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ホワイト-white-  作者: サクラダファミリア
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ホワイト9


       *****

 のんの両親はいなかった。

 つまり、他の出来事で亡くなったのだ。

 なぜだろう。莉亜は成功したのになんで戻ってくれないんだろう。

「なんで両親は死んじゃったの?」

 駄目元で聞いてみた。もちろんその答えは、

「2年前になんか死んじゃったの」

 と、答えを教えてはくれない。

「もうそういう話はいいだろ、なぁ。おいっ!」

 この話をするとのんは狂う。自分でも何言ってるのか分かってないんじゃないのか。

「分かった。ごめん俺が悪かった。もうこの話はしない。」

 そう言うと機嫌が治る。

「分かったならいいんだ。分かったなら。」

 僕はなんとなく視線を下げる。そこには、さっき借りてきた2年前の7月14日の新聞があった。僕は下を向きながらその新聞を見る。


 分かったよ神様。どうして莉亜と僕を選んだのか。

 やっぱり理由があったんだね。


 のんの両親がいないのには、理由はあった。

 しかし、その理由は知りたくなかった。7月14日、莉亜が未来を変えた日、それと同時に新しい未来ができた。

 と、そこへ泉もやってきた。

 二音は新聞紙をさりげなく学校用のかばんに入れる。

 幸い泉ものんも気づかなかった。

「遅いよ、二音。俺らがどれだけ待ったか分かってんのか。」

 殴られる。別に痛くない。このくらいはシュートしたバスケットボールが自分の頭によくぶつかるので慣れてる。

 そのおかげで少し石頭になったかも。

「それにしても二音が見つかってよかった。この緊急事態で二音がいなくなったらちょっとやばかったよ。」

 泉が笑いながら言う。

「明日は白川中に行くんだぞ。忘れんなよ。」

 忘れるか、と泉が言う。

 白川中とは、僕達が通っていた中学校だ。なんとその近くに日光高校もあると言うからビックリだ。

 日光高校は、泉の通っている高校で、泉の先輩に値する六木あんがいるかもしれないから。とりあえず行ってみることにする。

「じゃあ、無事二音がいたと言うことで今日は解散。また明日」

 僕達は別々の方向に進んでいった。

 二音は自分の部屋に行った。

 向かう途中、母に声をかけられて今まで外にいた理由を説明した。

 それは、いきなり9時まで帰ってこなかったらビックリするだろう。母はとても心配してたようで警察にまで連絡してしまいちょっとした事件になった。

 二音は机に座った。

 そして机の上においてあったものを見る。

 ノートだ。かなり使い込んである。

 思い出した。これは、莉亜が書いてたノートではないか。

 確かさっき、莉亜は、「使えそうなものを置いといた」とか言ってたな。これのことだったのかもしれない。

 前にも見た通り、ノートには小さくてまぁまぁきれいな字がたくさん並んでいた。

 案外、晴のことしか書いてないのかなと思ったら秦のことも香苗のことも書いてあった。ちゃんとここにおいていくことまで考えてノートをまとめたんだなと感心する。

 よく見ると、部屋はキレイに整頓されていた。莉亜が昨日ここにいたと言う証拠だ。ここまで整頓されたのはこの部屋が何もなかったとき以来かもしれない。

 1番下のパソコンの入っている引き出しをあけると、そこには写真が入っていた。

 それを見てみる。

 真ん中に、二音。そしてその隣に、莉亜。後ろには泉やのんや、晴がいる。

 今の僕らにしては背が小さい。そしてなぜか秦がいる。

 二音は結局借りてきた『紀伊町連続殺人事件について』を見直す。

 やっぱり。この写真は、莉亜が過去に戻った後に撮った2年前の花火大会での写真だ。二音は知らないが、莉亜は秦も助けようとしたのか。

 その証拠にこのノートには花火大会中に殺されると書いてあるのに、こっちの『紀伊町連続殺人事件について』には、花火大会の後に殺されたと書いてある。

 きっと莉亜は花火大会の後に殺されるとまでは考えてなかっただろう。

 でも、秦までも助けようとしたのには驚いた。そして感心した。

 二音はなんとなく次の1行も読んでみた。

・この事件では、警察は犯人が桜田莉亜(当時16歳)として取調べを行った。

 きっと莉亜は花火大会の後にも殺されることは考えていたのかもしれない。この本によると、この部屋のいたるところに莉亜の指紋や血痕が残っていたらしい。そういえば、喫茶で話していたとき、2年前に今でも残る傷を手首にしたとか言ってたな。

 もしかして、莉亜は犯人に遭遇したのかもしれない。そこで犯人に追い詰められて犯人の持っていたナイフで手首を刺されたとか。

 実際、ナイフにも莉亜の血痕は残ってたらしいし。

 警察は犯人は莉亜ではないと判断したらしい。

 僕はとっさにメールを打った。

 気がつくと時刻はもう12時を回っていた。明日もいろいろあるし、今日もたくさんのことが目まぐるしく起きたのでベットに倒れて寝てしまったらしい。

 気づけば部屋は明るかった。


       *****

 目覚ましの音を聞き逃してしまった。

 今日は夏休み前最後の登校日だ。そして3学期制なので1学期終了でもある。

 とはいっても、午前授業?だし夏休みと変わんない。

 今年の夏は疲れそうだ。

 まず、のんをとにかく助けなければいけない。ここで死んでもらっては困る。その後、僕は誰としゃべっていけばいいんだ?

