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第79話 食い違い

 ロバートが去った数十分後。


「災冥竜テラ・ディザス。聞いたことがありませんよ!」

「そんな化け物が二週間後には復活する……にしては、余裕そうですね。師匠」


 勇者屋敷のロビー。

 シンディがソファに座り、そんな彼女の膝枕でエリーがくつろいでいるが、ランジェアとウルリカが『災冥竜テラ・ディザス』の説明をして、驚いているようだ。


 とはいえ、エリーは膝枕で幸せそうなので、内心はわからないが。


「一応、そのための準備はしてるからな」

「準備?」

「ああ。俺が『機械仕掛けの神《デウス・エクス・マキナ》』を組み上げる目的とはズレてるが、一応、そいつと戦うことも想定してる」

「アレを使うことを前提にする強さ……私たちの出番はあるのですか?」


 ランジェアの疑問にホーラスは顔をしかめる。


「それがなぁ……なんか妙な部分はあるんだよな」

「妙?」

「そうだ」


 ホーラスは新聞を机においた。


「ロバートの任務が災冥竜テラ・ディザスの封印であることは間違いない。が……竜封院は過去に出現したテラ・ディザスの情報を持っているはずで、アイツが勝てるとは思えない」

「むう? 師匠の予測だと絶対に勝てない人材を送り込んできたってことですか?」

「そうだ。ガイ・ギガントとゼツ・ハルコンと比べても、アイツが勝てるとは思えない」

「情報の食い違いがあるということなのだ~。ただ、どう食い違うのかは、情報が少なすぎて判断ができないのだ~」


 ウルリカが考えているが、情報が揃っているのならともかく、そうでないときのウルリカの思考速度には限界がある。


「父さんが竜封院の人間に詳しいけど、聞いたのはもう十五年も前だからな。俺の記憶だってあやふやだが……SSランク冒険者に匹敵する人材はいるはず。多分、ロバートはAランクくらいだろうし」

「弱いってわけじゃないけど、今回のドラゴンを片付けられるほどじゃないってこと?」

「そうだ。そこが引っかかる」


 ホーラスはロバートを選んだ人事部には疑問を持っているが、別に竜封院という組織そのものに不満があるわけではない。


 西の大山脈を越えた先にある亜人種たちを食い止めるために、その『最強種』であるドラゴンに優位性を持つ。


 これによって、『いざとなれば、ドラゴンを動かして自分の味方につけることができる』という関係を作る。


 秩序として一つの形なのは事実であり、それを維持する努力として認められるべきだ。


 竜封院の大部分は問題ないと考えている。

 が、ロバートに関しては『何故?』という感情が強い。


「竜封院が想定しているテラ・ディザスの強さが、俺が手に入れた情報よりも弱いってことになる。そんなことがあるのか……」

「そもそも、師匠はどうやってテラ・ディザスの情報を?」

「ディアマンテ王国の王都に図書館があるだろ?」

「あるのだ~。蔵書数は血統国家の中で一番と言われてるのだ~」

「そこにある本を、政府関係者としての権限も使って、通常は閲覧できないやつも全部読んで『考察』した」

「普通の人間にできるわけないですうううううっ!」


 シンディが絶叫。


「いや、俺もそこは理解してるが、竜封院は俺が閲覧できないほどの『事実』を知ってるはずだろ」

「師匠。ドラゴンがもたらす騒動は、様々な要素を持つのだ~」

「存在するだけで災害を発生させると言いますが、言い換えれば、『竜』だけではなく、『災害』の知識が深くなければ、そのすごさや強さを想定できないということですよ?」

「……」


 ホーラスは黙った。


「実際に倒すとしてどうなのか。そのあたりの知識は、竜封院も持っているでしょう。しかし、『災害』に対する知識が不足するからこそ、『テラ・ディザスという存在がどれほどのものなのか』の全貌がわかっていない。竜封院の現状とは、おおよそ、そのようなものでは?」

「ありうるのだ~。というか、蔵書数が20万冊なのに、どうやって読んだのだ~?」

「大量のゴーレムに文字を認識する機能を付けて、それを図書館に流し込んだ」

「『ゴーレムを流し込む』なんて表現、聞いたことがありませんよ!?」

「……やっぱり師匠の頭っておかしいのだ~」


 世の中、どうしようもないことはあるのだ。

 ホーラスの頭とか。


「……まあ、その、俺の想定よりも弱く想定されてるのはいいとして、一応、引っかかる部分はあるんだよ。俺なりに」

「どういうことですか?」

「テラ・ディザスの復活を予想してるやつは、俺と竜封院と……確定でもう一人いるんだよ」

「もう一人?」

「ああ……ちょっとここでは明かせないけどな」


 ホーラスは溜息をついた。


「……ん? 屋敷の外が騒がしくなったか?」


 屋敷の出入り口を見ながら、ホーラスがそんなことを言った。


「全然聞こえないのだ~」

「師匠の耳がおかしいのはいつものことですよ」

「耳だけじゃなくて全身がおかしいですからね!」

「お前たちって誰の味方なんだ?」


 言いたいことがわからないわけではないが、いろいろな意味で人外扱いされるとホーラスも少しへこむ。


 ……まあ、一度死んで、そこから復活アイテムで蘇った『モンスター』だということはホーラスが語った事実であり、そこを突かれると人外認定されても仕方がないのだが。


「はぁ、ロバートは何を引っ提げてくるんだろうねぇ」


 ホーラスはそうつぶやいた。

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