覚えていない
前回までのあらすじ
父親を亡くし天涯孤独となってしまったアリア。生前父親と仲良くしていたマクシミリアン公爵のはからいでバルカ宮殿へ特別に部屋を用意してもらったが、城の嫌なご婦人方にポッと出の没落貴族と陰口を叩かれてしまう。そうこうするうちにテセウスの地下室に辿りついたアリアだったが‥‥‥
「では私はこれで失礼します。公爵様からこれ以上は行かないようにとのご命令ですので」
アニマの無機質な、極めて事務的な声が聞こえてきた。
「ええ! 助かったわ。ありがとうアニマ」
シューっという音を立てて、扉が自動的に開く。
(どういう仕組みになっているのかしら‥‥‥)
私はドアの仕組みが気になって、よそ見をしていた。
ドンっ!!
「わぶっ!!」
何かにぶつかった私は、思いっきりよろめき、咄嗟に目を閉じてその衝撃に備えた!
いけない! このままでは後頭部を‥‥‥
「‥‥‥危ないよ」
‥‥‥。衝撃は来なかった。
いつのまにかテセウス様が私の体を支えて‥‥‥。
「‥‥‥ッ!!」
目の前に美しく整った顔が現れて、私は第二の衝撃を受けた! 知らず知らずのうちに頬が熱くなっていくのを感じた。
「テ、テセウス様!!//」
私はこのマクシミリアン公爵様のご子息、テセウス様の友達にとこのバルカに呼ばれたのだ。
私とテセウス様の視線が交差する。あ‥‥‥テセウス様の吸い込まれそうな、青い瞳‥‥‥。
その整ったお顔、そして私を支える意外にも逞しい腕に、私の胸は再度高鳴り、再び顔が熱を持った。
「ここの床は滑りやすいな。カーペットを新調しなくては」
そういうとテセウス様は私の体からパッと手を離して、また自分の席に戻って行ってしまった。
(唐突な事とはいえ、あんなに近い距離で見つめあったのに、テセウス様はまるで平気なご様子‥‥‥)
‥‥‥。一応王族の方だし、こういうことには慣れているのかな。しかもあの整ったお顔でいれば、女性がほっとかないはず‥‥‥
(なんか、嫌だな‥‥‥)
って、私何を考えているの!? まだテセウス様に会ってから二日目だというのに!!
私はぶんぶんと頭を振って余計な事を考えないようにし、再びテセウス様に目を向けた。
「あら、テセウス様。本日は装いが違うのですね」
そういうと、テセウス様は肩を揺らし、ゆっくりと立ってこちらを見つめてきた。
「アリアが来るってわかっていたから着替えた。おかしいか?」
「えっ‥‥‥。いえ、そんな事は‥‥‥」
昨日は平民が着るような格好をしていたのに、今日のテセウス様は貴族しか着れないような生地で作られたスーツを着ていた。
改めて見ると本当に王子様みたい!!
(そういえばこのテセウス様は、第一王子とお顔がそっくりと聞いていたわ)
私は再び自分の頬が熱を帯びてくるのがわかって思わず俯いてしまった。
「いえ‥‥‥。その、すごくお似合いです//」
「‥‥‥」
テセウス様は私の様子をあごに手を当てて眺めていた。
(なっ、なんで何も言わずに眺めているの!?)
「ふぅん、覚えていないとはねぇ‥‥‥」
テセウス様は私に聞こえるか聞こえないかのような声でつぶやいた。
えっ? 今なんて?
《覚えていない》
何を? どこを? 誰を?
「まさかアリア、親父から聞いてないのか?」
「えっ、なんのことです‥‥‥か?」
ガタガタッ!!
「‥‥‥ッ!!」
私はいつのまにか壁に追いやられていた。テセウス様は私の頭を挟むようにしてゆっくりと壁に手をつく。
「テ‥‥‥。テセウス様‥‥‥?」
「アリア、俺を見ろ」
テセウス様にそう言われて、私はテセウス様の顔を見る。テセウス様は背が高いので、必然的に私は見上げる形になってしまう。
「どういう風に親父から聞いたのかわからないけどさ」
「???」
「まさか君が俺の話し相手に、とか、友達にとかいう言葉を間に受けてたりしないよな?」
「ぇ‥‥‥」
私は小さな声だけしか出なかった。
「ずっと待っていたよ。アリア。これからよろしくな‥‥‥。俺の婚約者として」
えっ‥‥‥テセウス様、何‥‥‥?
「‥‥‥。その様子じゃ、本当に何も聞いてなかったようだね」
そう言ったテセウス様は、にっこり笑ってこう言った。
「俺だけが君のことをわかってるんだ。そう、それでいい‥‥‥」
おや?テセウス君のようすが‥‥‥
てかテセウス君ってこんな話し方するんだ(え?)
ここまでお読みくださってありがとうございます。
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それではまたお会いしましょう。今日も一日お疲れ様でした!!