 二音は、高校の入学式のことを思い出した。

 僕ら3人は、今泉が通っている日光高校を目指していた。

 泉とのんは、以外とおちゃらけていても勉強はできるほうだった。そのため、日光高校への進学はほぼ100パーセント決まっていた。

 しかし問題は二音だった。休み時間にいくらまじめそうに本を読んでいても、いくらまじめでもとにかく記憶力がなかった。そのため、どんなに勉強したっていい成果が出せない。いざと言うときに思い出せない。

 それが原因だった。

 泉とのんは日光高校に受かった。しかし、二音は落ちた。あと5点高かったら受かってたと言われた。

 泉は受かってすぐに願書を出したらしい。しかしどういうわけかのんは二音と同じレベルの低い紀伊高校に進学した。

「なんでこっちにしたの。にったかの方が絶対よかったじゃん。」

 二音はそう聞いた。『にったか』とは、日光高校のことだ。別に全然長くもないこの単語の略は誰が考えたんだろうか。

「僕は二音と一緒に進学したかったからだよ。それに紀伊高校には紀伊高校のいいところがあるもん」

 のんが2年前に引いたおみくじは「それぞれの良いところ」だった。

 これを引いた時からずっとこの言葉をよく使っている。よっぽど気に入ったんだな。二音もあの言葉は気に入った。

「確かにそれもそうだな。泉と別れるのは嫌だけどこれからもお互い支え合おうね。」

 それからはあっという間に時が進んだみたいだ。

 あっという間だった。にったかよりも距離が近いし電車に乗らなくてもいけるので意外といいなと思った。

 でももっと意外に思ったのが津也が紀伊高校に来たことだ。

 昨日、莉亜が掃除してくれたためか、カーテンの隙間からキレイな朝日が伸びている。

 その光が目に入る。まぶしっ、と呟いた。微かに残像が残る。写真のフラッシュと同じ残像だった。目も体もこのベッドから動きたくないと言っている。

 この緑色の掛け布団が暖かく感じる。

「起きてー!遅刻するよー」

 夏休み前最後の1日、夏休み最初の1日のために立ち上がった。

 緑のリュックを背負ってのんのいないバスに乗った。最後くらい来ればいいのに。

 正門の前はやはり賑わっていた。二音は、その賑わいを無視して中へ中へと突き進んだ。

 正門は、いつも以上に賑わっていたらしい。高3生なんかは、肩を組んで陽気に歌っていた。この賑わいには、先生方も指導している。

 バスケ部の2年生の先輩に聞いたところ、休み前はいつもあんな感じだそうだ。1、2、3、年生、あるいは教師までこの賑わいを楽しんでいるようだ。

 そんなことお構いなく、二音は教室に入った。

 中には、誰もいなかった。

 いつもなら10人はいてもいいのに。

 いや、しいて言うなら一人いた。先生だ。担任の先生。

「二音君。これからの夏休みは、大変だと思うけど頑張れよ。先生も応援してるから。」

 実は、昨日呼び出されて先生には話してしまった。先生も絶対に言わないと言ったし、二音も信じていたから話したのだ。

 そして、もっと言うと今日を二音だけ午前授業にしてくれたのも先生だ。母には、心配をかけたくないといったらすぐに許してくれた。

 今日、本当は午後に終業式や通知表伝達などがあるが、それも免除させてもらった。

 この1年生というタイミングでこの先生に会えたのは嬉しかった。

 僕はそういう意味も込めて「はい」と力強く返事をした。

「それじゃあ、成績表を渡します。1学期は、よく前を向き続けられました。2学期もちゃんと来てくださいね。」

 先生は、元気よく言った・・・つもりなのだろう。二音からは、とても寂しく聞こえた。

 先生は、成績表を渡すと出て行った。

 二音一人だけになった。教室の静けさや、悲しみもどっと降り注いでくる。

 二音は恐る恐る成績表を開いた。そして、先生のコメント欄を見た。

 そこには、「諦めるな、信じてろ」と書かれていた。

 それは確か、1年前、の夏祭りで引いたくじと同じだった。


諦めず信じ続けていればきっといつか

 

 何でだろう。僕はこの言葉に何回救われ、何回裏切られたことか。

 僕は、この言葉を信じて諦めずに受験勉強をしたのだ。それなのに受からなかった。

 僕はこの言葉が嫌いだ。

 何の根拠もなく、ただただなんとなく思ったから、口にしているようなものだろう。

 続々と人が入ってきた。

 チャイムが鳴ったからだろう。

 そしていつも通りあっという間に12時になり、昨日の約束の場所、白川中にやってきた。

 見慣れた風景だ。3年間も過ごしたんだもの。忘れるはずがない。

 そして、案の定、二音より先に来ていた人がいた。



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