九話 新たな魔女
「こいつは確か、ビルリィの……」
「はい。神学者達を束ねていた人間です。そして、殲滅兵団の装備や魔女の拷問具を開発していた女性……」
言って、エルネストは強く拳を握りしめた。
「どうしてここにいる?」
「私はアルカ国王都の支部で彼女と戦いました」
「その時の事は聞いている。死に掛けたらしいな」
「厳密には、一度死んだらしいですけれどね。私は意識がありませんでしたが、駆けつけた仲間が彼女を捕縛したんです」
カオルコは改めてフォリオを見る。
服とも呼べないような麻布を着た彼女。
手枷で両手を拘束されたその体の所々には生々しい傷が見える。
拷問の痕だ。
「よく、クローフがこんな仕打ちを許したな」
「許しませんでしたよ」
「どういう事だ?」
「当初、彼女は一部の仲間が隠れて監禁していたんです。発覚するまでの間、彼女は凄惨な拷問を受けていました。彼女の体に残る傷は、その時の物……」
「そのわりに、傷が新しいようだがな」
エルネストは溜息を吐く。
「彼女には危害を加えないよう言っているのですが……。今でも、目を盗んで彼女を痛めつけようと考える人間は尽きません」
それだけ、魔女達が彼女へ懐く恨みは深いのだろう。
魔女達には、裁定場で受けた拷問の記憶がある。
その怨嗟は、今も強いのだ。
「拷問器具や、殲滅兵団の装備を考え出したのもこいつだという話だったな。確かにこいつなら条件に一致している、か……」
カオルコはフォリオを見る。
彼女はそんなカオルコの視線に、不敵な笑みを返す。
自分の身に起こる事を一切気にしていないかのようだ。
「初めて見る顔だ」
フォリオは口を開く。
「カオルコだ」
「ふぅん。初めまして。フォリオだ」
挨拶を交し合う。
「単刀直入に言おう。お前、私達の仲間になる気はあるか?」
カオルコが問うと、フォリオは目を細める。
「どういう風の吹き回しかな?」
「私達は今、お前の技術を欲している」
カオルコは、肩にかけていたARKを見せる。
フォリオはそれを見て目を輝かせた。
「これは特別製だが……。お前は、こういう武器と同じ物を作れと言われれば作れるか?」
「素晴しい」
フォリオは笑った。
「僕はね、今まで守ってきたんだ。片目を抉られても、足の指を潰されても、この両手の指だけは……」
言って差し出されたフォリオの両手。
枷に繋がれた両手の指は、ボロボロになった他の体の部位と比べてとても綺麗だった。
無傷と言ってもいいだろう。
「それはまた、こうして何かを作る機会を得たいと思っていたからだよ。また、私の内にある知識を動員して、あらゆる品を作り出したいと思っていたからだよ」
「作れるのか作れないのか。どっちだ?」
要領を得ない言葉に、カオルコは強い口調を向ける。
「無論、一度バラさせて貰えば作れるし、原理も理解できる。そうなれば、一から新しい物だって作ってみせるよ。今よりもずっと性能良く、ね」
「仲間になるつもりは?」
「あるとも」
あまりにもあっさりとした返事にカオルコは不審がる。
「ビルリィと敵対する事になっても、か?」
「むしろ大歓迎だよ。神様からはもう多くの事を学ばせてもらった。だから次は、魔女から学ばせてもらうのもいいと思うんだよ。僕は、ね」
どうやら、こいつは他のビルリィ教の信者とは違うようだ。
他の連中は、もっと妄信的、狂信的に神を信じていた。
でもこいつにとって、神も自分の知識を満たすだけの道具でしかなかったらしい。
だが、そんなこの国にとって異端の考えを持つ彼女は、むしろ魔女に近いのかもしれない。
「わかった。エルネスト。鍵を開けてくれ」
「……はい」
エルネストは少し悩んだ素振りを見せ、鍵を取り出した。
フォリオの力が必要だと思いながら、彼女自身フォリオに対して思う所があるのだろう。
抵抗を覚えているのかもしれない。
鍵が開かれる。
カオルコとエルネストは牢の中へ入った。
「これからは、お前も魔女だ。ようこそ、魔女の巣へ」
カオルコは右手をフォリオに差し出す。
「ありがとう」
フォリオは、その手を枷に繋がれた両手で握った。
こうしてここに、新たな魔女が誕生した。




