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Vol.6:ブックハンター再結集

シドは何とかお宝を取り返せたのでした。

「全員集まったかな」

 年が明けて間も無い頃、都心から離れた郊外のとある古い小屋にミミミは彼らを呼び寄せた。どうやらここは数年前から使われていない様で、窓は壊れていて誰でも入る事が出来る様になっている。四人は今にも脚が折れそうな軋む円卓を囲んでいた。

 彼女は両肘をテーブルに突き、組んだ指の上に顎を乗せている。目は鋭く据わっていた。どこぞの特務機関の代行司令官の真似でもしているのだろうか。

「じゃあまずは……とりあえずチン……点呼でもするか」

「……」

 彼女の言い間違いには誰も反応しない。

「1」

 ゴスロリファッションの女が挙手した。二十代前半に見える、まだ若い女だ。

「2」

 続いてその隣に座る中国系の男が小さく手を上げる。やや恥ずかしそうだ。

「……」

 一同の間にしばしの沈黙が流れる。シドがたまらずミミミを見ると、彼女は顎で合図を出してきた。お前の番だろ、と言っている。

「……さ、3……」

 気まずそうにゆっくりと腕を上げた。

()番、セカンド、私」

 全員の挙手を確認してからミミミは野球のウグイス嬢の如く抑揚の無い声で名乗りを上げる。

「……」

 やはり誰もツッコまない。

「全員で4人か。見ればわかるけど」

「ねえ何!? 何な訳!?」

 しかし耐えられなくなったのか、中国系の男が突然席を立った。

「何で前と同じ流れやってんの!? 何か俺恥ずかしいんだけど! 嫌がらせ!? 嫌がらせなのか!?」

「えっ……何の事?」

「とぼけんな! とぼけんなよクソガキ!」

「えっ……誰の事?」

「お前だよ!」

 男の名はシン。ミミミと同じブックハンターだ。以前彼の依頼でミミミもそれからもうひとりの女もこの場所に集まった事があった。ミミミはその時の状況をなぜか再現しているのだった。多分特に深い意味は無いと思われる。

