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エピローグ

「――そして、僕はファーストと別れてアリアの救出に向かったんだ」

 オルカはアリアの手を引いて走りながら、自身が体験した出来事をありのままに話して聞かせた。

「そっか……」

 なるほど、ね。私はまんまとファーストに利用されていたわけか。

 それは驚愕の内容であったが、アリアは不思議とすっきりした気分になった。今まで不明瞭ふめいりょうだった出来事にようやく納得がいって、胸につかえたものがとれたような感じがしたのだ。

 その次に湧きあがった感情は、ファーストに対する怒りであった。

「っていうか、意図的に人生狂わされたとわかったら腹立ってきた! 次会ったら氷漬けにしてやるんだからねっ!」

 そう言って、アリアはぷっくりと頬を膨らませた。

「恐いことさらっと言えるようになったね、アリア」

 拳を口に当て、オルカはクスクスと笑った。

 アリアはフンと可愛らしく鼻を鳴らした。

 そういえば、ファーストの目的は一体何だったんだろう? 何か企んでるのは間違いないんだけど……。 

 アリアがそんなことを考えていると、突如、凄まじい爆発音があがった。アリアとオルカは足を止め、音のした方へと振り返った。

 見ると、先ほどまでいた広場の方から煙が立ちのぼっていた。直後、雄たけびと悲鳴とが幾重いくじゅう幾百いくひゃく幾千いくせんにも混ざり合い、地鳴りのように街に轟いた。

「な、何……?」

 アリアは目を大きく見開き、言葉を漏らした。 

「始まったか……」

『みてぇだな』

 オルカの言葉に、セルシウスが相槌を打つ。その会話から、二人はあれ・・が何なのか知っているとわかった。

「オルカ、あれは……?」

「クーデターさ」

「クーデター?」

 オルカは頷いた。

「これが、ファーストが選んだ、アリシアを救うための方法らしい」

 選んだ? 救う? クーデターと何の関係が?

 アリアの頭上にクエスションマークがいくつも浮かぶ。

 いや、待った。そもそも―― 

「アリシアって誰?」

『お前と名前が似ているな、アリア』

 アリアはどうでもいい発言をするセルシウスをキッ、と睨んだ。

『すまん、しばらく黙ってる』

 そう言って、セルシウスはすごすごと引き下がった。

 オルカは困ったように後ろ頭を掻いた。

「僕の義理の妹にあたるのかな? まあ、僕も会ったことはないんだけどね」

「オルカの妹……皇女ってこと?」

「うん。知ってると思うけど、この国では皇女は王にはなれないんだ。王家の古いしきたりでね。王家に生まれた女性は、全て他国に嫁ぐことになっているんだ。好きでもない、諸外国の皇子や重役の元にね。嫌な言い方をすれば、政治の道具さ」

「そ、そんな……酷い」

 オルカは残念そうな顔をして、首を振った。

「酷い話かもしれないが、レイファルス王国は代々そうやって繁栄を遂げてきたんだよ。今まで疑問視もされなかった。これが現実だ」

 アリアは口元を手で覆った。そこまで聞いて、ファーストの行動の意味を理解したのだ。

「それじゃあ、ファーストがやろうとしていることって、もしかして……」

「ああ。ファーストはクーデターを起こし、アリシアを王にすることで彼女が外国に嫁がされることを止めようとしているんだ。今までのあいつの行動の全ては、アリシアを救うためのものだったらしい」

 アリシアを救うため……。

 アリアはなんとも言えない気持ちになった。さっきまで、会ったら殺してやるぐらいの気でいたのだが、オルカを救うために行動を起こしたアリアは、ファーストの行動が自分とそう違わないのではと思ったのだ。

