地獄めぐりにて
前回までのあらすじ
ようやくヘルヘイムに辿り着いたユーリ達。ニルを見つけたはいいがまだヴァレリアが到着していなかった。ユーリとサラスィアはヴァレリアと王子が来るまで、地獄めぐりをする事になった。
ニルの勧めでヴァレリア達が到着するまで地獄めぐりをする事にしたユーリは、興味津々でヘルヘイムへと足を運んだのだった。
冷たくて暗い陰鬱な空間。地面も何だかジメジメしている。ユーリは持っていた杖に光を灯しながらゆっくりとそこを降りて行った。
「ヴァレ‥‥‥。サラスィアさん、いつまでその姿のままでいるんですか?」
僕はユーリ。ニルに勧められて地獄巡りをしているんだけど、そこに何故かサラスィアさんもついてきていた。ヴァレリアさんに変身したままで!
『ん? いやユーリの反応がいちいち可愛いのでな、つい』
「そんな理由でヴァレリアさんにならないでくださいよ」
それにしてもここはさすが地獄というだけあって人間のような死体と頭蓋骨がゴロゴロ転がっている。足元を見ると、おそらく亡者の物と思われる血液が道を作っていた。
「一体どんな事をした人達がここに送られてきたのでしょう? 大昔はここが地獄として機能していたとヴァナルカンドに聞きましたが‥‥‥」
『うーむ、ニルに聞いた情報だと、主に病死した人間、役立たずな人間が送られてくるらしいな? 今はもう誰もいないが、大戦の時にはこの入り口に門番もいたようじゃ』
思い出すと、この暗いヘルヘイムにうってつけの陰気な女だったな。
「女性の門番がいたのですか? ニルではなくて?」
『ニル? あいつはヘルヘイムのもっと奥の方で隠れておったぞ。門番の名前は何だったか? 確かカーリ、カーリじゃ! 密かに辛気臭いカーリって呼んでおったの』
まぁワシはあいつには絡まんかったから性格まではよくわからんがな! ガハハ! とヴァレリアさんの姿でサラスィアさんは豪快に笑った。
ヴァレリアさんもこんな風に笑うんだろうか? ヴァレリアさんの笑顔、可愛いな‥‥‥。今は王子しか見る事ができないけど‥‥‥
「ヴァレリアさん」
ユーリはヴァレリア(の姿に変身したサラスィア)の方へと足を向けた。
『む? ワシはサラスィアじゃぞ? 見た目はヴァレリアだが』
もっと見たい! ヴァレリアさんの色々な表情を。僕はヴァレリアさんが逃げられないようにヴァレリアさんを壁に追いやるように近づいた。
『おおおおおい! ユーリ、待て待て? 目がやばいぞ? バッキバキじゃぞ!? ワシはサラスィアじゃぞ!?』
ヴァレリアさん、じゃないのはわかっているけど‥‥‥
ドンっ!
僕はヴァレリアさんに壁ドンを喰らわせた! すごい! この僕が壁ドンなんて! ここの独特の雰囲気に当てられたのかな?
「ヴァレリアさん、顔をもっと見せて」
『おいおいおいおいお前、ユーリ! 正気か? ワシはサラスィアじゃぞ!』
「ヴァレリアさんの顔、もっと見たい」
自分でもわからない。この暗い閉鎖的な空間と、陰湿な雰囲気。あちこちに転がる死体の山。その中にいるヴァレリアさんが、まるで一筋の光みたいで‥‥‥
ヘルヘイムの独特な雰囲気に当てられたのか? 今ならなんでもやれそうな気がする‥‥‥。何でも‥‥‥
「ヴァレリアさん、ヴァレリア‥‥‥。顔を見せて」
そして僕は! あろうことかヴァレリアさんの唇に顔を寄せてっ!//
バチィン!!
サラスィアがユーリの頬を打った!
「痛い!!」
『なーにを考えとるのじゃこのアホ!!』
あれ? サラスィアさん? ここは? 僕は?
見ると先程までヴァレリアさんに変身していたサラスィアさんは元の少女に戻っていた。
「サラスィアさん、僕は一体何をしていたのでしょうか?」
『何を寝ぼけた事を言っておるのじゃ? ヴァレリアに扮したワシにセクハラをかましてきたくせに』
「ええっ?! 僕そんな事‥‥‥」
あれ? したかな? そういえばサラスィアさんがヴァレリアさんに見えて‥‥‥。ダメだ、頭がぼーっとして‥‥‥
『ユーリ! 大丈夫か!? ユーリ!』
「ウッ、サラスィアさん。早くここを出ましょう」
ここはもう地獄としては機能していないけれど、やはり僕みたいな普通の人間が来る場所ではない気がする‥‥‥。このどこまでも続く常闇に包まれて、このまま僕の心も闇にとり込まれてしまいそうだ!
『うむ。そうした方がいいようじゃな。ユーリ歩けるか?』
「そのくらいは大丈夫です。サラスィアさん心配してくれるんですか? 僕にセクハラされそうになったのに」
『‥‥‥仕方ないじゃろ。ここには人間には耐えられない何かがいつまでも渦巻いているみたいじゃからな』
ワシは平気じゃけども。それにしても、姿形は変わっても、このヘルヘイムの独特の雰囲気は変わらないもんじゃのう。
『さぁ、ニルのところへ戻ろうぞ』
サブタイトルは「ユーリが突然積極的になった話」です。でもイマイチでしたね( ; ; )泣
生きている人間には耐えられない瘴気のような物が、まだ残っているのですね。
ここまでお読みくださってありがとうございました!




