ユリアヌスの末期にて
レクターからガルシア国王の手に渡ったロリコンクソ野郎アルバート。人々が恐れる牢獄にて一人で喚いていたが‥‥‥
ここはバルカ城よりはるか遠く。
山深くに押し付けられるように聳え立つ罪人のために作られた牢獄。
いつの頃からか、この牢獄に入る者は永遠に出る事がない事から人々の間で恐れられ、昔の罪人の名を切り取ってつけられた。
牢獄『ユリアヌスの末期』
罪人のために作られただけあって壁が高く、雰囲気はどんよりとしている。
その牢獄で一人、口汚くわめく紳士がいた。
サラスィアを奴隷呼ばわりした挙句に買おうとしたロリコン紳士アルバートである。
「私が何をした!! 哀れな奴隷を買ってやろうと提案しただけではないか!!」
アルバートは手錠を後ろ手に頑丈な鎖で繋がれたまま叫ぶ。漆黒の闇の奥に、アルバートの叫びだけが虚しく響く。
クソッ‥‥‥! 私が何をしたというのだ!? あの少女を買って、少しでもあの家の食い扶持を減らそうとしただけではないか!
「貴公がアルバートか?」
アルバートは声のする方へゆっくりと顔を向けた。アルバートはひっと小さな声をあげた。
あのお顔、バルカ国王のガルシアではないか? 何故こんなところに?? まさか、私を助けに来てくださったのか!?
アルバートはここへ来てもまだトンチンカンな勘違いをしていた。
「‥‥‥まあ良い。アルバート。奴隷制度はこの国では禁じられている。お前はその禁を破った。調べてみたが、お前は自分の所領でずいぶん好き勝手にやらかしていたらしいな。奴隷市を開催したり、悪趣味な見世物小屋を作ったり。おかげでお前の所領の治安は非常に悪くなり、おまけに自ら蒔いた種の回収もせぬうちにライヒに寄っては下衆な遊びを繰り返し‥‥‥」
なっ‥‥‥
「わ、私は無実です!! ガルシア国王!! あの少女を私が買えば、あの家の食い扶持も減る!」
「誰がお前に頼んだのだ? ただのお前の趣味だろ」
そして自分が飽きた頃に、お前はまた売り捌くのだ。そして治安が悪い土地ではまた繰り返される。何も知らない幼い少女を、または少年を、どこからか誰からか買ってきてはまた誰かに売って‥‥‥
「なっ‥‥‥。何故国王であるあなたが一介の平民なぞに肩入れするのだ!? 関係ないだろう!?」
「いいや、それが関係大有りなんだ。なんせ君が怒らせたユーリは私の親友の息子だからな!!」
ゴッ‥‥‥
嫌な音が聞こえる。アルバートは目を見開いた。
ッ‥‥‥ガルシア国王が、まるで炎のような赤いオーラを纏っている!!
「ガルシア国王‥‥‥!! 落ち着いてください!」
そばに控えていた従者、ジュール侯爵が声をあげた。ジュール侯爵は昔フランシスに魔物から助けられた男で、今はガルシア国王の側近の一人になっている。
「‥‥‥。お前が少しでも反省の色を見せれば‥‥‥平民として生かしてやったのだがな」
(だが、少しも自分が悪いと思ってはいないようだ。奴隷制度の禁を破り、おのれの所領の治安に不穏な影を落とし。俺の親友の息子の心を乱した‥‥‥)
「‥‥‥。ジュール侯爵。君は離れていてくれ」
ガルシアのその姿を見てジュール侯爵は戦いた。ガルシアの瞳は真っ赤に染まり、身体中から禍々しく、赤い炎のようなオーラが覆っている。
たまらず目を逸らすと、そこには小さくなって震えているアルバートの姿が。
(あ、こいつ死んだな‥‥‥)
ジュール侯はゆっくりと目を閉じて帽子を取り、ガルシアにお辞儀をした。
(悪いな、ジュール侯爵。俺を止められるのは、)
「フランシスだけだ!!」
【燃え盛れ お前、か細く揺らめくもの
ほどなくお前は 天高く煌煌と輝き
誇らしげにお前自身を蜃気楼に映す
そしてお前の威光は、遍くを照らすだろう
けれども、真なりし烈日は
その野蛮な欲望を膨らませた驕りを暴き、
愚劣なるその身を悉く灼き尽くす】
ガルシアがなんらかの呪文を唱えると、炎が勢いよくアルバートの身を包んだ!
「ギァァァァアーーーーッ!!」
炎に焼かれながらアルバートはハッキリと見た!
(あ、あれ、は‥‥‥!?)
『‥‥‥。驚いたであろう。だがこの姿を見た人間は自分の運命を理解する間もなく灰になるのだ‥‥‥』
「グァァァァァーーーーッ!!」
生きたまま炎に焼かれ、その死を理解する事もなくアルバートは燃え尽きた。かろうじて灰が残ったが、それもやがて風に吹かれて消えてしまった。
「ふぅ‥‥‥」
「ガルシア国王! 大丈夫ですか?」
ジュール侯爵が慌てて駆け寄る。
「‥‥‥。ア、アルバート‥‥‥」
ジュール侯はアルバートがいたであろう焦げた場所を震えながら見る。
「あの男は自分が悪いと思ってはいない。チリ一つ残さない方が、世のためになる」
「え‥‥‥。ええ。そうでしょうとも‥‥‥」
(恐ろしい人だ‥‥‥。普段は飄々(ひょうひょう)としていて掴みどころのないお方だが、親友のフランシス殿が関わってくると、人目も憚ず怒りを顕にして‥‥‥)
「この後の処理はお前に任せる」
「はい。ガルシア様」
ジュール侯爵は頷いたまま、ついに目を開く事はできなかった。直視すると、禍々しい王のオーラに呑み込まれてしまいそうだったからだ。
(これが王の王たる所以‥‥‥!魔剣を継ぐ者の力‥‥‥!!)
もうガルシアはとっくに立ち去ったというのに、ジュール侯爵は顔を挙げられず、その手はいつまでも震えていた。
この話は没にしようと思ったんですが、ガルシアってやる時はやっちゃうんだぞ!って事を言いたかったのと、魔剣の力も示したかったので捻じ込みました。適当に生きてるようでもやはり魔剣の継承者は強いって事を伝えたかったんだ!!今回シリアスな香りがそこら中に漂ってたので次回はめちゃくちゃ笑える明るい話にしようと思います(自らハードルを上げていくスタイル)
あと前から視点が気になっていたのでこっそり直していきたいと思います。
ここまでお読みくださってありがとうございました!