 私も多くの人を巻き込んで、殺して、他人の人生を狂わせた。そうまでしても、守りたかった人が……オルカがいたから。ファーストもそうだったのだろう。

 そして、きっと、ファーストはアリシアのこと……。

『まあ、なんにせよ、お前ら二人はこうして生きてたんだ。いいじゃねぇか』

 相変わらず空気を読めないセルシウスが口を挟んだ。

 アリアとオルカは顔を見合わせて笑った。

「もう……。セルシウスは黙っててって言ったでしょ!」 

「さすが、精霊はポジティブだね。人間よりもずっと心が広い」

『オルカてめぇ。褒めてないだろ、それ』

 セルシウスがムスっとした声をあげた。

 ひとしきり笑った後、アリアはふいにあることに気がついた。

「そういえば、オルカ。その話は誰に聞いたの?」

「ファーストの仲間の、兎のような女の子が、執行人と入れ替わる準備をしているときに教えてくれたんだよ」

「ああ。話の中に出てきた準備を手伝ってくれたっていう人だね」

 オルカはコクリと頷いた。

「なんだか不満そうに愚痴ってたよ。あの子はきっとファーストのことが好きなんだろうね。様付けして名前を呼んでいたくらいだから」

『おい、のんびり話してるとこ悪いが、そろそろ逃げたほうがいいと思うぞ? 人の波がすぐそこまで近づいてきている』

 周囲の気配を感知したセルシウスが促した。

 アリアも目を閉じて気配を探る。

「本当だ。結構な数だね……戦う?」

「いや、もう戦いはごめんだ! 逃げるよ、アリア!」

 そう言って、オルカは再びアリアの手を取り、勢いよく駆け出した。



 首都レイファルスの外。ヴィレリア草原。

「はぁ……こ、ここまで来れば……とりあえずは、平気だろ……はぁ、はぁ……」

 息絶え絶えにそう言ったオルカは、手を離し、そのまま草むらにバタリと倒れて、仰向けになった。身に着けているシャツが、汗でぐっしょりと濡れている。

 逃げる途中で邪魔になった鎧を脱ぎすてはしたが、小一時間走り続けたオルカの体力は限界だったのだ。

「だ、大丈夫!? オルカ?」

 アリアは心配そうに隣に駆け寄った。

「ご、ごめん。実は、体はまだ本調子じゃ……ないんだ。一か月近く寝てたから、運動不足でね」

 オルカは息を整え、心配そうに見つめるアリアを見上げた。

 そして、何か決心したかのように頷き、笑みを浮かべた。

 オルカの笑顔の理由がわからず、アリアはキョトンとした顔をして小首を傾げた。

「よいしょっと」

 軽快に掛け声をあげ、オルカはスクッと立ち上がった。

「セルシウス」

 突然、オルカはセルシウスの名を呼んだ。他に説明はなく、ただ、名前だけを呼んだ。

『はいはい、わかってるよ』

 オルカの意図を汲んだセルシウスは、それだけ言い残し、スッと姿を消した。

「ど、どうしたのセルシウス……?」

 アリアが声をかけるが返事はない。どうやらこの場からいなくなってしまったようだ。

「ごめんね、アリア。どうしても、その……二人に……なりたくて……」

 オルカのその言葉に、アリアの顔が真っ赤に染まった。もちろん、言った本人のオルカも顔を赤らめて恥ずかしそうにしている。

 オルカは一歩前に出て、アリアの前に立った。アリアの細い肩が小さく跳ねる。

 アリアは恥ずかしさでオルカの顔を見ることができず、俯いてしまった。

 会話はなく、短い沈黙が流れた。

 オルカは深呼吸をし、意を決して口を開いた。

「……アリア。一か月前、俺に言ったよね。話があるって」

 オルカの声は微かに震えていた。

「……うん。……言った」

 アリアは小さい声でぼそりと答えた。

「島で魔獣に襲われた時に言ったと思うけど、俺も話があるんだ。アリアに、とても大事な話が……」

 震える声で、でもしっかりと、オルカは言葉を紡いだ。

「だからその……、俺から……話してもいい……かな?」

 アリアは両手で胸を抑え、ぎゅっと目をつむってコクリと頷いた。

 オルカは生唾を飲んだ。声が出せず、再び沈黙が生まれる。

 辺りに音はなく。とても静かだった。

 そのせいか、離れていても、お互いの心臓の音が聞こえそうだった。それくらい、二人の心臓は大きく脈打っていた。

 そんな中、ようやくオルカは口を開くことができた。

「……俺はッ――!」

 オルカは拳をグッと握りしめ、大きく息を吸った。

 そして、草原に響き渡るほど大きな……それはもう大きな声で、オルカは叫んだ。

「俺は君が好きだ! 大好きだ、アリア!」

 思わずアリアは顔をあげ、大きく目を見開いた。

 アリアの瞳から、大粒の涙がぽろりぽろりと、止まることなく零れ落ちる。涙で歪んだ視界に映ったのは、耳まで顔を真っ赤にさせながら、にっこりと微笑むオルカの姿であった。

