第93話 それは真相に値しない真実の羅列。
キンセカイ大鉱脈。エリア100のボス部屋の奥。
そこに侵入したホーラスの眼に最初に映ったのは、『謁見の間』と言える。
大理石の床に赤い絨毯が敷かれており、部屋の奥は高くなっており、そこに豪華なソファが置かれている。
ソファには、一人の青年が座っている。
真っ黒のコートを身に包む長身はとても引き締まった体格で、無駄を感じさせない。
顔だちは若々しく、『静謐』と『軽薄』をぐちゃぐちゃに混ぜたような……そう、『余裕』の表情をしている。
紫色の長髪と、紫の瞳が揺れた。
「お前が、糧在神アルゼントか。だがおかしいな。俺の知識が正しければ、その姿……100年前に存在した冒険者コミュニティ『フォーエバー』のリーダー。ユーディネスと同じなんだが」
「ほう? この体を描いたすべての肖像画はこの世から抹消したはず。よく初見でわかったものだ」
アルゼントは拍手をする。
部屋は広く、強くたたいていないが、その音はよく響いた。
「さて、ホーラス。君が我を倒しに来たというのは理解した。ただ……何故かを問おう」
純粋に疑問に思っているようだ。
ホーラスは迷わずに答える。
「単純な話だ。気に入らん」
「気に入らない?」
「そうだ。俺は、『お前たちは家畜だ』と言われるのが気に入らない。俺が憧れた男を穢すのが気に入らない。そして……『俺の邪魔』をするのが気に入らない」
「ほう……何故そこまで知った? そんな手段はないはず」
「12年前。俺は一度死んだ。その時……俺の意識は体を、この世界を離れて、『この部屋の奥』に入りそうになったことがある。その時、『お前たち五人』の話を聞いた」
「12年前? 五人で集まった時……ああ、あの時か。なるほど、あの会話を聞いたのか」
アルゼントは不敵な笑みを浮かべた。
「その声を聴いていたら、この星にある俺の体が蘇生されて、俺の意識もここから元の体に戻り始めた。だから俺は、普通なら知りえないことを、いくつか知っている」
「そういうことか」
アルゼントは微笑みながら……どこか馬鹿にしたように言う。
「ホーラス。お前は知っているわけか。この試練ダンジョン『汝の名』の真実を」
「そうだ。このダンジョンは本来、最後までたどり着いたものが望んだ物体に、『絶対に覆らない名前』を与えるという報酬が待っている。そしてお前たちは、『神の名』を得た」
「その通り、この『汝の名』にたどり着けるダンジョンは世界に五つ存在する。我ら五人は、それぞれのダンジョンを越えて、このダンジョンの奥にたどり着き、神の名を得た。その次に行なったのは……その力を使って、世界からありとあらゆる『力』を搾り取ることだ」
「五人は別々の何かをつかさどるが、お前がつかさどるのは『糧』……何かが何かを殺した時、その殺された側の在り方を定める。その力で、お前は力を得続けた」
「そうだ。何かが何かを殺す。それは自然なこと。最も世界で自然に行われることに干渉した我は、その力をほかの四人に分け与え、強化し……この『汝の名』というダンジョンを、我々の拠点へと作り替えた」
『キンセカイ大鉱脈』というダンジョンの奥に『汝の名』というダンジョンの入り口があるのなら、そこから先に、まだまだ『道』があるはず。
こんな入ってすぐの場所に、ある種のゴールともいえる謁見の間があるはずがない。
ここに謁見の間があるのは、2000年前、アルゼントがキンセカイ大鉱脈を攻略し、この場所から『汝の名』に挑んだゆえに、『五人がプライベートな空間をどこに用意するか』と話した時、彼がここを選んだからだ。
「……そして、そう……貴様は言ったな。『俺の邪魔をするのが気に入らない』と」
「ああ」
「その中身だが、ユーディネスがかつて書いた自伝に載せた記述……『ゴーレムマスターにとって、神とは、拝む物でも祈るものでもなく、造るものだ』という、その一文を見たときの感動が忘れられないからだろう」
「その通りだ。そして、真の意味で『神を造る』ならば、このダンジョンの奥までいくしかない。それを邪魔されるのは、気に入らん」
この世界で『最強』を名乗るならば、魔力の扱いに誰よりも長けている必要がある。
そして、魔力は安定を求める。
その安定は、『名』によって強まる。
要するに……『絶対的な名を刻む』ことができるこのダンジョンは、ゴーレムマスターにとって、『神を造る』と豪語する傲慢不遜な者たちにとって、とても重要な場所なのだ。
そして、ゴーレムマスターにとって、多くの金属を集められることは重要であり……そしてゴーレムマスターであったユーディネスも、『キンセカイ大鉱脈』を通ってここに来たはず。
だからこそ、『此処』で邪魔されるのは、ホーラスにとって、とても気に入らない。
ダンジョンの入り口を、私物化するな。独占するな。
そんな権利は、誰にも保障されていない。
「そうだな。今も……2000年前もそうだ。ダンジョンの私物化、独占は全ての人間が認めないことだ。しかし、神に至った我が、人に配慮する道理はない」
アルゼントはソファから立ち上がった。
「機械仕掛けの神か。面白いことを言う。貴様程度が、神の名をつけるか? わかっているはずだ。このダンジョンの奥に行かなければ、『真の名』は得られない。紛い物の神であると自覚しながら……神を倒せると?」
「当然だ」
「いいだろう。100年ぶりにこの地に立った『挑戦者』だ。この『糧在神アルゼント』が、貴様の歩みが『神話』を語るに値するか、直々に採点してやろう」
アルゼントが右手を前に出すと、そこに一本の両手剣が出現した。
紫色の刀身には、連なった歯車のような溝が彫られている。
「『神剣エフェメラ』……さあ、剣で語ろうか。その鎧がガラクタになるまでの時間を」
それを聞いて、ホーラスは峰に筒が十個付いた片刃の大剣を出現させ、鼻で笑いながら口を開く。
「ハッ! 悪いが、一生物のつもりで作った一張羅だ。馬鹿にしないでもらおうか!」
不敵な笑みとともに、両者、前に出る。




