ユーリの決意
鈍すぎ不思議系天然お嬢様のヴァレリアに振り回されてイライラしっぱなしのレクター
そんなレクターの心境を余所に、ヴァレリアは眠っているユーリに子守唄を歌ってあげるのだった
さらば、美しき故郷の湖よ
お前、幼き日々の揺りかごよ
深い山々の緑に縁取られて
葦と薔薇とに飾られて‥‥‥
子守唄が聴こえる。すごく、綺麗な歌声だなぁ。
「う‥‥‥ヴァレリアさん‥‥‥?」
「あら、目が覚めた? ユーリ?」
僕は‥‥‥
「あれ、僕はいつのまに寝て。それにここは?」
「このお店の店主のオシリスさんが、ご厚意で二階の客間をてくださったの。その状態では動けないだろうって」
そうなんですか‥‥‥でも何故、僕はここに?
「アレクになったユーリが、少し無茶をしてしまったんだ。もう少しやすむといい」
「アレクが!? 僕は、また何かしたのですか?」
「‥‥‥」
レクターとヴァレリアはお互い目を合わせ、どうしたものかと肩をすくませる。
「今は気にしなくていいわ、安心して」
「話してください。僕が寝ている間、アレクが何をしていたのですか?」
「ユーリには辛い話かもしれないわ。それに、思い出したくない話かもしれないし」
ヴァレリアさん、困ってる? そんな顔させたくないよ。
「話してください、僕は平気ですから!」
「う、うん」
「ヴァレリア、俺が話すよ。お前には辛いだろう?」
王子はヴァレリアさんの肩に手をかけた。ヴァレリアさんはその手を握りながら頷く。
「う、うん、ありがとう。レ、王子」
「それで昨日、アレクに聞いた話だがーーーー」
一連の話を聞き、ああ、と頷いたり、時折うう、と唸るユーリ。
しばらく頭を抱えていたユーリだったが、やがて決意したように顔を上げた。
「ヴァナルカンドを探していたのは、僕の旅の目的だったんだ」
僕が自然と人外の物に優しくしてしまうのも、ヴァナルカンドを思い出していたからかもしれない。
僕が施設の事、先生のこと。思い出すたびアレクが出てきてアレクに庇ってもらっていたから、綺麗な思い出だけが無意識にユーリ(僕)に残っていた。
「けど今、アレクが自分からその話を言い出したのなら、ヴァナルカンドと向き合ってみる時期だと思うんだ。アレクも、ユーリ(僕)にそうして欲しいから、切り出したんだと思う」
僕には、もう仲間がいる。
もう一人じゃないから、信じてもいいってアレクが言ってるような気がする。
そう言ってヴァレリアの手を握るユーリ。
「ヴァレリアさん、ありがとう! ヴァレリアさんのおかげだ!」
ユーリはいつも重たい前髪に少し分け目が入っていた。目が覚めたかのように、紺色の瞳がキラキラと輝いている!
ユーリ‥‥‥!
「ユーリ、よく向きあってくれたわね。辛かったでしょうに」
そう言ってまたユーリを抱きしめようとする手がレクターの脚を掴んだ。
(む? 硬い‥‥‥)
見上げると、王子がヴァレリアが伸ばす手とユーリの間に立っていた。
「ユーリ、よく言ったな。明日はヴァナルカンドのところへ行こう。今日は、うん! もう寝た方がいいな! 明日に備えて、そうだそうしよう!」
そう言ってレクターはヴァレリアの手を引いた。
「ヴァレリア行くぞ」
「うわわっ! 待っ、待ってくださいよ!」
ふふっと仕方無さそうに微笑むユーリが手を振っていた。
ユーリに気を遣わせた? カァッと顔が熱くなり、私を抱えているレクターを睨む。
「もう! お、レクター! わああ!」
突然抱き上げられ、私は驚く。部屋に入ると気が抜けたようにレクターが口を開く。
「はぁ、やっと二人きりになれた」
「えっ?」
はあ?
「ちょっと充電させてくれ」
そう言ってレクターは抱きしめてきた。
「じゅ、充電??」
私が頭にハテナを浮かべていると、
「うん、今日はヴァレリアが足りなかったから。充電」
「ふーん? よくわからないけど、良いですわ? それでレクターが安心するのなら」
レクターの匂い、良い匂い‥‥‥
私はいつのまにかレクターに身を預けていた。
私も、レクターと二人きりになりたかったのかな?
「レクター」
「ヴァレリア」
二人がいい雰囲気になった時ーーーー
『はっはー! 残念でしたー! 俺様がいる限り、イチャイチャさせませーん!』
いつのまに起きていたのだろう、ベーっと王子に舌を出しニーズヘッグが私の胸から飛び出してきた。
「ニーズヘッグ、起きていたのね。アレクの話の途中からずーっと寝てたのに」
『うむ、俺様は暗い話と長い話は苦手だからな!』
そう言ってニーズヘッグは胸を張る。
「ハハッ、今日はなんだかずっと張り詰めていたから、ニーズヘッグの存在は癒しだな。不思議だ」
そう言ってレクターはニーズヘッグの頭をぐりぐりする。
『はぁ?? 馬鹿にすんじゃねー!』
「今日は少し起きていよう。ニーズヘッグも一緒に」
「ふふっ、そうですね!」
そう言いながらヴァレリアはレクターに擦り寄る。
「明日は、辛い事になるだろうな。ユーリにも、アレクにも‥‥‥」
「あれ? 今レクター、ユーリって言いました? いつもアレクとしか呼ばないのに....」
「そういう事にはすぐ気付くな、ヴァレリアは」
「へへっ、褒めてください!」
ニーズヘッグを間に挟んでイチャイチャする二人。
『こらー! 俺様を無視して二人の世界に入るんじゃねー!!』
王子が笑う。
「ニーズヘッグはまるで構ってちゃんの子猫みたいだな。段々可愛いく思えてきたぞ」
「本当ですね。最初は怖かったけど、このサイズになったのと、私の一部だと思うとなんだか愛しいですわ」
『お前は、俺様が死んだら、お前も、死ぬんだ。俺様はまだ死にたくない、生きろ』
王子は何時ぞやのニーズヘッグの言葉を思い出していた。
「‥‥‥ああ、俺も、ヴァレリアと同じ気持ちだ」
『な、なんだよなんだよ気持ち悪りぃな! 本当変な二人だなお前らは!』
翌日‥‥‥
「ふわ〜なんか昨日は疲れていつのまにかセトのベッドの上で寝てましたわ、セトはいなかったけど。お嬢様〜?」
あら?
「ふふっ、仲良しですね〜! 可愛いからもう少し寝かせてあげましょうかね?」
エリーの眼下には、一つのベッドで寄り添って眠るヴァレリアと王子、その間で挟まれて眠るニーズヘッグがいた。
セトはいつのまにか机で寝ていたエリーを自分のベッドに運び、自分はオシリスの部屋で寝ていた。
オシリスは自分の部屋にも関わらず、ソファーで寝ていた(笑)
オシリスいいやつ(笑)
私もそろそろ癒しが欲しかったのでニーズヘッグに癒されました。あれ?でも確かニーズヘッグは悪魔だったような。
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