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ヴァレリアとアナスタシア  作者: 杉野仁美
第五章 拗れる心

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ヴァレリアのモヤモヤ

 なんだこの村の人間は?


 村に一歩足を踏み入れた瞬間だった。


 俺は一目でこの村人達の何とも言えない違和感を感じていた。俺の中にいる魔剣レーヴァテインもそれは同じらしく、珍しくざわついていた。


 この違和感、村人の顔色。死んだような目つき。ふらふらと落ち着きがなく、足元はおぼつかない。目の焦点は合っておらず、目標もなくただ茫然と歩くだけの異常な光景。これは‥‥‥何だ?


「どどどどどうぞよよよよよろしくお願いします! では私はこれで!!」


 領主は一回だけ報酬を渡しに挨拶をしたきり、自分の城へ逃げるように立ち去った。この村に居座るのがよほど嫌だったのだろう。

 報酬はセトが確認していたが、どうやら想定外の額だったらしい。エリーとハイタッチを交わしていた。仲良しだなあの二人‥‥‥。羨ま‥‥‥いや。俺とヴァレリアも負けてはいない!


 しばらく村を散策し、今夜の宿を探していると、古びた宿が目に入った。セトがめざとくそれを見つけて、今夜はここで一晩作戦を練ろうと一同に提案した。


「このような辺鄙(へんぴ)な村にようこそ。領主様からあらかた話は聞いております」


 宿の店主が顔を覗かせた。


 この宿の店主は村人のように顔色は悪くないな? どうしてだろう?


 俺の不思議そうな視線に気づいたらしい店主がこちらへ笑みを浮かべる。


「おや、お気づきになられましたか。実は私はこの村の出身じゃないのですよ。嫁がこの村の出身で‥‥‥幸い私が元気なので、なんとかやっております」


 なるほど‥‥‥


「だったら話が早え! 俺たちはその奇病の原因が何なのかを突き止めにきたんだ。だからしばらく好き勝手させてもらうぜ」


 セトの言葉に、店主は深く頷き口を開く。


「そうしてください。私はこの村の出身じゃないから今のところ大丈夫ですが油断は禁物です。何が原因かわからない以上、いつ発症してもおかしくないですから」


 そう店主が言うと、店主の嫁らしい女が奥からバタバタと慌てて出てきた。どうやら嫁も、奇病にはかかっていないらしく顔色は普通だ。


「ちょっとお前さん! 窓を開けっぱなしにしないでって言いましたよね! 夜になったら悪魔がやってくるのだから。ごめんなさいねお客さん、あたしは窓を閉めなくては」


 店主は参ったなというように頭をかいた。


「悪魔?」


「はい、この村には夜になると悪魔がやってくるんです。その悪魔がこの村の病気の原因だと、我々は思っています」


 ガラガラガラガラ‥‥‥その内村のあちこちで厳重に戸締まりをする音が聞こえた。


「また悪魔かよ!! オシリスのヤロー! 悪魔みたいなわけわからん奴は俺は嫌いなんだよ! もぉ!」


 セトはイライラしながら赤髪をガシガシとかいた。


「まぁこれでヒントが出たな。俺たちは夜に出てくるって悪魔を待ってりゃ良いだけだ」


 そう言ってセトはヴァレリア達に配置を指示した。


「お嬢と王子はこの村の北を見ていてくれ! 俺とエリーは色々調べて回る。サラスィアは〜、めんどいから俺たちといろ! 悪魔っつっても小さくて特に大した能力も使えないしな!」


『ばっ、馬鹿にするでない! ワシはまだ実力が出せてないだけじゃ! このサラスィアの体で無理はしたくないのじゃ!』


「はいはい、どっちでも良いよ。邪悪じゃなかったらな」


 む? そういえばセトは先程悪魔が嫌いと言っておったな? ワシも同じ悪魔なのに、どうして普通に接してくれるのじゃ?


『そりゃお前がセクメトの面倒やら、文句言いながら何か役に立つ事してるからじゃん。ははは、お前自分の事全然わかっていないのな! セトは元神なんだ。同じ悪魔でも良い奴悪い奴、見分ける能力があるんだよ!』


「ニルお前余計なこと喋んな!! 怒。それに俺は神じゃねぇよ! ただのセトだ」


『ありゃ聞こえてた』


 悪魔か‥‥‥。ヴァーリャはニルみたいな悪魔を(したが)えているせいか、どうもこれ系とは切っても切れない縁らしい。ふとエリーを見るとまたか〜! と言った感じで天を仰いでいた。


「お嬢様、疲れてはいませんか? ねえセト、私達だけでも今夜は休ませてくださらない?」


(昼間のお嬢様の様子もおかしかったし)


「ん? おお、良いぜ。大丈夫だ。何せ俺達には王子という心強い無敵でチートな味方がいるからな! ニルお前はどうする?」


『俺様? 俺様は〜、サラスィアが心配だからついていく! いざとなったら俺様だけでも毒が使えるし。それに比べてサラスィアはなんもできねーだろ?』


『むー! でも正直言って助かるのじゃ! よしニル、手がかりを探すのじゃ』


『なんでお前が仕切ってるんだよ!』


 ぎゃんぎゃんと喧嘩しながらも各々持ち場に散って行った。


「ありがとうエリー、私のことを気にかけてくれて。あれほど冒険に行きたいと思っていたのに。今はなんだかわかりませんわ。ずっとチクチクが取れないし」


「チクチク?」


「そう、胸がギュッとなったり、チクチクしたり。かと思うと愛しくなったり、黒くなったり。とにかく落ち着かないのですわ‥‥‥」


 エリーはピンときていた。これはまた王子絡みだと。本当にこのお二人はどうなっているのでしょう? 婚約もしている。添い寝もしている間柄だというのに。


 まあ仕方ないですわよね。つい最近、王子を大人の男だと認識したばっかりで、おまけにお嬢様はそれに無意識でいらっしゃる。王子も王子で、言葉の割にはだいぶヘタレだし。


「愛し合っていますのにね」


「えっ? 何か言った?」


「いいえ、何にも」


ヴァレリア様は冒険どころじゃないですね!

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