ユーリの場合
突然泣いて二階へ上がってしまったサラスィア。
ユーリは困惑しながらも自分が何かしたかと思い悩む。そこへ貴族の馬車が訪ねて来て‥‥‥
「ハァ〜‥‥‥」
こんにちは。ユーリです。今僕はオシリスさんの家でサラスィアさんとお留守番中なんだけど‥‥‥
「サラスィアさんどうしたのかなぁ? いきなりヴァレリアさんに変身したかと思ったら泣きだして二階に行ってしまって‥‥‥。何かあったのかな‥‥‥」
(『ユ、ユーリ‥‥‥』)
あの時のサラスィアさん‥‥‥。辛そうだった。
それとも僕がサラスィアさんに何か失礼なことをしたのかな?
ああ〜! こういう時ってどうしたらいいかわからない! 何しろ僕は、自慢じゃないけど性格に難ありでパーティを転々としてきたから‥‥‥。コミュニケーション能力が皆無なのだ。
「もしかしてハーブティーより紅茶の方がよかったのかな!?」
ガラガラガラ‥‥‥
「ん? アレは‥‥‥」
僕が一人であれこれ考えていると、どう見ても貴族の馬車が家の前で止まった。
この場に似つかわしくない、手入れの行き届いた馬が二頭の四輪馬車。黒で統一された屋根とドア。紋章は付いていないけれど一目で貴族の馬車とわかる。
(何故貴族の方がこんなところに? 道に迷ったのだろうか?)
窓から眺めていると従者らしき人が家の扉を軽く叩いた。
えっ? 本当にこの家に用事が?
「はい」
なんだろう?
僕がドアを開けるとすぐにいかにも貴族の格好をした紳士が帽子を取り一礼をした。
「急に失礼。私はアルバート。こちらに可愛らしい少女がいると聞いてね」
少女? サラスィアさんのことか?
「こんな狭い家では窮屈だろう。それで、ここにいる少女を売ってもらおうと思ってね」
「はぁ!?」
僕は思わず大声をだしていた。この紳士、今なんと言った!? サラスィアさんを売る??
『なんじゃあ? ユーリ。大きな声だして? ひょっとしておおおお怒ったのか!? ワシが急に上に行ったから‥‥‥』
サラスィアさん!?
「アンセム!」
『うわ! 何じゃ!?』
サラスィアさんの声が聞こえて僕は咄嗟にサラスィアさんが見えないように魔法をかけてしまった! アルバートから見えないように‥‥‥。嫌な予感だ。このアルバートという男からは、嫌な予感しかしない。
なんだろう‥‥‥。この男の灰色の目。人間のはずなのに少しも輝きを感じられない。背中に冷たいものが走る。この感じ、どこかで感じたことがある。
ああ、思い出した。あいつらと同じだ! 雪山で僕が戦った双子と同じ目をしている。
忘れたくても忘れられない。リューフェロとリュツィフィ‥‥‥。僕と先生と、ヴァナルカンドを苦しめた双子の悪魔!!
目の前の男は人間なのに、あの双子の悪魔と同じ目をしている。あのどんよりとした欲望に塗れた瞳だ。
僕は思わず男を睨みつけた。
「おや? ずいぶんと不満そうですな。奴隷を買ってやるというのに。額が不満かね? ならこれでどうだ?」
そういうとアルバートは従者の足を持っていた杖で叩き、従者は絹で畳まれた包みから金の延べ棒を僕に掲げて見せた。
な‥‥‥。な‥‥‥
サラスィアさんのことを奴隷呼ばわりした挙句に、金で買うだと‥‥‥
『ユーリ、ワシを売るのか?』
僕にしか見えていないサラスィアさんが震えた声で聞く。
『‥‥‥。それほどワシの存在が疎ましかったのじゃな』
サラスィアさんの諦めたような、泣きそうな声に、僕の頭は一瞬で真っ白になった!
なんだろうこの気持ちは? 腹の底から湧き上がってくる暗い感情は?
サラスィアさん、僕は‥‥‥
「違う‥‥‥!」
『えっ』
「違う!!」
それからの事はあまり覚えていない。ただ無我夢中で僕は魔法の杖を振っていたような気がする。
「ヒェェェ! もうやめてくれ! あの奴隷のことは諦めるから!」
違う! サラスィアさんは奴隷なんかじゃない!
「違うっつってんだろがァァァァ!!」
もう自分がアレクか僕かわからない程、僕は怒っていた。違う違うと叫びながら。
違う? 何が違う? 僕は、何が違うと言いたいんだ‥‥‥
魔術書に載っていた禁術と言われる魔法も使った気がする。
「ハハハハハ!! 踊れ! 狂え! イディオブ・フォルフィルア!!」
ユーリ‥‥‥ッ!!!!
『やめてーーーーッ!!』
遠くでサラスィアさんの悲痛な叫びが聞こえる。
サラスィアさんは、また泣くのかな? ごめん‥‥‥
でも僕は許せなかったんだよ。
何が許せなかったんだろう? この下衆以下の男がサラスィアさんを侮辱したから? それとも‥‥‥
前半のユーリ呑気すぎてワロタ。
一体この二人はどうなってしまうのでしょうか!
私にも分からないね(?)
それにしてもこの紳士は、一体どこでサラスィアを見つけたんでしょうね?
ここまでお読みくださってありがとうございました。




