素直になれない
やっとの思いで広間にたどり着いたアナスタシア。
だがヴァレリアに投げかけたのは意外な言葉で‥‥‥
※少し視点がウロウロします。
「アナスタシア様、こちらへどうぞ」
そう言って私は手前にある椅子を引いた。
「あなた、男装しているのね‥‥‥」
「えっ?」
突然投げかけられた言葉‥‥‥。しかも少し怒気を含んだアナスタシア様の声。
カンッ!
アナスタシア様はイライラした様子で持っていたティーカップを乱雑に置いた。
「どうして?」
私の体で、私の髪で、好き勝手に何をしているのよ。しかも以前会った時よりも、さらに美しくなって。その忌々しい紫の瞳も、ますますキラキラと輝きを増して‥‥‥!!
「返してよ‥‥‥」
私の体を返してよ!! 元は私の体だったのだから!
「‥‥‥アナスタシア様‥‥‥。それはなんと‥‥‥」
「わかってるわ! 都合のいい話よね! でもあなたに何がわかるのよ!」
あなたの虚弱な体のせいで、私の計画は台無しになったのに! 何故あなたはそんなに楽しそうに過ごしているのかしら。
違う! 今日はこんな事を話しに来たんじゃないのに‥‥‥
「私に」
ヴァレリアはそう言いながら私に近づいてきた。
「私の夢の中に出てきたのは、私にそんな事を言うためだったのですか? こんなに寒く、長い道のりを経て伝えたかったのは‥‥‥」
ヴァレリアの紫の瞳が、私の心を見透かすように妖しく光る。
違う違う‥‥‥ッ! 私が言いたかったのはこんな事じゃない!!
私はヴァレリア‥‥‥。ただ、あなたに。
【あなたに助けて欲しい‥‥‥】
なのに、喉がひりついたように声が出ない。ヴァレリアは何も言わずに私の次の言葉を待ってくれているのに‥‥‥
どうして素直になれないの‥‥‥。どうして素直に助けを求められないの!?
「やあ、君がユーリか?」
張り詰めた空気を破るように、陽気な声が聞こえてきた。
「マックス公」
レクターが顔を挙げた。
「マクシミリアン公爵様、お噂は国王陛下からお伺いしております」
ユーリは深々とお辞儀をした。
「ははは、君とは一度じっくりと話してみたかったんだよ。しかしここは騒がしいな。さすがバルカだな。カンタベリー」
カンタベリーと呼ばれたマクシミリアン公爵の従者が物陰から静かに顔を覗かせる。
マクシミリアン公はカンタベリーに何事かを告げる。
「私の家に行こう。ここからすぐのところだ。ユーリ、それからレクター! 君も来るがいい」
そう言われてレクターは肩を揺らす。
「でもヴァー‥‥‥。ヴァレリアが」
レクターは心配そうな視線をヴァレリアに向ける。ヴァレリアは「大丈夫」と目で合図を送る。
ヴァーリャ‥‥‥
「‥‥‥。ヴァレリア、しばし席を外すぞ。アナスタシア、病の体を引きずってよく来てくれた。ゆっくりしていくが良い」
アナスタシアはレクターの顔を見る。黒いヴェール越しに見るその顔は。純粋に自分のことを心配そうに見ている王子。
前までは、こんな顔をしなかった。どんなお嬢様方にも、興味も、関心も示された事はなかった。
ヴァレリアが、王子を変えたのだ。
レクターはもう一度ヴァレリアの方へ目を向け、片目を閉じた。俗に言うウインクというやつだ。ヴァレリアはたちまちに顔が真っ赤になった。
(なっ//なんなのレクター! その不意打ちは卑怯ですわよ!)
ヴァーリャ、話し合いがうまくいくと信じるぞ。そしてアナスタシアも‥‥‥
「行こう、ユーリ」
そう言ってレクターはユーリと共に広間をあとにした。
一方サラスィアはアナスタシアとヴァレリアの会話には一切興味を示さず豪華な食事に夢中になっていた。
うーむ、アナスタシア様ー!心を開いておくれ!( ;∀;)せっかくここまで来たのだから。
人に助けてもらうって案外勇気がいりますよね。
いよいよ第五章「拗れる心」も完結に近づいてまいりましたよ〜!
ここまでお読みくださってありがとうございました。




