第80話 独占主義の勘違い野郎は拳でわからせるタイプ
勇者屋敷の門の前に、六人のマントを着用した人たちがやってきた。
ロバートが五人連れてきた形である。
「……なあロバート。やっぱりお前。馬鹿だな」
「なんだと!」
門の傍で待機していたホーラスは、ため息をつきながら門の外に出て、ロバートに向けてそう言った。
「俺さ。なんでお前がテラ・ディザス封印任務を任されてるのかがわからなかったんだが……どうやら、お前が抱えてる『兵隊』によほど自信があるらしいな」
ホーラスはロバートが連れている五人を見る。
全員がフードを深くかぶっているので顔はわからないが、見たところ、全員が二十代半ばといったところだ。
体付きや装備からすると、三人が男性で剣士。二人が女性で魔法使いといった構成。
「竜封院の役割は知ってるが、『組織の構成』は知らなかった。どうやら、明確に管理側と兵隊側に分かれてるらしい。ロバート。お前は管理側で、その五人は選りすぐりの兵隊ってことだろ?」
「その通りだ。全員がSランク冒険者に匹敵する実力の持ち主! その余裕の表情をすぐに崩してやる。おとなしく宝石を渡せ!」
歪んだ笑みを浮かべているロバート。
「渡す気はないな」
「この戦力を見て何も思わないとは、どうやら、観察眼は皆無らしいな。そんな男がドラゴンの宝石を持っているのは危険しかない!」
「相手が言うことを聞かなかったら暴力で解決する奴に力を渡す方が危険だろ」
ホーラスは大きめのブーメランを投げたような感覚があったが、気にしないことにした。
「俺に口出しするな! お前は人間ではなくモンスターだ! 人類の敵だ! 調子に乗るなよ。お前を殺したところで、俺は何の罪にも問われないんだからな!」
「事実だな。確かに、俺を殺しても罪には問われないよ。モンスターを殺すことを罪にすることはできない。が、俺が調子に乗らない理由にも、お前に宝石を渡す理由にもならない」
ホーラスとしても、認めている部分はあるし、受け入れざるを得ないと考える部分はある。
しかしそれ以上に、彼は『無責任』だ。
周りが何を言おうと……そう、『ホーラスを殺しても罪に問われない』と主張しようと、気にしない。
モンスターだから人間の道理を気にしないのではない。
ホーラスは、自分が『人として無責任である』という本質を自覚するからこそ、主義の善悪を気にしない。
そして、無抵抗でいようとは思わない。
人間もモンスターも、『殴ったら殴り返される』という摂理は変わらないのだ。
「ロバート。お前が言っていることは、ただの『独占』だ。人の身で最強種族であるドラゴンの力を独占し、その力で権威を示す。それは勝手にすればいいさ。だが、『独占の権利』は強者にあるんじゃない」
まっすぐに、ホーラスはロバートを見る。
「何かを独占する権利は、誰にも保障されていないんだ」
「はっ! モンスターが何を言うかと思えば、これ以上の言葉は不要! 痛い目にあってもらおうか!」
ロバートが指を鳴らす。
次の瞬間、男たちが剣を抜いてホーラスに斬りかかる。
それに対し、ホーラスは右手に『はーっ』と息を吐いて……。
「ほらよっ!」
剣を回避して男たちの顔面にパンチ!
「ぶえっ!」
「次っ!」
「ぶごっ!」
「最後!」
「ぐはっ!」
「ごめん嘘!」
「「「げふっ!」」」
とりあえず一発ずつ殴って、三人目で『最後』といったが、とりあえずもう一発殴っておこうと思ったようだ。
嘘と言いつつ三人に一発ずつ鉄拳を入れて身悶えさせる。
「……はっ?」
「ん? ……ああ、普段の動きよりものすごく遅くて驚いてるのか」
「そ、そうだ! お前たち、何をしている! そんな軟弱そうなやつ一人相手に、何を……」
「理屈を並べるなら、魔力っていうのは安定を求める物質で、強い奴はこれを体で練り上げて身体強化に使う。が、自分以上の強者を相手にすると、相手の魔力に『呑まれて』、自分の身体強化が安定しないんだよ」
「そ、そんなの聞いたことがない!」
「勉強不足だな」
ホーラスはロバートに向かって歩く。
「ヒッ、お、お前ら。こいつを殺せ!」
「「っ!」」
女魔法使い二人が杖を構えて、素早く魔法を放った。
杖から火の玉がホーラスに向けて放たれ……ホーラスが少し威圧すると、魔力が安定しなくなり霧散する。
「なっ……」
「嘘っ……」
ホーラスは驚いている二人の頭に拳骨を落とした。
「「痛っ!」」
拳骨を受けた二人は足がふらつき、そのまま地面に倒れて、頭を押さえて悶えている。
「な、何をしている! 一発入れられただけで……」
「魔力は安定を求めるが、いじると逆に『めちゃくちゃな状態』も作れるんだよ。普段から頭に魔力を通してる魔法使いの頭にぶち込めば、、そりゃ三次会の後みたいに足がふらふらになるさ」
「な、なんなんだ。何なんだよお前は!」
「ただのゴーレムマスターだ」
「どこがだ!」
ホーラスはゴーレムマスターを名乗るが、こういった制裁の時は使わない。
というより、彼の場合、『操作範囲を限界まで狭くする代わりに、高性能のゴーレムを扱える』という技術的な性質を持っている。
無理に使おうと思えば使えるだろうが、ぶっちゃけ、ぶん殴ったほうが速いのだ。
「まあ要するに、それくらい原則を理解してるから、高性能のゴーレムを使えるっていう、それだけの話だ」
ホーラスは右の拳に左手を添えて、バキバキと鳴らす。
「ま、待て、謝る。もうお前には手を出さ――」
ロバートの頬に鉄拳が突き刺さった。
「ごはああああっ!」
そのままギュルギュルと回転しながら空を飛んで、地面に墜落して滑って、沈黙した。
なお、顔は無傷。
どうやら傷が残らないタイプらしい。
「凄いだろ。痛覚だけ刺激して肉体に損傷を与えないんだ。すぐに痛みは引くだろうけど、次は普通にぶん殴るからな」
ホーラスはロバートに背を向けた。
「おい、お前らもう立てるだろ。アイツを回収してさっさと帰れ」
「ぐっ、クソっ……」
彼らの表情を見れば、ロバートに納得していないのはわかる。
ただ、彼らとしても簡単に負けるとは思っていなかったはず。
悪態をついて、ロバートを回収して帰っていった。
彼らが見えなくなると、ホーラスはつぶやく。
「……兵隊たちのあの動き、『血の杯』を応用した隷属で『反抗』を封印してるってところか。竜だけじゃなく人も『独占』する気だって言うのなら、腐った組織だよ。ほんとに」
★
その四日後のことだ。
カオストン竜石国の最北端にある山で、突如、巨大台風が発生した。




