とりあえず一段落
「それじゃ。親父、俺はルエラの元に一旦戻るから。大丈夫か? その、一人で‥‥‥」
「ああ。何とかなるさ。それとも俺がグレースの後追いをするか心配なのか? ハハッ、一時期はそれも考えたが‥‥‥。今はもう違う。俺も、お前たちも、少しずつ前を向いて歩いていこう。きっとグレースはずっと前から俺に呼びかけてくれていたのにな。気がつかなかった。本当に馬鹿な男だよ俺は」
アーサーはつきものが落ちたようだった。先程までの狂気は、もうどこにも感じられない。
「親父‥‥‥」
『アデル〜! そろそろ行くぞ! 王子がルエラを治療しとるのじゃ! 兄であるお前が治療を王子に任せてどうする?』
サラスィアがアデルを呼びに来た。
「えっ!? 王子が!? そそそそそれは大変申し訳ない! 急いで戻らなければ!」
「ルエラ?」
アーサーがサラスィアを見て目を見開いていた。
『おー、アデルから聞いたがワシはルエラの幼い頃にそっくりらしいのぉ。まぁたまにはこの貧乏屋敷に遊びに来るから安心せい。そうしたら寂しくないじゃろ?』
アーサーがサラスィアの言葉に困惑しているのを無視し、サラスィアはアデルを連れてさっさと去ってしまった。
【まぁたまにはこの貧乏屋敷に遊びに来るから安心せい。そうしたら寂しくないじゃろ?】
アーサーは少女の言葉を反芻していた。確かに、グレースも子どもたちもいないこの貧乏屋敷は、いくら狭いとはいえ寂しすぎる。
あの少女は、アデルと同じく俺を心配してくれたのだろうか‥‥‥
なんだろう、この暖かい気持ちは。こんな感覚は久しぶりだ。今なら何でもやれそうな気がする。グレース、見ていてくれ。これからの俺を。
俺はもう二度と間違いを犯したりしない!
木々が揺れ、いないはずのグレースが微笑んだ気がした。
* * *
バァン!!
オシリスの酒場の二階でエリーと共にルエラを診ていたレクター。そこに慌ててアデルが入って来た!
「王子! ルエラの治療を任せてすみません! 何とお礼をしていいか‥‥‥」
「アデルおかえり。もう用事は済んだのか? 親父さんとの決着は?」
レクターは極めて冷静だった。
レクターがルエラを抱えた時に、アデルは自分の親父と対峙する気だったからだ。アデルの決意を無にする気は、レクターにはハナから無かった。
「は、はい。ヴァレリアさんとニーズヘッグと、サラスィアのおかげで何とかなりました。親父はすっかり正気を取り戻しました」
「ヴァレリア!? そうだ、ヴァレリアは無事なのか!?」
言うが早いかレクターは階下にバタバタと足早に降りて行った。ヴァレリアのことになると王子は必死だ。
「ヴァーリャ! 無事だったか!? 怪我などしていないか?!」
「レクター! お久しぶりですわ!」
ヴァレリアはレクターの元に駆け寄り、その手を握る。
『いやそんな久しくないだろ! たったの数分だぜ!?』
『ニーズヘッグ、今は二人にさせてやろう』
いつのまにかカウンター席についていたサラスィアが手招きをしていた。
『お前お前お前! 一丁前に仕切りやがって!』
そう言いながらもニーズヘッグは大人しくカウンターに行く。
「おかえり、小さな勇者さんたち」
オシリスはそう言いながらサラスィアとニーズヘッグにジュースを渡した。
『オシリス! 俺様には酒じゃねぇのかよ!!』
「ははは、気持ちはわかるが王子からの御達しだ。ニーズに酒を飲ませるなと。ごめんな?」
『むむむ〜! ヴァーリャが俺様と契約してるからか。相変わらずヴァーリャの事となると王子は必死だな!』
契約と聞いてサラスィアはピクリと体を揺らした。
『なあ! ニーズヘッグ! ワシもアデルと契約したいんだがどうすればいいのじゃ??』
『はぁ? お前あのクソ真面目で退屈で口下手な髪ボサボサ顔だけ男と契約したいのか?? 一体なぜ?』
サラスィアは頬を掻きながら答える。
『そ、それは‥‥‥。アデルが心配だからじゃ。あいつとは少ししか会話してないが、あいつが初めてだったんじゃ。この名の由来を話せたのは』
『この名ってサラスィアか?』
『うん、アデルは何かワシと似たような感じがするのじゃ。いやとにかくワシはアデルのそばにいたいのじゃ! あいつの無鉄砲なところも、ワシがセーブしてやりたいし』
『ほぉん? まぁいいんじゃねぇの? お前らなんだかんだで仲良しだし。そのかわり契約の主をアデルと相談して決めろよ! 俺様は初めは契約の主は俺様だったけど、王子が俺様の魔力を弱めてさ〜、今はヴァーリャが契約の主だ。まぁ色々あったけど俺様は結果オーライだと思ってるぜ!』
(ヴァーリャの谷間は独占できるしグヘヘ)
『ニーズヘッグ? 契約の話で何故そんな締まりのない顔をしているのじゃ? まぁええわ、ルエラの治療が終わったらアデルに聞いてみよう』




