第95話 Apostle → Special seat audience
「ホーラスが出てきた。ってことは、勝ったんだ」
ホーラスが奥の部屋から出てくると、ソラが笑顔でそう言った。
「そういうことだな」
「仮にあなたの体が奪われた場合、神になる。そうなった場合、今のところ『汝の名』から出ることはできない。あなたが出てくるのをずっと待っていました」
「制約で私たちから助言はできないんだけど、よく勝ったと思うの」
ファーロスの鍵盤は、もともとはユーディネスがリーダーの冒険者コミュニティ『フォーエバー』所属である。
だが、今まではユーディネスの体をアルゼントが奪い続けたまま使用しており、自らも絶対服従の部下として使われていたことを考えると、『アルゼントのことはものすごく嫌い』のはずだ。
「……あいつらはどうした?」
ランジェアたちが部屋からいなくなっている。
「アルゼントが倒された瞬間、その感覚みたいなものはこっちでも感知できた。その後で、ランジェアが『先に帰る』って言い出して、他の五人を連れて帰ったんだよね」
「……そうか」
ランジェアが何故そうしようと思ったのかはわからない。
聞く必要がないと思ったのか、聞いても仕方がないと思ったのか。それはわからないが……。
「はぁ、ま、勝ったよ。アイツの持ってる剣の性能がえぐかったけどな」
「ああ、『神剣エフェメラ』か。アレはユーディネスがアルゼントに挑むために作った物なんだ」
「挑んだ時から一度も強化されていません。というより、アルゼントには強化する術がなかったとも言えます」
「なるほど……ということは、元は『神剣エフェメラ』という名前ではなかったのか。流石に『フォーエバー』なんてコミュニティ名につけるやつが剣にそんな名前を付けるとは思えんし」
「そうだね。元の名前は『崩名剣クロスアウト』っていうんだ。すんごい特殊な金属を使っていて、ユーディネスがゴーレムマスターとしての力の全てを最高レベルで同時に使ったときは、神の名を消滅させることすら可能」
「なぬっ……『神の名』を真正面からってことか」
「そうだよ」
ソラはニヤニヤしながらホーラスをまっすぐ、煽るように見る。
「無理だって思ってたでしょ。まだまだ、ホーラス君が知ってる世界も狭いよ」
「……さすがだな。ユーディネス」
「とはいっても、別に一度死んでるわけでもなければ、体の中を骨ゴーレムみたいにして弄ってるわけでもない。いたって普通の人間だったけどね」
要するに……。
「アルゼントが俺の体を欲しがったのは、ユーディネスの凄さが理解できなくて、『俺の方がよさそう』って思ったってことなのか」
「そうだね。ホーラス……君の負けなの」
レミから『君の負け』と言われたホーラスだが、別に嫌そうな顔ではない。
「……はぁ、で、お前らはこれからどうするんだ?」
「私たちはアルゼントの使徒として生きていました。アルゼントがいなくなった今、新しい命令が来ることはない。使徒としての役割を果たす必要はありませんが、それ以外のこともできません」
「まあ、世界の邪魔をしないように、隅の方でひっそり生きてるよ。神となった後で死んだ者が行きつく先はちょっと特殊でね。ユーディネス側からこっちは覗けないんだ。良い土産話ができるように、君の物語を見ることにするよ」
「……ねえ、シド。アレ、渡してもいいと思うの」
「そうですね」
シドはコートの裏から10枚のメダルを取り出して、ホーラスに差し出す。
「我々にはもう必要のないものです。アルゼントを倒した報酬は……インゴットとして得ているでしょうが、私たちからの感謝ですよ」
「……いいのか?」
「僕たちがどんな思いでこれを作ったのか、それをホーラス君が知ってると、僕らも理解してる。その上で、君に持っていてほしいのさ」
「ホーラス君も自分で作っていると思いますが、良くて三割でしょう」
「これから君を特等席から眺める代金と思ってほしいの」
「……そうかい。ま、そういうことなら、遠慮なく貰っておくよ」
シドから10枚のメダルを受け取った。
「最後に……私たちは使徒として、許されないことを多くやってきた。そして、それを償う方法はありません。今も使徒であり、そしてそれに応じた制約があることも事実だからです」
「ホーラス君が、それを理解しつつ、僕らを一度も悪としたことはなかった。それはとてもうれしいんだ。この100年。僕らの存在に気が付いたのはホーラス君が初めてじゃないけど、でも、みんな、僕らが悪だと、反抗する意思のない軟弱者だと罵ってきたさ。だけど、君はそうじゃなかった」
「そんなホーラス君が、アルゼントを倒して、ユーディネスを救ってくれたことは、本当に感謝してるの!」
ソラとレミは……ボロボロと、大粒の涙を流している。
「嬉しいって、心から思えるんだ。ありがとう。ホーラス君」
「……知識が深いからな。黒幕がわかるんだよ。だから、その下でゴチャゴチャやってようと、俺は気にしないだけさ」
ホーラスは扉に向かって歩く。
ただ……最後に、一度振り向いた。
「……なあ、五大神。残りの四人を倒して、『汝の名』を攻略して、絶対的な名前を得たら、俺はユーディネスを超えたって言えるか?」
「私たちが保証します。ただ、ユーディネスが悔しがることはないでしょう。きっと、笑って君を称えるはず」
「そうかい……」
ホーラスは、大きなため息をついた。
「なら、悔しがるくらい、もっと凄いことをやらないとな」
顔を扉に向けて、左手を上げて振りつつ……ホーラスはこの場を後にした。
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次話が第3章のエピローグになります。




