サラスィアはコミュニケーションが取りたい
前回までのあらすじ
ヴァレリアはサラスィアに渡された青い薔薇の苦いお茶を飲み、心身ともに回復し、久しぶりのユーリとの対面に喜ぶのだった。
「まぁユーリ! 久しぶり! 来てくれたのね!」
ヴァレリアは思わずユーリに抱きついた。レクターの視線に気付いたユーリが慌ててその体を離す。
「ヴァレリアさん、お久しぶりです。と、その格好は‥‥‥」
「ああ、この格好ですか? この格好は‥‥‥」
言いかけたヴァレリアを制して、レクターがこれまでの流れをユーリに説明した。
「なるほど‥‥‥。着替えがなかったので王子が昔着ていた服を着ているのですね。でもなかなか良いじゃないですか。男装の麗人みたいだ。髪も高めに結われているし、パッと見女性と分かりませんよ。王子、咄嗟とは言え僕は良い判断だと思います」
「ふふん、そうであろう。なんせヴァーリャは冒険者の格好をしていても隠しきれない豊満なボディで色々と‥‥‥。ゴホン! 目立っていたからな!」
レクターがそう誇らしげに言った時、ヴァレリアがその手を握った。
「レクター、あの時はごめんなさい。あの時私、自分が死ぬって思っていたの。だからついあんな事を口走って‥‥‥」
でも貴方は私を諦めないでいてくれた。
「本当にありがとう」
レクター、私がいて欲しい時にいつも側にいてくれる人。
「ヴァーリャ‥‥‥。いいんだ」
そう言ってヴァレリアの頬を撫でるレクター。
ここはレクターの別荘の一番広く、暖炉のある部屋。
今ヴァレリアとレクターは、ユーリとサラスィアの目の前で隙あらばイチャイチャ劇場を繰り広げ始めた。
『ユーリとやら、この二人はいつもこんな感じなのか?』
「そうですね、割とそうです」
隙あらばイチャイチャしてますよ、とニコニコしながらユーリは答える。
うむむ〜、イチャイチャなんかした事ないからわからんな? こう、体を寄せ合って、髪を触ったり頬を撫でたりする事がイチャイチャか? 見様見真似で二人の真似をし始め、サラスィアはユーリの方をチラチラ見た。
「わぁ! 何をするんですサラスィアさん!」
突然、サラスィアがユーリを押し倒し、ユーリの濃紺の髪に触れた!
『ユーリ! ワシも人間のようなコミュニケーションを取りたい! イチャイチャもその一つなのだろう!? 安心せい! 悪いようにはしない』
「何を言っているんですか!? サラスィアさん! 落ち着いてください! 今のあなたのその姿でこの構図は色々とやばいですよ!」
いや突っ込むところそこ?
『ユーリ、どうじゃ?』
「どうって言われても‥‥‥。さっき初めて会ったばかりだし。そもそも僕はそういう対象でサラスィアさんのことを見てないですよ」
『そういう対象?? どういう意味じゃ?』
「うーん、そういう対象‥‥‥。説明が難しいな。近づいただけで胸がドキドキしたり、その人の事を考えるだけで心が温かくなったり、する事かな?でもサラスィアさんは、その。幼すぎて‥‥‥。そういう気持ちにはなれないというか」
『むー! ではこれだとどうじゃ!?』
ボフンッ!
「!! なっ! ヴァレリアさん!」
『ほほほ、ワシは特に能力という能力が使えない代わりに変身する事ができるのじゃ! どうじゃ? ドキドキとやらは感じるか?』
やばい! めちゃくちゃいい匂いがする! ヴァレリアさんの匂いってこんないい匂いなんだ‥‥‥
それに顔‥‥‥。ヴァレリアさんの顔がこんなに近い!ああ、綺麗だ! 紫の瞳に吸い込まれそうだ。
「何をやっているのだ!?」
「‥‥‥ッ王子! 助けてください! サラスィアさんが! 僕を、僕を‥‥‥」
レクター王子が怒りの形相を浮かべてこちらを見ていた。
ヴァレリアに変身してユーリを襲うなどけしからん! たとえ中身がサラスィアであっても許さん!
「こらサラスィア! その姿でユーリに覆い被さるな! 今すぐ変身を解け!」
『む?? なんじゃァ? 王子はこの姿は嫌いかァ?』
サラスィアがニヤニヤしながらレクターに近づく。
『レクター、私あの時はどうにかしてたのですじゃ』
サラスィアは今度はレクターに覆い被さった!
『レクター! さあ! 大人しく私に抱かれるのじゃ!』
それを聞いてレクターは思わず吹き出した!
「ブフォ!! なんだそのセリフは!? どこで覚えたんだ? 大体ヴァーリャはそんな事を言わないぞ」
『む? 人間はこんな事言わないのか? でも青い薔薇を採りにきた人間たちの中にはこのような事をワシに言ってきた奴らがいたぞ? その度にゴーレムが守ってくれたが』
マジか‥‥‥
まぁサラスィアは可愛いらしい顔立ちをしているし、趣味がそっち系の男共には刺さるのか? いやわからん!
「お前、よく無事でいたな」
『まあな! ゴーレムが守ってくれていたからじゃぞ!』
「まぁサラスィアちゃん! アデルの時も思ったけど、すごい能力だわ!」
ずっと様子を見ていたヴァレリアが感嘆の声を上げる。
「早くニルを助けに行きましょうよ! こんな事してたら僕たちずーっと《話が》前に進めないじゃないですか!」
そう言ってユーリが立ち上がる。
もう、僕はそんなにツッコミは得意じゃないのに。
「そうですわ! こんな事をしている場合じゃないんですのよ!」
ヴァレリアはそう言うが早いか慌てて準備をし始めた。ユーリはこれから先のことを考えて頭を抱えた。王子はともかく、ヴァレリアとサラスィアがこんな調子で良いのかと。
「ユーリ、俺たち《色々と》頑張ろうな」
レクターがユーリの肩をポンと叩く。
「‥‥‥。はい、がんばります!」
次回こそはニルを助けに行きましょう!!汗
ヴァナルカンドとユーリとレクターがいたら大丈夫です。サラスィアとヴァレリアは‥‥‥うん。まぁ‥‥‥
ここまでお読みくださってありがとうございました!