 アリアは我慢できなくなり、顔をくしゃくしゃにしながら大声で泣きじゃくった。

「うああぁん! オルカぁ……オルカぁ……ッ!」

 突然泣き出したアリアに驚き、オルカは慌てふためいた。

「え!? ど、どうしたんだアリ――ッ!?」

 アリアはそのままオルカに抱きついた。

「好きぃ……。私も……オルカのことが、好き……大好き!」

 そう言って、アリアは顔をオルカの胸に埋めた。そして、再び泣き出した。

 泣きながら、何度も何度も好きだと繰り返した。

 オルカは優しい笑みを浮かべ、アリアを抱きしめ返した。

「うん。ありがとう、アリア」

 嬉し涙と、好きという言葉が、服を伝ってオルカの胸に広がっていく。それはとても暖かく、言葉にすることなどできない程の幸福感を、オルカに感じさせてくれた。

「アリア」

 オルカはアリアの頭を撫で、優しく声をかけた。

「ぐすっ……なぁに?」

 アリアは顔をあげた。目を真っ赤にはらし、鼻水を垂らしている。

 そんなアリアを見て、オルカは思わず笑ってしまった。

「もう! 顔を見て笑うなんてひどいよ、オルカぁ!」

 ポカポカとアリアはオルカの胸を小さく叩いた。

「はははっ、痛い痛い。ごめんってば」

 オルカはアリアの手首掴んで止めた。アリアは抵抗することも、それ以上怒ることもしなかった。

 ふいに、オルカが今まで異常に優しい表情になったからだ。 

 息がかかるほど、お互いの顔が近くなる。アリアの心臓が、大きな音を立てた。

「約束する。例え世界が敵に回ったとしても、俺は絶対に君を守る」

「オルカ……」

「だから、ずっと俺の隣にいて欲しい」

 アリアは微笑んだ。天使のような、優しい優しい笑みを浮かべて。

「うん」

 アリアはオルカと唇を重ねた。


「ずっとずっと一緒だよ。オルカ――」

本作品に最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。

作者のいべちゃんと申します。


さて、実は完成させた長編という意味ではこのRebel Fire ~アリアの反乱~は処女作となります。公募用の作品としてこのなろうで書き始めたわけですが、振り返ってみて、支えてくださった作家仲間の皆様や、読んでくださった読者の皆様のおかげで、完結させることができたのだなぁと思いました。

感謝以外の言葉がみつかりません。

こんな僕と、作品に関わって下さった皆様。本当にありがとうございました。


さて、突然ですがここでお願いがあります。

先ほど触れました通り、この作品は公募用作品として作りましたので、当然賞に応募します。そのために、推敲作業(より良くするための書き直し)が必要になります。そこで、作品に対する感想を頂きたいのです。

気になったこと。伏線の回収し忘れ。キャラがぶれてる。設定がおかしい。展開に無理がある。この場面が理解できない、わかりづらい。など、どんなことでも構いません。

もちろん自分でも客観視してみますが、どうしても作者のイメージが凝り固まってしまっている部分もありますので、ご協力いただけたらとても助かります。


と、最後に厚かましいお願いをしてみましたw

どうぞよろしくお願いします。



ちなみに、第二章の構想は既に脳内にありますので、公募が終わった頃にでも続編を描こうと思います。そして、推敲作業が終わったら、掲載分を差し替えようと思っていますので、日を空けてまた読みに来てもらえたら嬉しいです。



長くなりましたが、ここまでとしたいと思います。

改めまして、ありがとうございました。これからも、いべちゃんをよろしくお願いします。

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