アデルの家にて・二
前回の続きです。
アデルの家にたどり着いた一行。親切なおばさんがルエラの元を離れた隙にルエラを奪還しようとするアデルと王子。
居残り組のニーズヘッグは早速めんどくさそうにしていた。
『でもさぁ、よく考えたら大袈裟じゃね? いくら毒親とはいえただの人間だろ? わざわざ王子がついていくような事かぁ? まぁ別に王子が決めた事ならいいんだけどさ。ああ〜! 俺様はさっさとルエラを救出して柔らかい布団で寝たいなぁ』
ヴァレリアと同化したニーズヘッグが大きな翼を長くなった爪でいじりながら言う。
『お前は相変わらず他人の事になるとどうでもよくなるんじゃのぉ。大戦の時にもお前は巻き込まれたくなくて、地中に潜っておったし』
『お前も俺様の事言えねぇだろ!』
ニーズヘッグ(ヴァレリア)がサラスィアに牙を向ける。ヴァレリアにはドラゴンに変身後よくありがちな鋭く尖った犬歯が生えていた。
「お待たせ! 帰ってきたぞ!」
声のした方を見ると王子がルエラを抱えて立っていた。
『おわぁ!! 王子! 本当にすげぇ早! 早すぎて草! てかくせぇ! 何だこのにおいは!?』
「ああ、多分この子だろう。可哀想に。便器がそのままになっていた。弱りきっている。早く帰って青い薔薇を煎じたお茶を飲ませよう」
王子は悲しげに自分が抱えているルエラに目を向ける。
なんて軽いんだ‥‥‥
『アデルは?』
「ああ、アデルはルエラを俺に任せて親父と対峙中だ」
『はあ?! 大丈夫なのかそれは! アデル!』
王子の言葉を聞いたサラスィアが慌ててアデルがいる方へ向かう!
『サラスィア! チッ、あいつ弱いくせに! 何しに行く気だよ!』
「あ、ヴァーリャ!! お前は行くな!」
ヴァレリア、正確にはヴァレリアと同化したニーズヘッグがサラスィアのあとを追った!
「ニーズヘッグ! 余計な事をするな! これはアデルと父親の問題だ」
『俺様が心配してるのはあの無力なサラスィアなの! アデルの事なんか知った事か!』
「じゃあせめて変身を解いていけよ!」
『今のヴァーリャは俺様と気持ちが一緒だからそれは無理!』
あっという間にその場にポツンと取り残されてしまった王子。
「まっ‥‥‥! 全くあのお嬢様はァァァァ!! もぉぉぉ!!」
ルエラを抱いたまま王子が地団駄を踏んだ。
* * *
王子がルエラを抱えてニーズヘッグたちの元に戻る少し前の事だった。
アデルの案内でたどり着いたルエラの部屋。その有様は酷いものだった。
一日中日の当たらない部屋に、小さな固いベッド。その上で微かに息をしている銀色の髪のルエラは可哀想なほど痩せ細り、病人独特の悪臭を放っていた。
アデルがゆっくりとベッドの傍に立つ。
「ルエラ‥‥‥。ずっとほったらかしにしていてすまなかった。お前の病気に効く花を摘んでいたんだ」
眠っているルエラにアデルが話しかける。
「アデル、感動の再会はあとだ。今は一刻を争う。ルエラの命が尽きる前に青い薔薇を飲ませなければ」
「あ、ああ。ありがとうございます」
冷静な王子が素早く毛布にルエラをくるんで抱きかかえたその時‥‥‥
「誰だ!」
声のする方を見ると、アデルとルエラの父親、アーサーが立っていた。
アデルは驚いていた。
何故親父が!? ルエラの部屋は隔離しておばさん以外滅多に立ち寄らないのに‥‥‥
「そろそろ終わりにしようと思ってわざわざこの部屋に来たのに」
終わりにしよう?
「親父、それはどういう意味だ?」
「‥‥‥ん? 親父? お前はアデルか? てっきりそこら辺でのたれ死んでいたかと思っていたのに、生きていたのか?」
のたれ死ぬ? 終わりにする? さっきから親父は何を言っているんだ?
「ははははは! お前たち双子は、いつも俺とグレースの邪魔をするんだな!! いつもいつも! お前たち双子が生まれたときからずっと!!」
親父‥‥‥
アーサーの手には、ナイフが握られていた。
「ははは‥‥‥。今日は、ルエラを殺しにきたんだよ。初めからこうすればよかったんだ! お前たちは、グレースを殺したんだから!」
何故、この二人を生かしておいたのだろう? この二人を生かしていても、何にもならなかったのに! グレースも生き返らないのに!
「それともあの時の俺には、まだ人間の心があったのか?」
いや、心なんて‥‥‥。グレースを失った時からとっくに無くしていた。
「お前たち双子が、生まれたからグレースは死んだんだよ‥‥‥。お前たちが、生まれて来なければ‥‥‥」
アーサーの頬には大粒の涙が伝っていた。
「アデル、無視しろ。もうお前の親父は親父であって親父じゃない! 行くぞ!」
お前たち双子が、生まれたからグレースは死んだんだよ‥‥‥
お前たちが、生まれて来なければ‥‥‥。
【生まれてきちゃ、いけなかった。望まれてなんか‥‥‥いなかった】
違う!! 生まれて来なければ良かった命なんて無い!!
「アデル!」
「王子! ルエラを頼みます! 俺と親父とは、まともに会話した事がないんです」
もちろんまともに喧嘩した事も一度もない。でもそれは、俺が悪かったんです。
親父の声をまともに聞くつもりもなくて‥‥‥
親父からも自分からも逃げていた!
でもあの子は、サラスィアは、それすらも出来ず。酷い言葉を浴びせられて死んで行った!
「俺は、もう目を逸らさない。サラスィアのために。ルエラのために!」
サラスィア? ああ、あの裸足の悪魔か? あの子と何かあったのか。
「‥‥‥。そうか。アデル、お前を信じるぞ!」
アデル、お前はもう一人じゃない。お前が少しずつ人を信じるようになったように、俺もお前の選択を信じよう‥‥‥
「はい! どうかルエラを、よろしくお願いします!」
アデルはそう言うと、目の前にいる自分の父親アーサーと向き合った。
レクター笑
初めてレクターに同情しましたよ私は。
すみません前回とあんま変わってないですよね汗
なんかサラスィアやらヴァレリアがやらかすような気がするんですよね。
良い話で終わると良いんですが‥‥‥
またもや短めですみません!
ここまでお読みくださってありがとうございました!




