私はシリウス
前回のあらすじ
唐突に自語りをし始めた女神アルマ。その目的はアナスタシアの肉体だという。まずはバルカに入るため、高級娼館に自ら入り、一番美しいと噂のマルグリットという娼婦に変身し、その機会を伺っていた。そこへシリウスが登場して‥‥‥
※時系列は雪山でサラスィアちゃんが出てきたばかりの、ep202のあたりです。まだアデルが実の父親アーサーに会っていない頃です。
私はシリウス。
先日ブランシュ公爵夫人にある事を頼まれて〈仕方なく〉高級娼館の一室にいる。
ブランシュ公爵夫人の依頼とはこうだ。ブランシュ公爵夫人の妹がここで働いているのだが、最近嫌な男に気にいられてほぼ毎日のように来られて参っているとのこと。そこで私、シリウスが件の妹の恋人のふりをしろと‥‥‥
高貴な身分、しかも王子の従者である私が恋人だと知ると、流石のエドワード伯も諦めてくれるだろうと‥‥‥
その見返りに、私に関する破廉恥な噂を帳消しにしてくれる‥‥‥と。
何が破廉恥な噂だ! いや、確かに破廉恥と言われれば破廉恥だが、私も男。しかも失恋したばかり。そんな男が癒しを求めてもバチは当たらんだろう??
‥‥‥はっ! 私とした事がやや取り乱してしまったようだ!!
とにかく今日、やっとブランシュ公爵夫人の妹「マルグリット」に会える。本名はヴァレリア・ヴィルジニアというらしい。奇しくもヴァレリア様と同じ本名とは‥‥‥こんな偶然ある??
マルグリットは高級娼館の一番の売れっ子らしく、王子付きの従者であり侯爵であるこの私でも予約が取れない状態が二週間ほど続いた。
(まあ王子の事は知らない人間が多いから仕方ない)
私が考えこんでいたその時、ノックの音がした。マルグリットが来たようだ。
「ようこそ、シリウス様」
「ああ、よろしく。マルグリット」
マルグリットが顔をあげたその時、まるで私の足の先から頭のてっぺんまで電流のように、私に衝撃が走った!
(なんだこの女ァァ〜!! めちゃくちゃ可愛いじゃないかァァァァ!!)
私はシリウス。今初めてヴァレリア様の事を忘れるほど可愛い娘に会った男だ。
ヴァレリア様とは全然違う。銀白色の髪色に同じ銀白色の瞳の色!
そして何より全身を取り巻く天使のように落ち着いた柔らかい、優しい雰囲気! 私が求めていたのはこれだった〜! なるほどこれは予約が殺到するのも納得がいく。
「あの、私の顔に何かついてます?」
マルグリットの顔に釘付けになっていた私にマルグリットが声をかける。
「あっ‥‥‥これは失礼! あなたがあまりにも美しかったもので」
「まあシリウス様、お世辞がお上手です事」
そう言ってふふッと微笑むマルグリット。
(ファー!! 笑顔も可愛い!! 声も可愛い!!)
「マルグリット」
私は自分が座っている横に手を置き、マルグリットに隣に座るように促す。
(確かブランシュ公爵夫人の依頼は、マルグリットと恋人のふりをしろという事だったはず)
「マルグリット、私がなぜここへ来たのかわかりますか?」
「ええ‥‥‥シリウス様、姉に頼まれてきたのでしょう?私と恋人のふりをしろと‥‥‥」
「でしたら話が早い、今からあなたはこのシリウスの恋人です」
そう言って思わず彼女の手を握ってしまった。柔らかい‥‥‥彼女の美しい瞳から目が離せない!
「ええ‥‥‥シリウス様、これからよろしくお願いします」
「‥‥‥ッ!!」
ドサッ!
マルグリットが次の言葉を発しようとしたその時、私は感極まって彼女を押し倒していた!
「シリウス様、慌てないで。時間はたくさんありますわ」
「も、もう我慢できません! あなたに一目惚れしました!! その証拠にほら」
私は彼女の手を取ると、無理矢理私の胸に押し当てた。
「あっ‥‥‥シリウス様の心臓が」
「わかりますか? あなたを見た時からずっとドキドキしています。おかしいですか? 初めて会ったばかりなのに」
「‥‥‥いえ、おかしくなんか、ないですよ」
そう言ってまた微笑むマルグリット。
ブチンッ!
私の中の何かが弾ける音が聞こえた!
「あっシリウス様、せめてベッドに」
「あとでいい」
その夜、私は朝が白むまでハッスルしてしまった!!
地位など、身分など、王子など知った事か。そんなしがらみを全部頭の隅に追いやって。
私はシリウス。こんなに冷静さを欠いたのは初めてだった。
完全に堕ちてしまったのだ。この銀白色の瞳に。
シリウス〜!どこまでおバカな男なんだ君は!笑
いや相手の正体は媚薬をまとった女神だから仕方ない。ただの人間にはかなう相手じゃないね。
どこまでも女運のない男シリウスだが、このあとどうなってしまうのか!?
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