華の目から涙がこぼれました。
今帰れば、まだ人でいられる。
しかし、思い直します。
飛行艇には脱獄したシルフィ、スミレが搭乗しているのです。
降りると2人がどんな目に合わされるかわかりません。
「いえ、お父様。私はお父様の教え通り、仕えた主君に最後まで付き従います。お手を煩わせてすみません。皇帝にも首を洗ってお待ちください、とお伝えくださいね。」
父の声も遮断します。
最後に何か言っているように聞こえましたが、もう風華にとってはどうでも良い話でした。
今は伽耶で大暴れしているランが帰還した時、ゆっくり休んでもらおうとすることが彼女にとっては重要だったのです。
伽耶王国が手に入る。
それはまだランの野望の序章にすぎなくて。
全てを手に入れたあと、ランはなにをするのか、風華には想像もつきませんでした。




