ヴァナルカンド
装備を整えたはいいが、道中で悪魔化してしまったヴァレリア様。
そのままのノリで勢いよくエリー達の前に現れた。
「待たせたな!」
厨二病患者のような登場の仕方をしたヴァレリア。一同は呆気に取られた。
ヴァレリアの変化に気付いたのかエリーが王子の方を睨んだ。王子はまずい、という感じでパッと目を逸らした。
「ヴァナルカンドはどこだ!? そこか??」
ヴァレリアはガサガサと森の中に入っていく。
「おい! 一人で勝手に行くな!」
セトが呼ぶ。
「まかせろ! 私に着いてくるといい!」
「えっ?」
ポカンとするセト。唖然とする面々を尻目にヴァレリアは進んで行く。
「ま、まあ、お嬢についていくか。ユーリ。お嬢の方角は合ってんだよな?」
「合ってるよ」
ユーリが言うより早く王子が答える。
(合ってるが、ヴァレリアの体力が心配だな)
『ヴァナルカンド! 助けに来たぞ!』
そこには鎖で繋がれ、口を開けたまま杭を打たれた無残なヴァナルカンドがいた。
「‥‥‥っ!!」
その予想外の姿に一同は思わず息を呑む。特にユーリはショックでぶるぶると震えていた。
ヴァレリアと王子だけは冷静だった。
ふとヴァレリアはある事に気付く。
『ヴァナルカンド! お前はまだ‥‥‥』
打ちつけられた杭の辺りに嫌な気配を感じる、これは‥‥‥
「気を付けろ! 微かに瘴気を感じる! エリー下がれ!」
エリーはその声にビクッと体を揺らす。
お嬢様、悪魔化しているの? だからさっきから口調がおかしく、ヴァナルカンドの居場所もわかったんですね。エリーはそれが分かりホッとしたようだった。
「ヴァナルカンドはまだ呪われている。この口に刺さっている杭! ここから呪いの瘴気を感じる!」
ヴァレリアはヴァナルカンドに近付いた。
『ヴァナルカンド、今助けてやるからな!』
ヴァナルカンドは静かに目を開ける。口は杭で打ちつけられて塞がれているが、心に呼びかける声が聞こえている。
ヴァナルカンドはその青い瞳で一同をギョロリと見渡す。
『ここに客なんぞ珍しい‥‥‥誰だ? ニーズヘッグか?』
『いいえ、私はヴァレリアよ。ニーズヘッグを従えたの。貴方の方も必ず助けてあげるわ』
『ふぅ、わざわざご苦労なことを。助けにこなくても良かったのに。俺はユーリを守れたらそれで』
その時ヴァナルカンドが鼻をひくつかせる。
『この匂いは、ユーリか?』
ヴァレリアがユーリを見る。
ユーリ‥‥‥
ユーリは手を口に当てて青ざめていた。
「そんな、ヴァナルカンド。僕を双子から守った為に、そんな事になって‥‥‥」
ごめんなさいごめんなさい!!
「うっ、うわぁぁぁーーーーっ!!」
ユーリが頭を抱えて雪の中に埋もれる。
「ユーリ! ユーリ落ち着いて!」
アレクに代わらないで!ユーリ!
