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ヴァレリアとアナスタシア  作者: 杉野仁美
第五章 拗れる心

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良薬口に苦し!

前回までのあらすじ


ヴァナルカンドに乗ってレクター王子の別荘を訪ねたユーリはサラスィアと初の対面を果たす。

会話の途中で「青い薔薇」の存在に気付いたサラスィアは、それをヴァレリアの元へ持って行くのだった。

一方、城にいるアナスタシアは、遠くの地で冒険しているであろうヴァレリアに想いを馳せるのだった。

 〜バルカ城の奥にて〜


 アナスタシア、あなたが私になればいいのに。


 元々あなたは私の体で生まれてくるはずだったの。


 いらなかったのよ! あなたなんて!


「ん‥‥‥」


 ここのところ、いつも同じ悪夢を見ている。せっかくハンニバル様が持って来てくださるお薬を飲んで、少しは良くなって来ていたのに。また貧弱な体に戻ってきているような気がする。


「ヴァレリア」


 私はアナスタシア。愚かにもこの黒い髪と黒い瞳の美貌を持つ(アナスタシア)に嫉妬し、私のヴァレリアとアナスタシアの体を、私に取り憑いていたニーズヘッグの力を借りて入れ替えたの。


 ところがヴァレリアは私の体になった事を恨むどころか、私にアナスタシアの体をくれると言っていた。


「その体が欲しいのなら差し上げます」


 と言って‥‥‥。

 でも、本当にそれでよかったのかと最近は思う。


 なんて、自分勝手で我儘で、都合が良いわよね。私っていつもそう。自分には足りないものを欲しがってばかり。私は結局、私である事に代わりはないのに‥‥‥


 ヴァレリア、私は貴女が羨ましい。何になろうと、誰になろうと、自分を好きでいられる貴女が‥‥‥


 対して私はいつまでもぐずぐずして、せっかく入れ替わったのに、せっかくの美貌を手に入れたのに。いつまでも自分を好きになれないまま。


「ウッ」


 御簾(みす)を開け、瞳を突き刺すような朝日に思わず顔を背ける。このような現象も、ここしばらくはなかったはずなのに。


「ヴァレリア、アナスタシアの体が再び誰かに狙われている気がするの。私は一体どうしたらいいの?」


 ねぇヴァレリア、私は貴女のように強くない。


「ヴァレリア、貴女に会いたいわ‥‥‥」


 おかしいわよね。最初は嫉妬していた相手に会いたいだなんて。


 * * *


「アナスタシア様、おやすみなさい」


 ん‥‥‥


 ‥‥‥。うーん‥‥‥ううーん


 体が‥‥‥。頭が‥‥‥


『俺様はお前とは違う! 体は悪魔であっても、ヴァーリャが好きだから一緒にいる!』


「ニル!!」


 がばっ!


『うおっ! びっくりしたぁ! えっ? ヴァレリアか? 何じゃその格好は。まるで男みたいな』


 レクターと一緒に青い薔薇のお茶を持ってきたサラスィアが目を丸くしてこちらを見ていた。


(レクター? と、サラスィアちゃん? これは夢? 私は生きているの?)


「サラスィアちゃん、レクター‥‥‥。私は」


【『ヴァーリャ! 大好きだ!』】


「‥‥‥っ! ニルは!?」


『安心せいヴァレリア! ニルはこのサラスィアちゃんがきっと見つけてやるからな!』


 サラスィアちゃん‥‥‥


 ドクン、ドクン、ドクン‥‥‥


 私は胸に手を当てる。ニルの鼓動を僅かながらに感じる。生きているんだ! ニル。


「ヴァーリャ、お前のためにサラスィアがお茶を持ってきたんだ。飲むといい」


 レクター‥‥‥。ああ、一度は諦めた人。でもやっぱり愛しいわ!


「レクター、私あなたにずいぶん心配をかけてしまったわ。ごめんなさい」  


【レクター、ごめん、なさい‥‥‥】


「ああ、本当にな! あの時は焦った。全くいちいち死に急ぎすぎなんだ。ヴァレリアは!」


 と言いつつ、俺は首の後ろを掻いた。


「‥‥‥。なんて、気にする事はない。俺はヴァーリャが元気で生きているだけでいいんだ」


 そう言ってレクターはヴァレリアに青い薔薇の茶を渡す。


「これを飲むといい。今よりもっと元気になるはずだから。そしたらニルを助けに行こう」


「まぁ! ずいぶん綺麗な色のお茶です事!」


 ヴァレリアは澄んだ青いお茶に感動しながら一気に飲み干した。


 にっ‥‥‥


「にがーい! 何ですのこれ!」


 ヴァレリアが嗚咽(おえつ)を堪えながらハンカチで口を覆う。


『お、ヴァレリアがこれを飲むのは初めてか? アデルと一緒にワシのところへ摘みに来た青い薔薇の茶じゃよ。ヴァレリアも一緒に行ったのにもう忘れたのか? ははは! ワシも何度か食った事があるが速攻で効くだろう! 良薬口に苦しというしな』


「それにしても苦すぎるわ! 見た目とのギャップが凄まじ‥‥‥」


 あ、でもこの感じ‥‥‥


「何だかみるみる力が湧いてきますわ!」


『おお! そうであろうそうであろう! 青い薔薇の効力はどんな病も治せるからな! たとえそれが精神的なものであっても』


「‥‥‥。ありがとう。サラスィアちゃん。少し心が楽になったわ」


 さっきまで、ニルの事が気がかりだったけど。


『? なんじゃ? ニルを心配しているのか? あいつは大丈夫だ。なんせ同じ所に何万年と住んでいたんだ。あいつの強さは肉体的にもメンタル的にもお墨付きなんじゃ』


「ふふっ。ありがとうサラスィアちゃん。あなたは不思議な悪魔ね」


 サラスィアちゃんが話すと、張り詰めていた空気がパッと明るくなるわ。


「二人ともありがとう。もう私は大丈夫よ! 今なら何でもできそうよ!」


「いやヴァーリャ、張り切らないでくれ! できれば最後尾で大人しくしていて欲しい」


 横で聞いていたサラスィアが、うむうむと首を縦に振って頷いていた。



早よニルを助けに行けや、と思った私は広告の下の☆に点を(妄想で)付けたいと思います。


ここまでお読みいただきありがとうございます!

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