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ヴァレリアとアナスタシア  作者: 杉野仁美
第五章 拗れる心

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アナスタシアと王子の幼少期

※このお話はヴァレリア様が幼い頃に王子に会ったときのことです。視点が少しウロウロします。


ヴァレリア様はまだ体がアナスタシアの時です。

 サヴォエラ領・アナスタシアの館にて‥‥‥。慌てる女中達の声がそこら辺で聞こえてきた。


「お嬢様はどこへ行ったんですの!?」


「あなたが最後に見たのではないの!?」


「私はお嬢様の衣服の洗濯をしてましたよ!」


「「「全くあのお嬢様は!! 少し具合が良くなるとすぐに出ていってしまうんだから!!」」」


 だから嫌なのよ!!!! アナスタシア様は全然言う事聞かないから!!!!泣


 * * *


 私はアナスタシア! 虚弱体質で普段はベッドがお友達なのだけど、今日はお天気もいいし体調もいいのでこっそりお城を抜け出してきたの!


 でも普段寝てばかりだから体力が無くてもうへばっちゃった。


 前から登ってみたかった木によじ登って、登ったはいいものの降りる体力が尽きたのよね。

 どうしようかしら‥‥‥


「おい」


 そこへ少年のような不機嫌そうな声が聞こえてきた。


「おい、お前」


 声は足元からしてくる。何かしら?


 見ると足元から一人の男の子が仏頂面を下げてこちらを見上げていた。


「あら! あなたも木のぼりをしに来たの?」


「? 俺はあいにくそのような野蛮な遊びはしない。それよりお前パンツ(パニエ)が丸見えだぞ」


「えっ! うわぁ!」


 落ちる! ヤダヤダ骨が折れたりしたらまた寝たきり生活に戻っちゃう!


 私はぎゅっと目を閉じ、やがて訪れる衝撃に備えた!


 ‥‥‥。衝撃が‥‥‥来ない??


 目を開けると先程の少年が私を抱き止めてくれていた。男の子はこちらを心配そうに?じゃないか。不機嫌そうに覗きこんでいた。間近で見る男の子はボサボサの栗色の髪に、透き通った青い海のような瞳をしていた。その深い青に吸い込まれそうな、不思議な色をしている‥‥‥


そういえば、私同じ年頃の男の子と話した事ないわ!


「何急に落ちてんだ。びっくりするだろうが」


 少年は呆れながらも私を優しく地面にそっと横たえさせてくれた!


 えっえっ!? 一瞬の事でわからなかったけど私の事助けてくれたの!? ありがとう!


「あなた私の事助けてくれたのね。ありがとう!」


「どうという事はない。パンツ丸出しで木に引っかかってる女が珍しくて観察してただけだ。よかったなお前。俺がたまたま見ていて」


 なんかこの男の子、偉そうだなぁ。


「今日はここへ狩りをしに来たのだがな。まさか先客がいたとは」


 そう言って少年は私の隣に腰を下ろして、弓を取り出し手入れをし始めた。


「さてどうしようか」


 む? この子は何を言っているのかしら? あ! それよりせっかく同じ年頃の男の子がいるのだもの! お友達を作るチャンスだわ!


「あ、あなたの名前は!? お友達になりましょうよ! 私いつも寝てばかりだからお友達が一人もいないの!」


 私がそう言うと、男の子はあからさまに嫌そうな顔をした。ん? そんなに私とお友達になるのが嫌なのかしら?


「友達などいなくて良いだろう。ただでさえ覚える事が多いと言うのにブツブツ‥‥‥」


 覚える事? この少年は先程から何を言っているのかしら?


「でも私は欲しいですわ。女中とは話が合わなくて」


「お前女中なんていたのか。ふーん」


 そう言うと少年は、私の上から下までをまるで品定めでもするかのようにジロジロ見始めた。


 なんなのさっきから! 失礼な子ね!


(ふむ、よく見るとこの髪の色と瞳の色は珍しいな。女中もいるちゃんとしたところのお嬢様みたいだし、いずれは俺の婚約者候補になるのだろうか?)


