28話
1月2日。
クリスマス以来、毎日お父さんとお父さんがお見舞いに来てくれる。
樹里と一緒に。
最近、僕は昼の間、ボーっとしてしまう。
みんなの会話も頭に入ってこない。
でも、楽しかった。
だからずっと笑っていた。
会話内容よりも、ただ誰かが隣にいて楽しそうにしてるだけで、僕も楽しかった。
楽しいってことは、そんなものなんだと、また新しい発見があった。
夜になると多少意識がハッキリする。
体ももう思うように動かないので長居さんがずっと世話をしてくれる。
他の看護師さんもいろいろしてくれるけど、最後までいるのはいつも長居さんだ。
「長居さん」
「何?」
「樹里って、今いますか?」
何気なく訪ねた。
「いるわよ、話す?」
「はい」
舌を動かすのも面倒だけど、今、とにかく話したかった。
明日になればもう会話ができないかもしれない。だから話せる時間は、全て樹里と話すことに使いたい。
「なに? 有希くん」
「うん……何も、とくに思いつかないんだけど」
何気なしに、思いついたことを聞いてみる。
「樹里は今でも僕のことが好きなのかな、とか思って」
「……それじゃ、疑うなら言うけど」
長居さんはちょっとすねたような口調で言う。
「多分、有希くんよりは私のほうが好きだと思う」
「僕がどれくらい好きかなんて、なんでわかるの?」
「だって、私は疑ってないから」
僕は、一瞬息を呑んだ。
その間に樹里、は続ける。
「君が好きか嫌いかなんて関係ない。そんなことで私の気持ちは変わらない」
「……」
「そう、有希くんが私を嫌いでも、私はずっと有希くんが好き」
「樹里を嫌いになんて、ならないよ」
「うん。でも、嫌われたら悲しくはなるけどね。でも、私の気持ちは変わらない」
お手上げだ。
もう僕は樹里にかなわない。
こんな女の子を嫌いになれる人などいないだろう。
僕は、僕が幸せな人間なんだということを、今知った。
僕は、手術を受けたくない気持ちと戦っていた。
恐怖、からじゃない。
失敗したら死ぬ、と言われたから。
それなら、受けずに少しでも長く、みんなと一緒にいられないか。
そんなことを考えた。
でも、そろそろ僕はもたない。
日ごとに意識が遠くなる。
だから、もう待つだけだ。
明後日の手術を。