「まあまあ落ち着いてよシンのおっさん」

「俺はまだ29だ!」

「もう29じゃん」

「うるせー!」

 シンはミミミにいい様にあしらわれている。ああ、(はた)から見ると僕もこういう風に見えてるんだな……とシドは憐れむ目で彼を見ていた。

 いや憐れむて。自分で言ってて哀しいわ。

 シンに構わずミミミは続ける。

「さて、ウン……点呼も済んだ事だし」

「おいお前それわざとだろ! さっきからわざと噛んでんだろ!」

 ツッコミが他にいると楽だなあ……とシドはしみじみと思った。

「本題に入ろう」

「私達を集めた理由って訳か」

 ゴスロリの女が口を開く。

「そう! ゴリ子大正解」

「ああんっ!?」

 ゴリ子と呼ばれた女はミミミの言葉に声を荒げた。

「どうしたゴリ子」

「ゴリ子って何だよ! ケンカ売ってんのかてめえ!」

「え……ゴスロリッ娘だからゴリ子だよ」

「意味が変わってくんだろーが!」

 このゴスロリ姿の女―――ミミミ曰くゴリ子―――は見た目はクールで妖艶だが、感情が高ぶると意外と粗暴になるらしい。

「アプリコットだアプリコット!」

「ええ……でももう携帯にゴリ子で登録しちゃってるし」

「変えろ!」

「へ、へー、アプリコットさんっていうんですね……ハーフなんですか?」

 何とか落ち着かせようとシドは彼女に話しかけてみた。それに美人だし。

「あん? そうだよ。ママが日本人でパパがイギリス人。アプリコット・ブレイスフォード」

「でもそれ確か別名でしょ」

 ミミミが口を挟んだ。やめろ、お前が喋るとまためんどくさくなるから余計な事はお願いだからやめてくれ。

「本名何だったっけ……ジョン? ポール? ああ思い出したジョージだ」

「リンゴだよ! わざと言ってんだろてめえ!」

「へ、へー、リンゴさんっていうんですね。可愛い名前だなあ」

「パパがリヴァプール出身だから……こっちでの正式な戸籍名はブレイスフォード・林檎(リンゴ)リコット。リコットはミドル・ネーム」

「……あーなるほど。apple(リンゴ)だからくっ付けてアプリコット……」

「そういう事」

「……ん? リンゴリコット……?」

 思わずシドは無言になった。次の瞬間ミミミがぽつりとこぼす。

「やっぱゴリコじゃん」

「ほんまやああああっ!」

 容赦無い呟きにアプリコットは絶叫した。今の今まで気付かなったらしい。

「何だゴリ子、お前なるべくしてゴリ子になった天性のゴリ子じゃん」

「ゴリゴリ言うんじゃないこのガキ!」

 こいつ、敵を作る才能あるよな……とシドはミミミを眺めた。

「……で、私達を集めた理由を詳しく聞かせてもらおうか」

「うん。それはね。ポワワワワン……」

 突如人差し指を立ててミミミは上に視線を移した。あれだ、アニメとかで見る回想への入りだ……。


 ミミミとシドの前にはパーカー姿の男が座っていた。場所は古詠堂書館。例の如くミミミはこの店を商談の場にしていたのだった。

 依頼人の名は高橋幸司(たかはしこうじ)。35歳。彼はミミミにこんな話を持ちかけてきた。

「実はこの度、長年の夢だった移動図書館を開館する事になりまして」

「移動図書館……って言うと、車の中に本がいっぱいあるあれですかね」

「そうです」

 移動図書館。書架を乗せた車が各地を回って本の貸し出しを行う図書館のサービスのひとつである。日本では地域の図書館分館開館などで近年減少傾向にあり、東京都区部では2005年3月末を以て消滅してしまった。シドも幼い頃に少し利用していた記憶がかすかにある。

「あれを個人でやると」

「はい。個人というか、団体でです」

 何でも彼は有志を募って数年前からこの計画を動かしてきたらしい。最近になってようやく資金が十分に貯まり、先日マイクロバスを購入したそうだ。

「図書館に足を運びたくても、なかなか運べない人達がたくさんいると思うんです。入院してる人、老人ホームや介護施設に入所してる人……そういう、本を読みたくても読めない人達に本を届けられたらと思って」

「それは……凄いですね」

 シドは感嘆の声を漏らす。心の底からの本音だった。

「いえ、そんな大層な物では……一種の自己満足みたいな物ですよ」

「?」

「で、高橋さんの夢が叶うのはおめでたいですけど……どうしてまたボクの所に? 蔵書が無くなったとか?」

「いえ、そうではありません。蔵書はまだ買ってないんです」

「……もしかして」

「はい」

 高橋はゆっくりと頷いた。

「ウチの図書館の蔵書を、ミミミさんに選んでハントしてきて欲しいんです」

「!」

 これはまた珍しい依頼である。

「ミミミさんはこれまで色んな依頼をこなしてきましたよね。ブックハンターならきっと私達なんかよりももっとたくさんの本を見てきて、そして情報を持っているでしょう。みんなには話はつけてきてます。あなたのその情報を私達は買いたいんです。ウチの蔵書を用意してくれませんか? もちろん資金は準備してますから」

「……」

 似た様な事をミミミはやってはいる。学校の図書委員会の特別委員として購入する図書室の本の決定に関わったり、定額利用サービスと銘打って読書好きの生徒に毎月好みに合った本を買ってきたりしている。いわば本のソムリエである。