 俺は少女の黒い髪と黒い瞳を眺めて考えを巡らせていた。


「私はナーシャ! よろしくね!」


 仲良くしてくれるといいんだけど‥‥‥。私は手を差し出した。


「フン、お友達ねぇ‥‥‥。俺はレ‥‥‥オスカーだ。よろしく、ドジっ子」


「まぁ! 私はナーシャですわ! ドジっ子じゃなくてよ!」


「フン、木によじ登って降りられなくなったのだろう? 計画性が全くないドジっ子だよ。女中もいるいいところのお嬢様が何をやってんだか。見たところお前一人だし」


 と少年は肩をすくめる。


「だって今日は特別調子がよかったのですもの。女中がいたら外にも出れないの」


 私はふと少年の持っている弓に目を向けた。


「ねぇねぇ! それ、何に使うの??」


 めんどくせぇな。という感じで少年は私を見る。


「‥‥‥。狩りをする道具だよ。鹿や鳥をこれでしとめるんだ」


「へぇ〜!! 狩り!? どうやってするんですの!?」


「ふん、お前みたいな子どもにできるわけがなかろう。まぁいい。見せてやろう」


 子どもって‥‥‥。自分も子どものくせに。さっきから変な子ね。


「ちょうどあそこに鹿がいる。あいつを仕留める。見てろ」


 そう言うと少年は弓の場所をピタリと鹿に当てがった。何をするんだろう‥‥‥


 ギリギリと少年が弓を引く音が聞こえる。嫌な予感がして私はその手を咄嗟に止めた!


「待って待って! 何をするのかわかったわ! 可哀想よ! やめて!」


 なっ‥‥‥


「何をするんだ! 危ないだろ!」


 私たちが騒いでいる音に驚いて鹿が逃げて行った。


「ご、ごめん。でもあなたあの鹿を傷つけるつもりだったみたいだったから!」


「ハァ、それで可哀想だから止めたのか。今日はなんでも良いから肉が食べたかったのだがな。まあ良い」


 野生動物が撃たれて可哀想など聞いた事ないぞ。変わったやつだな。


「もう狩りはやめた。やろうとしてもお前に止められるしな」


 そう言うと少年はそこら辺の草むらにどっかりと寝転んだ。


「わぁ! そんな事していいの!? 私もやろう!」


 はぁ? 草むらに横になったこともないのかこのお嬢様は? どんだけお嬢様だよ。まぁ俺も人の事言えないが。従者は怒るだろうな。また衣服が汚れるような事をしてと‥‥‥


「わぁ〜! 私こんな事したの初めてですわ」


 案の定綺麗なドレスが土で汚れてしまった。


「あはは! 汚れてしまったわ! あとで女中に怒られるわね! でも楽しいわ。オスカーありがとう」


「別に‥‥‥。あ、そうだ。お前魔法って見た事あるか?」


「魔法?! 大昔に魔法使いと魔物との戦いがあったとは聞いてますけど、まだ使える方がいるんですの?!」


 なんだこいつ。本当に何も知らないんだな。


「ふん。むしろ使えない人間の方が珍しいよ。各地に魔法専門の学校があるくらいだ。まぁもちろん、全く使えないやつもいるがな」


 ふーん? 魔法専門の学校?? 聞いた事ないけど、ここの領地もどこかにそんな学校があるのかしら?


「魔法を見せてやるよ。お前普段は一日中寝てるんだろ? 俺の手を見てろ」


 オスカーの手から光が溢れ、その光から小さなドラゴンを出してみせた!


「わぁ! 可愛い!」


「クルル!」


「ふん、どうだ。これが魔法だよ。そのドラゴンは一日で消えるが、一日中寝てるお前のそばに置いておけば多少の慰めになるだろう」


「わぁ〜! 嬉しいわオスカー! でも何故? 何故私が一日中寝てるってわかったんですの?」


「ふん、お前が言ったのであろう。『今日は特別調子が良い』と。それにお前の顔色はいくら調子が良いと言っても病人のそれだ。一刻も早くそいつを連れて戻った方がいい。女中も心配しているだろう」


 なっ、なんでこの子! そんな事まで分かるの??


「まぁ色々と勉強しているのでな。医学の知識も多少はある」


 お嬢様〜!!


 遠くから女中の私を呼ぶ声が聞こえて来た。もう見つかったわ! でもだいぶ疲れて来たから丁度よかったのかも。


「お、オスカー! ありがとね! この可愛いドラゴンも!」


「ああ、気を付けて帰れよ」


「ありがとう! またね」


 そう手を振って少女は女中とやらに半ば引きずられるようにして帰って行った。


 フン、変わったやつだったな。ナーシャと言ったか? またね、と言っていたが‥‥‥。また会える日が来るのかな。


 さて、俺もそろそろ帰るか。勉強が山のように残っているからな。


「あと回しにする方がよほど(こた)えるしな」


 お友達か‥‥‥


 俺は今まで感じたことのない感覚にしばらく浸っていた。


 俺はナーシャと同じように従者の目を盗んで窓から抜け出して来たので、後から死ぬほど怒られたのは言うまでもない。


レクターが偽名を使っていたのは自分が第一王子なのを隠すためです。


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