久しぶりの添い寝
レクターとヴァレリア様がただイチャイチャしてるだけのお話。レクターがかなり間抜けです。
〜回想終了後〜
「な、なんだそれ。そんな事あったのか!? 全然覚えてないぞ!」
てか俺の幼少期の言葉遣い生意気だなぁ〜。いやでもつい最近まであんな感じだったけど。
「でしょう? 私もすっかり忘れてたんです。あの頃の私は自分の体の事で頭がいっぱいで、すっかり忘れてましたわ!」
「ははは、お互い忘れていたのだな。俺もあの頃は勉強漬けの日々で頭がいっぱいだった気がする。懐かしいな」
あの頃の俺はよほど息抜きがしたかったのだろう。偽名まで名乗って身分を隠してまで‥‥‥
俺はヴァレリアの背中を拭きながら口を開いた。
「ヴァーリャ、何故そんな事を思い出したのだ? それになぜ俺だとわかったんだ?」
「うーん、昨夜‥‥‥。あまり寝付けなかったので。色々考えているうちに幼い頃の事を思い出していたんです。それで、あの子はもしかしてレクターじゃなかったのかと‥‥‥。明らかに浮世離れした格好で、独特の雰囲気がありましたし。それに何よりボサボサの栗色の髪と、吸い込まれそうな不思議な青い瞳は、レクターでしたわ」
恐らくもうあの頃から幼いながらにあの不思議な、レクター独特のオーラは出ていたのだわ。
「そうか‥‥‥」
俺ってそんなに髪ボサボサか? 一応手入れはしているのだが?
「そう思ったら、何か‥‥‥。今はレクターと婚約して、一緒に過ごしている事が不思議で、ダルヒルデが言っていた‥‥‥あるべきところとは」
「あるべきところ」とはそういう事なのかと思う。
ふむ。それにしてもヴァレリアはすごい熱だな。下がるどころか上がっていく一方だ。
「ヴァーリャ、待ってろ。喉が乾いただろう」
グイッ!
階下に降りようとする俺の腕をヴァレリアが引っ張って止めた。
「うむぅ〜! レクター! そばにいてくださいませ!」
「ははは、ヴァーリャは寂しがり屋だな。具合が悪くて心ぼそいのか?」
仕方がないな、魔法で出すか。てかなんで今まで魔法を使ってなかったんだ? ヴァーリャが具合悪いって聞いて気が動転していたからか。
「ヴァーリャ、ほら水だよ。飲めるか?」
「ううん‥‥‥」
起き上がるのも辛そうだな。無理に起こして余計具合が悪くなってもいかんしな。
はっ!? これはもしかしてフラグでは!? こういう時にありがちな口移しの!? いや今まで散々キスとかして来ましたけど。なんなら深いやつもしたけど!? しかも何回も。
「レクター?」
「ん? ヴァーリャ、どうした? 起きられるか?」
「うんん、自力では無理ですわ。ごめんなさい」
あら、お水‥‥‥。そういえば喉乾きましたわね。
「レクター、飲ませてくださらない?」
ほら来た! ベタな展開だ!? どっちだ!? 口移しか? 俺はどっちでも良いぞヴァーリャ!
「? レクター? 何ニヤニヤしてるんですか? 起こしてください。お水は自分で飲めますわ」
あ、そう? そんな感じになるんだ。期待した俺のバカ。
俺はヴァレリアの体をゆっくりと起こして、水を口に運ぶ。
「ん、ん。美味しいですわ。ただの水がこんなに美味しく感じるなんて」
「実はこの水はオシリスからもらった特別な水なんだ。なんでもオシリスの故郷でたくさん取れるハチミツが入っているみたいでな。思わぬところで役に立ってよかったよ」
「もう少し飲みたいです」
「いいよ。そのかわりゆっくりな」
「んっ、ゲホゲホ!」
「ヴァーリャ! 言わないこっちゃない。大丈夫か?」
「はぁ、はぁ‥‥‥。レクター、大丈夫ですわ」
「無理をするなよ、水なら俺が飲ませてやるから」
俺はヴァレリアの体をゆっくりと横たえさせた。ヴァレリアは長く息をついた。
「うん、やはりこの体制が一番落ち着きますわ。急に起き上がったので体が驚いたのでしょうね」
「ヴァーリャ、まだ水はいるか?」
「うん‥‥‥」
ふとレクターの瞳を見つめる。青い色がゆらゆらして、とても綺麗‥‥‥
「ヴァーリャ、そんな顔をするな。すぐに良くなるから」
レクターは何事か唱えると、持っている水に手を翳した。
【眠りを眠れ 幸せなヴァレリア
世の人のごと 眠りかつ微笑め
眠りを眠れ 幸せな眠りを
病は去り あなたを見ては
眠りを眠れ 幸せなヴァレリア】
「うん、これで良くなると思う。最初からこうしておけば良かったな。あはは。ヴァーリャが具合が悪いと聞いて、どうやら俺はかなり冷静さを欠いていたらしい」
(レクター、何をするの?)
私がぼーっとしていると、レクターの大きな体が私の上に覆い被さってきた。
「ヴァーリャ。そんな不安そうにしないで。目を閉じて‥‥‥」
「んっ‥‥‥」
あ、レクターの唇‥‥‥。あ、さっきの甘いお水‥‥‥が流れてくる。気持ちいいな‥‥‥
ヴァレリアから唇を離し、俺は先程の呪文を呟く。
【眠りを眠れ 幸せなヴァレリア
世の人のごと 眠りかつ微笑め‥‥‥】
すぅ‥‥‥。とヴァレリアは眠り、顔色が良くなる。本当に何故最初から魔法を使っていなかったのか?
とはいえ、汗はかいているので俺はせっせと汗を拭き、布団越しに寝巻きを着替えさせ、また汗をかいたら拭き、着替えさせる。というのを繰り返した。
もちろんその間は何もしていないぞ!
柔らかくていい匂いがしたけども!!
ヴァレリア‥‥‥
俺はヴァレリアの寝顔をもう一度見る。この様子はもう大丈夫か? 呪文が効いたかな?
ふと手元を見ると、ヴァレリアは俺の手の裾を握ったまま寝ていた。
(行かないで‥‥‥レクター。側にいて‥‥‥)
ああ、どこにも行かないよ。ヴァーリャ。
俺はヴァレリアのおでこにキスをし、久しぶりに添い寝をした。
ヴァレリアの顔が嬉しそうにほころんで、俺の体に擦り寄って来た。
(ひょっとして、ヴァーリャはこれを求めていたのかもしれんな)
そう思うとますます愛しくなって、その小さな体を抱きしめた。
「気付けなくてごめんな、ヴァーリャ」
愛してるよ‥‥‥
毎回毎回何をやってるんですかねこの二人は。
見てるこっちが恥ずかしいんですが。でもこういうのが好きなの( ;∀;)