「ちなみに、何冊です?」

「……2000冊です」

「にっ……!」

 シドはつい声を出した。

「……凄い数ですね……」

「そりゃまあ図書館なんだから当たり前だろ」

 彼の言葉にミミミが答えた。

「……期限は?」

「はい、3ヶ月では無理でしょうか……」

「……3ヶ月で2000冊、か……無理です」

 あっさりとミミミは否定した。そりゃさすがにその通りだろう。一日二十冊はハントしなければならない。

「や、やっぱり無理ですよね……出来れば4月に開館したかったんですが……じゃ、じゃあ半年ならどうでしょう。まだ厳しいでしょうか……」

「ちょい待ち」

 彼女は掌を突き出す。

「どうしてもって言うならこっちにも考えはあります」

「ほ、ほんとですか!?」

「お、おい! マジかよミミミ! 僕は無理だぞ!」

 シドも思わず彼女に振り向いた。何かいつの間にか自分も手伝う前提で話を聞いていたの、凄く飼い慣らされた感がする。

「ただし、その分報酬は増し増しになりますけど」

「……ある程度なら余裕はあります」

 にやり、とミミミは笑う。

「交渉成立。わかりました。3ヶ月で移動図書館の蔵書2000冊のハント、引き受けました」


「という訳なのだよ」

 以上、回想終わり、である。

「なるほどね……」

 アプリコットは腕を組む。

「という事は……」

「そ! そのハントを手伝って欲しい! ボクが同業者のあんた達に依頼するよ」

「……ふっ」

 静かに話を聞いていたシンが涼しく微笑んだ。

「まあいいだろう。忙しい中受けてやるんだ。ありがたく思えよ」

 言いながら脚を組んだ時、ズボンのポケットから何かがぽろりと落ちた。

「ん」

 それを見たミミミは立ち上がると素早く拾い上げる。手帳だった。勝手にパラパラとページを捲り始める。

「あ!」

 こいつ人の手帳を無断で開くとかマジでクズだわ……。

 と思いつつ気になったシドもちゃっかり席を立ち後ろから覗き込んだり。ついでにアプリコットも寄ってきていた。

 今月のスケジュールは真っ白で、唯一今日の日付けの所に赤丸が付いていた。そして「ハント!」と同じく赤ペンででかでかと書かれている。

「……何これ」

「あっ! い、いやそそそれは……!」

 さっきの態度が一変して慌てふためくシン。

「真っ白だな」

「真っ白じゃん」

「……ふっ、まあいいじゃん。忙しい中受けてくれるんだ。ありがたく思えよふたりとも」

 ミミミがキザっぽく言った。

「やっ! やめてっ! 恥ずかしいからやめてっ!」

「……ふっ、まあいいよ。忙しい中受けてもらうんだ。ありがたく思うよ」

「うわあああああ! ごめんなさい最近本職を見失いかけててひっさびさのハントにテンション上がってるんですお願いします俺に仕事をくれええええ!」

「ひとり頭500冊か……あのふたりには声かけなかったのかよ」

 以前のシンの依頼の時にこの場所に集まったメンバーはあとふたりいた。スーツ姿の老紳士と、謎のカエルの着ぐるみである。

「ジェントルマンは予定が合わないみたいで……カエルは番号が変わってた」

「ぷふっ、あんた嫌われてんじゃないの?」

「ああんっ!?」

 ミミミの表情がいかつくなる。

「この好感度100%のボクが嫌われる訳ねーだろ!」

 お前その自信はどっから来るんだよ……。

「それにひとりあたり650ちょいだよ」

「は? 4人なんだからちょうど500だろ」

「いやいや、このド変態童貞眼鏡君はボクの秘書であってブックハンターじゃないから頭数には入んないよ」

「は?」

「は?」

 シンとアプリコットは声を揃えた。

「……」

 目を泳がせるシド。

(じゃあこいつ何でいんだよ……)

 心の声がだだ漏れであった。僕が知りたいです。

「で! 依頼料だけど! ボクに払われる依頼料をそのまま等分してあんたらふたりに渡す! それでいいよね? ボクありきの依頼だからまあボクの取り分は全体の8って事で!」

「お前等分って意味知ってんのか」

「で、蔵書を揃える経費は話した通り全部クライアント負担だから。もう全額受け取ってるからさ、後から口座に入れとくよ。足りなかったら言ってくれれば追加で出すってさ。極力予算内に収めて欲しいけどって」

「ずいぶんと羽振りがいいな」

 今回の報酬は何と、0が五つ付いている。大口の依頼である。

 その後一通り説明を終えるとミミミは意気揚々と言い放った。

「そういう訳で、じゃ解散! また3ヶ月後に会おうぜあんたら!」

「オーケー。金はちゃんと等分だからな」

「久し振りの仕事だ。腕が鳴るぜ」

 小屋を後にした一組とふたりはそれぞれ背を向け別々の方向へと去っていく。

 そしてシドは今回も当然ミミミの仕事を手伝う事になるのだが……今度ばかりは少しくらい僕にもおこぼれがあってもいいんじゃないかな、とか思っていた。

お待たせしました。連載再開します。どんな話にしようかと思ってましたがこの話に決めました。

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