十話 堕ちた欠片達
フォリオを仲間に迎えた翌日。
「どうだい? 似合っているかな?」
白衣姿のフォリオが、カオルコとエルネストへ白衣を見せるように両手を広げる。
「まぁ、似合ってるんじゃないか?」
いまいちよくわからなかったカオルコは適当に返した。
フォリオは手に杖を持っていた。
足の指がないため、バランスを取りにくいからである。
「ありがとう。ついでに、僕のためにこんな研究所を用意してくれた事にも感謝しておこうかな」
三人がいるのは、丸太小屋の室内だ。
利用されていない、空いていた小屋だ。
「ええ。ここは好きに使ってくれていいです。ですが、さし当たってAKの複製量産だけは最優先にしてください。それを成さないなら、また牢に繋ぎますよ」
「君は僕に冷たいなぁ。エルネスト」
「私はあなたの事が嫌いですからね」
かつての戦いにおいて、エルネストはまだフォリオに遺恨があるのだろう。
だが、彼女にはできるだけフォリオと一緒にいてもらう事になっている。
それはフォリオを良く思わない魔女からの害を防ぐ意図もあった。
魔女の巣の最高権力者がそばにいれば、魔女達もおいそれと手は出せないはずである。
「まぁ、そう言わないでよ。魔術と神学の違いはあっても同じ研究者。仲良くしようじゃないか」
そう言って、フォリオはエルネストに近寄った。
その肩に手をかける。
「近いですよ」
エルネストはフォリオの手を払って言う。
フォリオは楽しげに笑った。
二人を研究所に残し、カオルコは外へ出る。
今後の事を相談するため、クローフに会っておこうと思ったからだ。
医院を目指してカオルコがアジトを歩く。
そして中央へ差し掛かった時。
カオルコは不意に振り返る。
その最中、振り向き様にARKの銃口を向けた。
すると、銃口を向けた先に十数名の少女達がいた。
皆、一様に武装しており、体のどこかに赤い布を巻きつけていた。
恐らく、戦闘魔女の部隊だろう。
その一団の先頭に立つ赤髪の少女が、AKをカオルコへ向けていた。
少女の表情は、不敵な笑みだった。
彼女の耳は、片方の耳が欠けている。
「流石は、カオルコ様。いい反応ですねぇ」
「お前は?」
カオルコは立ち上がり、少女へ向き直る。
「ミカ。ミカ・アンベラ」
「……少し背が伸びたな」
「へぇ、憶えていてくれたんですかぁ」
カオルコが答えると、ミカは楽し気に笑った。
ミカ・アンベラ。
彼女は、かつてカオルコに支えられて共に捕虜の裁定官を撃った事のある少女だった。
彼女の耳は欠損しており、片方の聴覚を失っていた。
彼女の後ろにいる魔女達も、何人か見覚えがある。
そして、部隊の魔女達にはミカと同じく欠損が見受けられた。
ぱっと見て、片目のない者や、指のない者が目立つ。
「魔女になったんだな」
「ええ。志願させてもらいました」
「何のつもりだ?」
カオルコは、自分に向けられたAKの銃口を睨みながら詰問する。
「見ておきたかったんですよ。ここで最強と言われる魔女が、どんな反応をするのか……」
ミカは銃口を上げながら言い、挑戦的な笑みを向けた。
対して、カオルコは顔を顰める。
「ふざけるな。冗談でも仲間に銃口を向けるんじゃない」
「肝に銘じておきますよ。……あ、そうだ。今度一緒に訓練しませんかぁ? 見るだけじゃなく、実際に体で感じてみたいんですよ。その実力」
「……いいだろう」
「ふふっ、楽しみにしてますよ。最強の魔女と呼ばれたカオルコ様がどれほどか……。じっくりと味合わせてもらいます。アハハ」
ミカは小さく笑う。
「行くよ」
後ろの部隊に声をかけ、ミカはカオルコの隣を過ぎていった。
それに続き、他の魔女達もカオルコの隣を通り過ぎていった。
「お久し振りです。また、改めて」
その際、目を閉じた白髪の少女が会釈した。
カオルコから離れると、部隊の一人がミカへ近寄った。
口元にスカーフを巻いた少女だ。
「あれがカオルコ様ですか……。そんなたいした奴なんですか? あれなら、ミカ隊長の方が……」
そう口にした魔女の顎をミカは掴みあげた。
鋭く睨みつける。
睨まれた魔女は、怯えに表情を引き攣られた。
「カオルコ様を馬鹿にするな」
ミカは言って、表情を和らげた。
「新参のお前は知らないだろうけど。あの人はすげい人なんだよ。……口に気をつけな」
最後にドスの利いた声で言い放ち、顎を乱暴に放した。
「そいつは、ロストピース部隊だ」
カオルコは、クローフの診療所で彼に先ほどのやりとりを話した。
クローフはカルテに目を向けながら、彼女の質問に答える。
「ピース(平和)?」
「違う。ピース(欠片)だ。つまり、欠落だな」
「欠落?」
「ああ。あの部隊は、みんな裁定場の尋問で体のどこかを欠損している」
「なるほど。どんな連中なんだ?」
問われると、クローフはカオルコに向き直って答える。
「今の魔女の巣で最強の部隊だ」




