サラスィアの意外な過去
場所は変わって、ここはバルカ城の奥ーーーー
アナスタシア、さっさとその体を渡しなさい!
《元々いらなかったのよ! あなたなんて!》
「‥‥‥ッ!」
アナスタシアはここ最近悪夢に襲われていた。体調もすぐれない。
「最近は調子が良くなっていたのに、急にどうして?」
私は今は外側はアナスタシア。中身はヴァレリア。
最初はこの「アナスタシアの体」に憧れていた。
あの真っ黒な艶々の髪、白く透き通るような肌、そして漆黒の瞳。
(元は私もあのような見事な漆黒の瞳だった‥‥‥。レクター王子も珍しいと目を瞠るほど‥‥‥)
あの悪魔がいけないのよ! あのニーズヘッグ! おかげで私は‥‥‥
私はレクター王子に紫の瞳を気味悪がられて、女中にも両親にも距離を置かれて!! もう最悪だったわ!
でも今は、私はアナスタシアになった。あんなに憧れていた漆黒の瞳も手に入れた! なのに何故こんなに胸がザワザワするのかしら?
アナスタシアは自分の胸に手を当てる。
(何かしら? この胸のざわめきと違和感は)
王子の心がヴァレリアに奪われたから? いいえ、それはもういいの。元はといえば全部私の自業自得なのだ。
それに今は、ハンニバル様がいてくださるから‥‥‥
私は鏡を手に取る。美しい黒髪。美しい漆黒の瞳。
「ヴァレリア‥‥‥。私の体。アナスタシアの体が。私ではない誰かに狙われているような気がするの」
呟いて私はハッとする!
最近感じていた違和感の正体はそれだった! 私がアナスタシアの体を狙っていたように。またもや私の、アナスタシアの体を狙っている気配を感じる!
アナスタシア。貴女の体狙われすぎよ! 蓋を開けてみたらこんな虚弱体質のくせに! この国では珍しいこの黒い瞳と黒髪に憧れる人多すぎ! アナスタシアみたいになりたい人どんだけいるのよ! ぐぬぬぬ。
「ああ、ヴァレリア。ごめんなさい」
このところの調子の悪さも、この「アナスタシア」の体を狙う誰かに攻撃を仕掛けられているとしたら‥‥‥
感じる。私以上の完全な嫉妬と悪意を持って「アナスタシア」の体を狙う誰かの存在を。
もし今の私に何かあったらヴァレリアは‥‥‥ヴァレリア(元の私)はどうなるの!?
「ハンニバル様、助けて‥‥‥」
私は無意識にそう呟いていた。
* * *
『それでサラスィア、お前アデルとの契約はどうしたんだよ?』
俺様はニーズヘッグ。今悪魔サラスィアにダル絡みしてるれっきとした悪魔だ。この話の癒しキャラと言っても過言ではない!
『お前はさっきから何をブツブツ言っておるのじゃ? アデルとの契約はまだ保留じゃ。もう少し妹との時間を取り戻して欲しいしな』
何せアデルはルエラのためにだけ生きてきたのに、突然離されてしまったのじゃからな!
『へぇ〜、お前結構いいとこあるんじゃん。俺様ほどじゃないけど』
俺様達はオシリスの家でだべっていた。アデルの家はまだ落ち着かないからな。セクメトとホルスを見ててやってくれとオシリスに言われたのだ。
いやセクメトはまだわかるけどホルスは立派な大人だろ? 別に心配するような事はないと思うが? 何故かオシリスはホルスに甘いんだよな。
言ってたらホルスがセクメトを抱いてこちらにやって来た。
げっ! セクメト寝てたんじゃなかったのかよ?! 俺様こいつ苦手なんだよな。
『ん? なんじゃこの赤子は』
あ〜あ〜! サラスィアが興味示しちゃった。どうなっても知らんぞ俺様は。セクメトはギャン泣きすると近所迷惑になって周りからうんこ汁投げられるくらいうるさいんだぞ!!
「だあだあ、しぇくめと。しゃんしゃい!」
『ははは、おぬしはセクメトというのか』
と、サラスィアはホルスの腕からひょいとセクメトを抱いてしまった。ああああどうなっても知らんぞ! 俺様は来たるべきうんこ汁に備えてそこら辺にあった皿を盾にした。
シーン‥‥‥
あれ? 何も起こらないな? セクメトは知ってるやつ以外に抱かれるとギャン泣きして手がつけられないんだけど?
『がははは! ワシは大戦の折、お前とフレスベルグを喧嘩させようとしていた他にも色々しておったのじゃ! ヴァルハラに赴いてヴァルキリアの手伝いをしたりな』
はっ? はぁ〜〜〜〜!?
『ヴァルキリアは乙女である事が条件じゃが、ごくたまに恋に落ちて子どもを我らが寝床、ユグドラシルまで運んで育てる強者もおったのじゃ。それで、一番身軽なワシが時々手伝ってやっていたのじゃ! だから赤子の扱いには手慣れているぞ』
ええ〜?? そんな事ある? まさかサラスィアにそんな過去があったとは‥‥‥。
でもこいつ意外と壮絶な過去を経験してるんだよな。大戦後も人間界に馴染めずにずっとあの雪山で過ごしてたらしいし‥‥‥
俺様は一時神さま扱いされたけどこいつは‥‥‥
『お前、苦労したんだなぁ!!』
俺様は感動してサラスィアに抱きつく!!
『なっ、なんじゃ急に! せっかくセクメトが落ち着いているのじゃ。触るでない!』
「サラスィアさん、助かります。セクメトはこの歳になってもまだ抱っこ癖が抜けないみたいで」
ホルスが自分の肩を揉みながら困ったように笑う。
「お礼にお茶を淹れましょう。私達の故郷のメジェドを」
そう微笑むとホルスはキッチンへと足を向けた。
うんこ汁投げられるは当時の庶民達の水洗がまだ発展してなかったからなんですよね(急に歴史)
今回は相変わらずの性格のアナスタシアでしたが、本当は優しい子だって信じてる!
次回!激鈍お嬢様ヴァレリア様に辟易したエリーがついに!




