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ヴァレリアとアナスタシア  作者: 杉野仁美
第五章 拗れる心

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哀しい悪魔

前回までのあらすじ。


サラスィアが持ってきた青い薔薇のお茶で回復したヴァレリアは男装をし颯爽と現れた。

そしてすきあらばイチャイチャ寸劇を開催披露するレクターとヴァレリア。それを真似してユーリを襲うサラスィア。場が混沌としてきた中ユーリが慣れないツッコミをし、ようやくニルを助けにいくのだった。

「さあ張り切っていきますわよ!」


 私はヴァレリア。先程まで悪夢にうなされていたのだけれど、サラスィアちゃんが持ってきてくれた青い薔薇のお茶のおかげで、心身共に元気を取り戻したの。


「ねぇみんな!」


 シーン‥‥‥


 あれ?


 気のせいかレクターとユーリが変な顔をしている。


『ちょいちょいちょいちょいヴァレリア! お前には悪いが、お前が張り切るとみんなちょっと不安になるんじゃ! ほら、ワシは詳しくは知らんがヴァレリアは行く先々でトラブルを起こしとるんじゃろう?』


 あ、そうか‥‥‥。そうだったわ。私のせいでニルがヘルヘイムに行ってしまったんだわ!


「ごめんなさい、みんなを不安にさせて。《今回は》出来るだけ大人しくしているわ!」


【不安しかない‥‥‥】


 レクターもユーリもヴァナルカンドも、思う事は一緒なのだった。


 * * *


 時刻はレクターの別荘に丁度サラスィアが到着した頃。ヘルヘイムにて‥‥‥


『べっ!』


 俺様はニル。悪魔ニーズヘッグだ。今疫病を撒き散らしていた元凶の悪魔を吐き出したところだ。こいつクソまずかった〜!


『で? クソヒトデ。お前の最終的な目的は何だ? ヴァーリャか? それとも他に何かあるのか?』


『うぐぐ‥‥‥』


 ブエルは頭だけを動かし、辺りを見回した。


『ここは』


 暗くて陰惨な光景がどこまでも広がる嫌なところ。


『気が付いたか? ここは地獄(ヘルヘイム)。何もない亡者、ヴァルキリアにも見放された者が最後に辿り着く場所だ』


 王子の攻撃を受けて真っ二つにされたブエルの頭が醜い呻き声をあげる。


『喋れるだろ? 頭があるんだからよ。お前の目的は何だ?』


 ニルはブエルの頭を持ち上げ言い放つ。


『黙れ。穢らわしい人間と契約し、愚かにも悪魔の本分を忘れてしまった‥‥‥。悪魔の風上にもおけぬやつめぶべっ』


 べちゃっとブエルの頭は情け無い音を立てて投げ捨てられた。


『はぁ〜あ。どうやら目的は話してくれる気はないようだな〜。あ、じゃあ質問変える! お前が言ってた【あの方】って誰?』


 確か、こいつは俺様を煽ってきた時によく【あの方】と(わめ)いていた。


『あの方のことは、お前ごとき悪魔に話せる事では無い』


 やはり話してはくれないか‥‥‥。匂わせだけは一丁前なくせに。


『ふーん、まぁいいや。ところでさ〜、お前が敬愛してる【あの方】とやら、全然お前を助けにこねぇな? もしかしてお前が言ってたスケープゴートって、お前自身のことじゃねーの?』


【フッ。だったら何だというのだ? 初めから俺の狙いはお前だったのだ! あの村はスケープゴートに過ぎない】

 と、お前は言っていたが?


『ふ、ふふふ。お前ごときにわかるものか! あの方だけだ。俺の力を認めてくださったのは。少しでもあの方の役に立てるのなら、俺はスケープゴートにされたとて構わない』


 ‥‥‥。悲しい奴だな。きっと【あの方】とやらは助けに来ない。自分をこんなに慕ってくれる悪魔も、こいつの主は平気で捨てられるんだ。たとえこいつがこのヘルヘイムで朽ち果てたとしても。悪魔は高位になればなるほど、狡猾で残酷になるんだ。


『‥‥‥。ひとつだけいい事を教えてやろう。ニーズヘッグ、いや。ニル』


 驚いた。こいつさっきまで人間が付けたこのニックネームを馬鹿にしていたのに。


『まぁ聞け。おそらく俺は、もうもたない‥‥‥。どうせ疫病を撒く事しか能力がなかった悪魔だ。地獄(ヘルヘイム)か‥‥‥。死に場所には丁度いい』


 ゲホッ!


 ほんとに急にどうしたんだコイツは? ヘルヘイムの瘴気に当てられて気弱になってんのか?


『あの女‥‥‥。ヴァレリアといったか。あの女はこれからも俺たちみたいな不気味な悪魔に狙われ続けるだろう。いや、正確には‥‥‥。あの女の肉体を狙っているのだ。アナスタシアと‥‥‥』


 えっ!? 今こいつ何て言った? アナスタシア!?


『お前どうしてその名前を知ってるんだ!?』


『アナスタシアは、本当は‥‥‥。女神アルマ様の肉体で生まれてくるはずだった。だがアルマ様はアナスタシアとしては生まれてこなかった。虚弱体質のアナスタシアでは、女神アルマ様の器としては不十分だったのだ』


 アルマ?! 今アルマって言った?! 大戦の時ここに逃げていた俺様が、気まぐれで助けたあのアルマか?! そのアルマの事を何故こんな弱々悪魔が知ってんだ?! いやそれより‥‥‥


『本当に、人間は(もろ)いものだ。疫病を撒き散らせばすぐに死ぬし、生まれつき虚弱体質になる人間もいる。悪魔や神は、時にそんな不完全な人間に翻弄される‥‥‥』


 いよいよ死期が近いのか、ブエルの声がだんだんと小さくなっていく。そうはさせるか! まだ俺様は何にもわかっちゃいない! 情報量が大渋滞だ!


『おい待てよ! なんでそれがヴァーリャの体を狙う理由になるんだよ! ヴァーリャには関係ないじゃないか! アルマの事も、アナスタシアの事も!』


『ははっ、それは‥‥‥』


 ブシャッ!!


『は?‥‥‥』


 ブエルが口を開こうとした瞬間、ブエルの頭が爆発してその細胞が飛び散った。


 な、なんだよこれ。それ以上話せないようにする罠か?


 ブエルの頭が目と、口半分だけを残し、ズルズルと沈む。


『お、おい! 待てよ! まだ死ぬんじゃねえ! クソヒトデ! そうだ、お前! お前の名前は!?』


 ブエルは驚いたように目を見開いた気がした。そんな事を聞かれたのは初めてだったのかもしれない。


『ブ、エ‥‥‥ル‥‥‥』


 そう答えたブエルはその場に転がり、二度と動かなかった。


『ブエル‥‥‥。哀れな奴』


 消え入りそうな声でニルが呟く。


(同じ悪魔なのにな‥‥‥)


 その声は、気のせいか震えていた。




えっ?何か急に急展開ですねすみません。


女神アルマは何故アナスタシアとして生まれるはずだったのか?色々と謎ですね。


※女神アルマについては第二章の142話目の「ニーズヘッグと金の枝」を流し読みしていただければああそういう‥‥‥という感じになると思います。


ニル可愛いな〜大好き!と思った私は☆を妄想で真っ黒にしていきたいと思います!


ここまでお読みくださってありがとうございました。

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