「ヴァレリア、さ‥‥‥ん」
「ユーリ!!」
ヴァレリアは堪らずユーリの体を抱きしめる。
「ユーリ。大丈夫だから‥‥‥」
『どうやら俺の今の姿はお前達から見てかなり酷くなっているようだな。しかしこの杭、双子の呪いがかかってしまっていて、中々取れないのだ、もう俺も疲れてしまってな』
ヴァナルカンドはそう言い、ため息を吐いた。
『心配ない、俺様の呪いよりも遥かに規模の小さい呪いだ。どうやらこの双子、完全にユーリを連れていく事だけが目的だったようだな』
そう言ってヴァレリアが杭に触る。
『アッチィィィィ!!』
ヴァレリアはそう叫び、腕を押さえて倒れた。
「ヴァレリア!!」
ヴァレリアの皮膚は杭に触れたところが火傷を負ったように赤く腫れ上がっていた。
「ニーズヘッグ! ヴァレリアの体を使って無理するのはやめろ!」
王子の目が怒りで金色に光る!ニーズヘッグはその殺気に怖気付き、すまんと小声で謝った。
「良いのよニーズヘッグ。私も悪かったわ。ちょっと気が緩んじゃって」
ほら、そうやって無理するから。まだ悪魔化に慣れていないのに。
「ヴァレリア、動かないで」
王子はそう言って、ヴァレリアの火傷に自分の手をかざす
「んんっ!」
シュウゥゥーーっ!音を立ててみるみる火傷が治まっていく。
「ありがとう、レクター‥‥‥」
そう言ってヴァレリアは思わず王子に抱きついた。
(‥‥‥ッ! 全く緊張感のないお嬢様だな! いや、嬉しいが)
「んー、でも何故かしら。呪い自体は弱いのに、あの杭を取り除くのはなかなか難しいわ」
「執念だろうな、双子の。もしくは双子にユーリの事を命令した。もっと裏に潜む者の」
「裏に潜む者?」
「俺はそうじゃないかと思うのだが‥‥‥ヴァナルカンド。お前何か心当たりはないか?」
ヴァレリアはユーリがアレクになっていないかを確かめる。
「ユーリ、ユーリ? 辛いだろうけど、ヴァナルカンドの話を聞いて? 何かが分かるかもしれない。ここに来た意味があるかもしれない‥‥‥ユーリよね?」
ユーリはヴァレリアの手を握りながら答える。
「ヴァレリアさん、僕はユーリです! 大丈夫です。ヴァナルカンドの話、聞けます! 聞きます!」
もう僕は逃げない!ヴァナルカンドに何があったのか、何故ヴァナルカンドは僕を守るのか、あの時言った【主との約束】とは何なのか‥‥‥
今なら向き合える!
そのかわり‥‥‥
「ヴァレリアさん、手を握っていてくれないですか?」
それを聞いて王子がピクリと肩を揺らす。
「? ユーリがそれで落ち着くなら、そうするわ」
「ありがとうございます」
「ユーリには聞こえる? ヴァナルカンドの声が」
「大丈夫です、聞こえます!」
口に杭を打ちつけられているのに、どうやらユーリにはヴァナルカンドの声が聞こえるらしい。
『ヴァナルカンド、何があったか聞かせて。エリー達は離れて! 私達は大丈夫だから』
言われてエリーとセトは瘴気が当たらないところに離れた。
『んー、どこから話せば良いのか‥‥‥それにユーリには辛い話になる。できれば聞かせたくないのだが』
「ぼ、僕は大丈夫‥‥‥! 君、ヴァナルカンドを、助けにここに来たんだ」
『ユーリ、成長したなぁ』
ヴァナルカンドはそう言って目を細めた。
「‥‥‥ッ!!」
ヴァナルカンドにそう言われて、ユーリは涙ぐんだ。
『‥‥‥ふむ、だったら話そうか。ユーリ、お前が施設に入った頃は、ちょうどお前が6歳の頃だったか。俺がこの施設に来たのもユーリが入所したのと同時期だった。ユーリを守るように言われてな。もちろん、施設の職員達もそのように聞かされていた』
ヴァナルカンドの言葉に頷き、話の先を促すユーリ。
『それもこれも、全てある大魔法使い、もとい悪魔からお前を守るためだった。そもそも、その大魔法使いが狙っていたのはお前の父親だったんだよ』
お前の父親はお前の母親を庇い、母親はお前を柱時計の中に隠し、その大魔法使いの手により亡くなった。
えっ‥‥‥
「両親は、事故で亡くなったって」
『幼いお前には、本当の事は伝えられなかったのだろう』
「何故父さんが狙われる事になったの??」
ヴァナルカンドはひと息ついて、やがて話し始めた。
ここからの話が(多分)長いので一旦区切ります。
次回はユーリの意外な過去が明らかになります!
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