第38話 澤村の初任務
【前回までのあらすじ】澤村と真野目は戦術分析官として実戦に初参加していた。澤村は無人機を操作しザインを監視する。GISAの工作員がザインを拉致する瞬間を目の当たりにし、状況を察した紅梅が動く。
この状況を静観していた紅梅が動く。装着したヘッドセットのマイクで無線を入れた。
「ピン、聞こえるか。こちらゼロ。ターゲットが襲撃を受け拉致された。現在、8号線をカルヤ市街に向けて走行中。座標と映像を送信する。オーバー」
「真野目、カラスへ座標と映像を転送しろ」
「了解」
今朝の強制捜査が始まって以降、ザインが出社していないことは紅梅たちも気づいていた。王が最後の解除コードを持つザインの確保に動くことは容易に想像できた。
ならば、こちらも即座に動くべきと踏み、既にカラスたちをザインの自宅へ向かわせていたのだ。先にGISA側が身柄を抑えたが、それなら奪い返すまでのこと。
「澤村、カラスとGISAの車両位置を割り出せ!」
紅梅の指示を受け、澤村は上空の無人機を操作してカラスの乗る車をトラッキングする。双方の現在地が即座に確定し、フロアのメインモニター上のデジタルマップに表示された。
接近する二つのアイコンを確認した紅梅は、すかさずカラスへ無線を入れる。
「このまま行けば、8号線の中間地点付近でコンタクトするはずだ」
「こちらピン、了解した。GISAとザインを始末する、オーバー。」
傳田は紅梅との通信を終えると、車内に向けて交戦の準備を指示する。
「間もなくターゲットと接触する。全員、顔を隠せ!」
傳田の合図とともに、カラスの面々は黒のバラクラバ(覆面)を引き上げ顔を隠した。
作戦本部のモニター上では、カラスとGISA、双方を示すマークの距離が刻一刻と縮まっていく。全員が固唾をのんで見守っていた。
カラスたちの無線音声は、作戦本部のスピーカーにリアルタイムで共有されている。荒々しいエンジン音と風切り音が、現場の臨場感となってフロア内に響き渡る。
「見えたわ、正面よ!」
リャンがリアルタイムで送られてくるデータマップと、フロントガラス越しに迫るGISAの車両を目視で捉えた。
「リャン、コンタクトと同時にドライバーをやれ! そのまま体当たりで強行停止させる。全員、衝撃に備えろ!」
相手の車両が防弾仕様であった場合を想定し、正面から物理的に衝突し進路を阻む作戦だ。そのためカラスたちが乗る車のフロントには、堅牢な鉄製の強化グリルガードが装着されている。
百目鬼はアサルトライフルのマガジンを押し込み装填を再確認すると、助手席のドアをわずかに開き、銃身をサイドミラーの付け根に押し当てて固定した。露出を最小限に抑え、ドットサイトの照準線に敵の車を捉える。
GISAの車両との距離が急速に詰まる。 300m……200m……150m——
先に発砲したのはGISA側だった。彼らもプロでありGISAの支援を受けている。迫ってきた対向車に敵意を感じたか、あるいは日本側の奇襲を見抜いたか。
ライフルの銃声が空気を切り裂き、カラスの車へ着弾する。フロントガラスに連続して被弾し、蜘蛛の巣状の弾痕が刻まれた。だが、防弾仕様の車内には何の影響もない。
「クソッ、撃ってきやがった! リャン、応戦しろ!!」
傳田の怒号よりも早く、百目鬼はすでにカウンター射撃を撃ち込んでいた。走行中に揺れる社内から撃ち出された弾丸は、相手車両のフロントガラス越しにドライバーを捉える。
しかし、GISAの車両も防弾仕様だった。弾丸はガラス表面を砕くに留まり、ドライバーを倒すには至らない。
すれ違いざま、傳田は大きくステアリングを切った。 堅牢なフロントグリルガードが、GISA車両の側面へ深々と噛み込む。
凄まじい金属の破砕音と強烈な衝撃が双方の車体を揺さぶった。無線越しに作戦本部のスピーカーにも、その打撃音が響き渡る。
次の瞬間、衝突した二台の車の間では、近接戦闘(CQB)が展開された。
走れなくなった防弾車は「鉄の棺桶」と化す。即座に車外へ飛び出して相手の車両を包囲した側が勝つのだ。
車内に留まり相手に周囲を抑えられれば最後、C4で爆破されるか、催涙スモークで社外へ燻り出されて殺されるかだ。
傳田と百目鬼は、運転席と助手席のドアを開け、ドアに身体を隠しながら正面の相手へ牽制射撃を浴びせる。
同時に後方のハッチバックが跳ね上がり、神薙と中臣が外へ飛び出すと、相手の車の側面へ一気に回り込んだ。
GISAの工作員も素早く降車しカラスの車を包囲しようと散開を図る。だが、神薙と中臣の方が早かった。
敵が車を降り地に足をつけ、銃口を向けるよりも前に、二名のGISA工作員を射殺した。
残るはドライバーのみ。 絶望的な状況を悟ったドライバーは、激しくステアリングを切り返し、アクセルを踏み込んで突破を試みた。
しかし、突き刺さったグリルガードが釣り針の返しのように車体に食い込み、逃がさない。傳田は巧みなハンドル操作で車を押し付け、完全に相手の退路を塞いだ。
やがて、相手ドライバーは両手をゆっくりと上げて投降の意を示した。だが、黒い覆面で顔を隠したカラスたちの、感情のない鋭い眼光を見た瞬間、ドライバーは静かに視線を落とした。
彼は諦めたように腰のホルスターから拳銃を抜くと、自らの頭部へ銃口を当て、迷いなく引き金を引いた。
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