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かつての理系女はスカウトされる

「そろそろ本題に入りましょうか……」

 校長先生が話を続ける。

 

 神官長のルドルフ様が始めた。

「アン、校長のお話によると君は優秀で、この学校で学ぶことはあまりないそうじゃないか。先程の祝福を見る限り、宮廷教会で実地の仕事をしながら次期……」

「ルドルフ様、その話はまだちょっと」

 ジャンヌ様が遮った。

 次に話し始めたのは医官長のミハエル様だ。

「君は若返りの魔法が使えるところから、医療系の魔法に適性が高いに違いない。希望であれば明日からでも、王立中央病院で学べるよう、とりはからうよ」

 すると武官長のマティアス様も、

「おそらく発動はさせてないが、攻撃系の魔法も強そうだ」

などと言う。火の魔法で爆発させたことは黙っておいたほうがよさそうだ。

「攻撃もでき、医療もできれば我が国の安全保障上、非常に大きな貢献ができるにちがいない。ついては騎士団にぜひ来てもらえないか」


 困ったことになった。どう答えるべきかわからず黙っていると校長先生が言った。

「ローザ先生、どう思われますか?」

「はい、アンの意思がもっとも大事かと思います。ただ、このように大人数の大人に囲まれて、自分の意見を正しく言えるとも思えませんから、少し時間を与えたほうが良いかと思います」

 校長先生がアンに問いかける。

「アン、あなたの考えを聞かせてちょうだい」


 ここはローザ先生の誘導通り、時間を稼ぐのが一番だろう。アンはそうも思うが、意思ははっきりしていた。

「私は、この学校にいたいと思います。なぜならここでは学問に打ち込む環境があり、仲間もいます。私には解明したい事柄があり、この学校、仲間が必要です。ですから宮廷教会、中央病院、騎士団、いずれも参るわけにはいきません」


 しばらくの沈黙の後、武官長が口を開いた。

「それじゃ、君の仲間も含めて騎士団に来ないか? 勉強についてもきちんとできるようにするよ。約束する」

「マティアス様、申し訳ありません。それだとネリスは喜ぶでしょうが、他のものはまた別の志望がありますので」

 つづけて神官長が言う。

「では宮廷教会はどうかね。女学校と敷地は隣接しているし」

「いやいや中央病院も近いよ」

「お断りします」

 にべもないアンの口調に、三人のオジサマ達は黙った。

 

「あなたは、聖女様の推薦で王立女学校に入学したのよね」

 ジャンヌ様が話しかけた。

「はい」

「では、代理の私の希望を聞いてくれないかしら」

「はぁ」

「聞くところによると、あなた達四人はクラブ活動してないのよね」

「はい」

「そのクラブ活動の時間、宮廷教会、中央病院、騎士団から女学校にお邪魔していいかしら。みなさん、どう思われます?」

「は、そのようにしていただけますと助かります」

 騎士団長が言う。他のオジサマたちもうなずく。なぜなら代理とは言え聖女の発言力は、神官長、武官長、医官長よりも大きいのだ。王宮の行う神事に聖女の不在は認められないし、医療の現場においても聖女の力は大きい。戦時においても聖女の祝福や戦死者の弔いは聖女なしには行えない。戦傷者の治療においても聖女がいるかいないかで全く効果が異なってしまうのだ。だから聖女の考えには、神官長・武官長・医官長は一目どころか二目・三目もおくのだ。

 それに対するアンの答えは、簡単だった。

「嫌です」

「なぜ?」

「私には解明しなければならないことがあるんです」

「必要であれば聖女代理の私から、各方面の第一人者に声をかけましょう」

「私だけ特別扱いは困ります」

「では聖女様推薦のあなた方四人全員であれば?」

 ここまでジャンヌ様に譲歩されて、拒み続ける度胸はアンにはない。

「お返事は、他の三人の意見を聞いてからでもいいでしょうか」

「もちろんですよ、では明日、考えを聞かせてください」

 ジャンヌ様はそう言って話を打ち切った。

 

 アンはお辞儀をして、校長室を出た。

 

 教室へ帰ると、フローラ、ヘレン、ネリスが待っていた。

「で、どうだった? どうだった?」

 ヘレンが興奮して聞いてくる。

「うん、王宮教会か、騎士団か、中央病院に来ないかって」

 アンは主語をごまかして言った。

「で、どう答えたの」

「断った」

「えー、なんで?」

 聞いてきたのはフローラだ。

「アン、あんたチャンスじゃない」

「そうだけど、みんなと離れるのはイヤ」

「で、それで?」

「私達四人じゃなきゃ嫌だって言った」

「うん、それで?」

「みんな、希望がちがうじゃん、だからとにかく断った」

 今度はネリスが聞いてきた。

「でも、それじゃすまなかったでしょう?」

「うん、クラブ活動の時間ね、王宮教会、騎士団、中央病院から人が来るって」

「で?」

「うん、みんなの意見を聞きたい」


 みんなちょっと考えていた。

 最初に口を開いたのはネリスだった。

「騎士団から人がくるのであれば、騎士になりたい私は断る必要はないけど」

 一応アンは批判的に聞いておく。

「教会とか、病院とか騎士には関係ないけど」

「そうかな、各種方面とつながりがあると仕事がしやすいだろうし、結局病院にはお世話になりそうだしね」

 女官になりたいヘレンも言う。

「私が一番関係なさそうだけど、人脈は大事よ。私は賛成」

「フローラは?」

「基本の魔法は女学校で習えるけど、攻撃系は騎士団、医療系は教会も強いでしょ。私も賛成」

「じゃ、この話は四人みんなで受ける方向でいいかな? 勉強時間減るよ?」

 フローラが笑う。

「それを一番気にしてるのはアンでしょ。でもアンの目標にもプラスになるよ」

「じゃ、私、今、返事してくるよ」

「もうするの?」

「明日返事をすればいいんだけど、わざわざ一晩ねかす必要もないでしょ」

「そうだね、私も行く」

「私も」

「私も」

 というわけで四人揃って職員室へ行くことにした。

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