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かつての理系女はかつての恩師を懐かしがる

 職員室へむかう廊下で、ヘレンが言い出した。

「ねぇ、私達特別に騎士団・教会・病院から色々教えてもらえるのはありがたいけど、変に目立ったらまずくない?」

 反応したのはネリスだ。

「そうなの?」

 フローラが説明する。

「女子校の嫉妬はこわいからね」

 そうなのだ。ネリスこと恩田真美は千葉の共学出身、残り三人は川崎の女子大付属中出身なのだ。ただしアンは、

「そうだっけ?」

と言ってしまった。フローラの返事は、

「あんたには無理だわ」

である。

「そうそう、あんたは嫉妬されようが嫌味なことされようが、平気だったもんね」

 ヘレンまで言ってきた。さらにフローラは付け足す。

「平気っていうかさ、そもそも気づいてない」

「だよねぇ~」

「ちょっと」

「何」

「ひどくない?」

「ひどくない」

「ひどいよ」

「だって真実だもん」

 とどめを刺したのはネリスだ。

「そうそう、真実を大事にするでしょ、アンは」


 形勢不利なアンは、話を進めることにした。

「じゃあ、どうすればいいっていうのよ?」

「いや、それはなおらない、期待してない」

 あんまりなフローラの発言に腹は立つが、3対1でかなうわけがない。とにかく話をすすめる。

「そうじゃなくて、私達四人の特別授業? それよ」

「ああ、それか、みんなの嫉妬というか、恨みと言うか、それを買わないようにさ」

「う~ん」

 しばらくして、フローラが言った。

「そうだ、私達が幼いのをフォローしてもらうってことにすればいいのよ」

 アンがつい言ってしまった。

「そうか、いいね。フローラが言うともっともらしく……」

 ヘレンに遮られた。

「アン、そういうとこだよ」

「へ?」

「わかんないの?」

 フローラが笑い出した。

「ヘレン、ありがと。ま、アンもこんな感じで抜けてるしさ」

「あ、あ、ああ、フローラごめん」

「やっとわかったか」


 ネリスが言う。

「じゃあさ、ネーミングで誤魔化せばいいんじゃない。たとえば放課後補習クラブ」

 ヘレンは、

「うーん、放課後特訓クラブ」

と言う。アンは対抗上、

「放課後幼女クラブ」

と言ってみたら、みんなに引かれた。

「ま、その辺も含めて先生に相談すっか」

とフローラがまとめた。


 職員室に着いた。ローザ先生はいなかったが、ドーラ先生がいた。

 アンが声をかける。

「ドーラ先生、あの、先程校長先生からいただいたお話なんですが」

「ああ、それね、ローザ先生はまだ校長室のはずだから、一緒にいきましょう。あら、あなたたちも一緒なの?」

「「「はい」」」


「あら、早かったのね」

 聖女様代理のジャンヌ様が校長室で迎えてくれた。

「ジャンヌ様、言ったとおりでしょう」

と言う校長先生の言葉に、

「先生にはかないませんね」

とジャンヌ様が返した。

 アンはジャンヌ様が校長先生の教え子であることに、今更気づいた。

 

 ただ、神官長・武官長・医官長のオジサマたちもまだいた。

 

「で、あなた達の結論は?」

 校長先生に促されアンは、

「先程のお話、この四人全員でなら、お受けしようと思います」

 するとオジサマたちが大いに喜んだ。

「じゃ早速明日、騎士団に」

「いえいえ王宮教会に」

「当然中央病院でしょう、隣なんですから」

 わいわいと騒ぎ始めるのをネリスが停めた。

「あの、皆さん落ち着いてください。アン、話して」

 けっこうドスのきいた声だった。一瞬で静かになった。

「はい、ありがたいお話ですが、私達としては騎士団も教会も病院もみな勉強させていただきたいです。まだ私達、志望はあっても適性は明らかではありませんから。そして、一つお願いしたいことがあります。これはフローラから」

「え、私?」

「いや、私そのへん鈍いから」

「そうね。あの、ネッセタールのフローラです。いろいろお教えいただくのは大変ありがたいのですが、それでなくても飛び級で入学した私達は、特別扱いされています。その上さらに学年の上を行くような特別授業を受けているとなれば、周りの生徒はよく思わないとおもいます。ですからあくまで幼いがゆえの補習という形をとっていただきたいのです」

 武官長が聞いた。

「そういうものかな?」

「はい、ここは女学校です。女の嫉妬はえげつないんです。陰口位で済むならともかく、陰湿なこともあると思います」

「そうなんですか、校長」

「残念ながらそうです。上級学年になればともかく、低学年ではよくあることですね」

「はい、ですからあらかじめその対策として、補習、という形態をとりたいんです」

 横からヘレンが口をはさんだ。

「あの、中身でなく、見た目というか名目と言うか、そう言う意味です」

 アンがまとめる。

「そういうわけで、そのあたりをご考慮いただければ助かります。たとえば騎士団であれば体力づくりとかですかね」

「なるほど」

「まずはその、名称も必要かと思います。たとえば部活動ということにして、補習クラブとかなんとか、ただ、まだいい名称が思いつかない状態です」

「あの、ちょっといいかな?」

 医官長が口を挟んだ。

「君たち、八歳だよね」

「はい、誕生日で九歳になりますが」

「君たちの話をきいていると、まあまあ経験をつんだ看護員と話をしているような気がするよ」


 神官長が口を開く。

「私は、君たちの意見に同意する。大事なことは君たちにしっかりとした教育を受けてもらうことだ。そのために必要な措置はしっかりと取ったほうがいいだろう」

 校長先生は、

「ではみなさん、あとは名称ですね」

とまとめにかかる。ジャンヌ様が言う。

「飛び級補習クラブでいいのでは? でも条件をつけさせてもらえるかしら?」

 アンが答える。

「なんでしょうか」

「ええ、隠れ蓑とは言えクラブです。無理をしないこと、楽しむべきときは楽しむことです」

「「「ありがとうございます」」」

 ジャンヌ様はオジサマたちにも言った。

「この条件は、あなた方もですよ」

「「「はい」」」

「では明日の担当ですが」

「騎士団に」

「中央病院に」

「王宮教会に」


 校長先生が議論を始めるオジサマたちを見て、アンたちを呼んだ。

「こんな調子だから、結論は明日伝えるわ。そろそろ夕食の時間じゃないかしら」


 アンたちは挨拶をして、校長室から下がった。オジサマたちに挨拶が届いたとはとても思えなかった。

 ドアをしめたら、ネリスは大きく息を吐いて言った。

「はぁ、なんとかなったね」

 ヘレンは、

「医官長様が看護官みたいって言ったときはドキッとしたね。アン、ちょっとは自分の年令考えてよね」

という。アンは「無理」という。フローラは、

「だよね、だけどさ、アン、あんな人達とでも平気で話せるんだね」

というのでアンは、

「そんなの池田先生に比べたら、楽勝よ。あと、澤田先生ね」

 池田教授は札幌で杏の指導教官であった。澤田教授は扶桑女子大での恩師である。ただ、ネリスは扶桑女子大出身でないから澤田教授を知らない。

「ネリス、澤田先生については夜教えてあげる。ある意味女学生の憧れだよ」

「ウン、楽しみ!」

 アンは横綱級の澤田教授のハグが懐かしくなった。

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