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かつての理系女はリクエストする

 翌朝の食事のとき、ローザ先生がアンたち4人のところにすっとやってきて、言った。

「今日のクラブは神事についてです。王宮教会から人が来ます。図書室で待っていなさい」

 それだけ言って、またすっと去っていった。

 

 算術の時間、いつものように図書室を占領する四人は、午後のクラブの話をしていた。

 フローラは、

「魔法よ魔法。神事にかかわる魔法よ!」

と言って興奮している。魔術師になりたいからだ。一方女官になりたいヘレンは、

「この世界だと神事もお役所仕事と一体じゃないかな?」

と期待している。ネリスはネリスで、

「武芸も神のご加護があればより強くなるに違いない」

と、これまた期待している。

 ただ、アンも期待はちょっとちがう。

「あのさ、今まで調べたところだと、魔法陣とかもあるじゃん。幾何学との関連があると思うのよ。だから女学校レベルを超える数学を教われると思うんだよね」

 それを聞いたヘレンは、

「ま、あんたらしい期待だと思うよ。だけどふつう神事っていったら、魔法とか儀式とかじゃない。はじめはそんな話にならないと思うんだけど」

「うん、それはわかるよ。だけどこの世界にはベクトルという概念がないじゃない。線形代数を導入すれば、魔法陣だってもっと洗練されると思うのよ」

 ヘレンがさらに言う。

「洗練してどうするのよ」

「あのね、これは秘密なんだけどね……」

「もう言った時点で秘密じゃないよね」

と誰かが言っているがアンは無視する。

「私達はベクトルが時間の関数として扱われているのになれているじゃん。だから魔法陣をベクトル化し、変数として時間を導入すれば、時間発展する魔法陣なんてものも……」

 ヘレンがあわてて止めた。

「アン、多分それやばい。下手すりゃ異端として処分される」

「だから秘密だと」

 ネリスは呆れたように言う。

「声が大きいんだよね」

 アンも負けていない。

「じゃあさ、秘話の魔法を早く習得しないと」

 フローラの意見は、

「みんなさ、アンはこうなったらもうだめだからさ、まずはマジで早く秘話の魔法身につけよう」

「「そだね」」


 午後の授業が終わりアンたちが支度をしていると、クラスメートのジョセフィーヌが近づいてきた。ジョセフィーヌは手の届かないものをぱっと取ってくれたりする親切な子である。

「みんな、これから補習だってね。がんばってね」

 アンが答える。

「ありがとう。でもあくまでクラブだから、無理はさせないって先生言ってたよ」

「そうならばいいけれど」

 それを聞いたフローラが不安そうに言う。

「あの、なにかあるんですか、あ、あるの?」

 クラスメートたちからは、友達として接して欲しいと強く要望されていたから、あまり丁寧すぎる言葉を使うと、相手が不機嫌になる。それはともかく、同じくクラスメートのイングレーゼが言う。

「あのね、お姉様のお話だとね、テストの補習とかって、それはそれは厳しいらしいの。目標が到達できるまで帰してくれないって。場合によっては夕食をまたいでまだやることもあるらしいよ」

 するとヘレンは、

「そうか、それはなんだか楽しみね」

などと言っている。イングレーゼは心配そうに、

「とにかくがんばってね!」

と言ってくれ、ネリスは、

「がんばる。ありがとう!」

と返事した。そして付け加えた。

「どや、ネーミング作戦、成功や」

 この国の言葉でもエセ大阪弁ができるとは面白いと、アンは思った。

 

 図書室に向かう途中、アンは考えていることがあった。

 

 図書室で待っていると、やってきたのは神官長だった。四人は起立して挨拶する。

「やあ、君たち、よろしくね。で、今日だけどまず、君たちがどこまで勉強しているか聞きましょうか」

 ここで素早くアンが口を開いた。

「神官長様、幾何学は神学や魔法と関係ありますか?」

「もちろんあります」

「では、私達はこの図書館にある算術の本はほぼすべて読みました。それで例えば曲面上の幾何学を勉強したいのですが」

「曲面上の幾何学ですか?」

「はい、たとえば球体表面の三角形の内角の和は2直角にならないですよね」

「そ、そうですね。ですがそれが魔法と何の関係があると?」

「はい、転移の魔法と関係があるかと推察したのですが」

「わかりました。申し訳ないが、そのあたりは私では力不足です。なるべく早くそのあたりの専門家を寄越しましょう。ですからアンの希望には添えませんが、今日は私が用意してきたものを勉強してもらいます……」


 有益な「補習」のあと、アンたちは食堂へ向かっていた。

 フローラがアンに言う。

「アン、あんたにはやられたよ」

「何が」

「なんとか今日の勉強を数学に持ち込もうとして先制攻撃したでしょ」

「まあね」

「でも、残念だったね」

「そう? 多分次はエキスパートが来ると思うよ」

「そうだろうね」

 ヘレンが割り込んできた。

「だけどさ、神官長様、すごい人だったね」

 ネリスも言う。

「そうだね、わからないことはわからないって、なかなか言えないよ」

 アンは、

「うん、あの人はすごい。私達もああいう真摯な態度で勉強したいね」

と言った。実は修二のことを思い出していた。

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