第64話 包囲の善悪はともかく、力不足ではそもそも無意味。
シーナチカ教会の神聖騎士。
主に大神殿を総本山とするシーナチカ教会の『大神殿』に所属する騎士たちであり、神より与えられたという武具を身にまとう集団だ。
彼らが派遣されることで宗教国家はモンスターから守られ、派遣代金として寄付金を送る。という関係が『大神殿』と『宗教国家』で長い間続いており、騎士団の中でも現場の人間は最低限強い。
真っ白な……そう、『使ったことがなさそうな鎧』を身に着けていたとしても、最低限は強い。
「出てきたな! 世界の崩壊を招く大悪人!」
門を破壊して敷地に堂々と入ってきているのは、白い鎧に金色のアクセサリーをジャラジャラつけた男だ。
剣を抜いて、切っ先をまっすぐホーラスに向けている。
「私は神聖騎士団、第八隊隊長。オルヴァーだ! 貴様の首を斬り落とし、世界の滅亡を阻止する!」
「……神聖騎士団ねぇ。確か、一から三までは管理が別の部署で実力派だが、四以降はただのゴロツキと聞いたことがあるけどな」
「誰がゴロツキだ大悪人! 勇者を利用して世界を混乱させる貴様に、口を利く権利はない!」
「勇者を利用して世界を混乱……か。まあ、お前みたいなのが世の中に蔓延るんなら、魔王が世界を侵略した方がいい部分もあっただろうな。そんな魔王を倒す勇者を鍛え上げたんだから、確かに世界を混乱させたのは間違いない」
「師匠、皮肉はやめておきましょう。通じませんから」
「それもそうか」
ホーラスはオルヴァーに向かって歩いていく。
「貴様を抹殺し、勇者を保護する。私の剣の錆になれ!」
オルヴァーが剣を構えて突撃する。
「……一応言うが、俺はゴーレムマスターだ。まず、ゴーレムを使わせるところから始めてくれ」
同情や呆れといった感情が強いホーラス。
威圧することもできるが、そういう『気分』ではないのだろう。
右手を前に掲げると、灰色の魔力が手からあふれて、それが剣の形になる。
単純に『魔力を剣の形に固めただけ』といった様子。
「死ねえええええ!」
オルヴァーの振り下ろしに対し、ホーラスは全力で剣を衝突させた。
突如、オルヴァーの両手に普通では考えられないような負荷がかかり、後ろに下がる。
「チッ、大悪人のわりに剣の腕もそこそこ……はっ?」
オルヴァーは驚愕する。
彼が持っていた剣が……鍔と柄を残して、刀身が消えていたからだ。
「探し物はこれか?」
「はっ、あ、はぁ!?」
オルヴァーはまた驚愕する。
彼の視線の先では、ホーラスが、八等分にした刀身でジャグリングをしている。
「これくらいで何驚いてるんだ? 報酬無制限を相手にしてるんだぞ。お前のすべてを懸けたところで、足りないのは最初からわかってるだろうに」
「ふ、ふざけるな!」
「あ、そうそう」
ホーラスは八つの刃を真上に力強くぶん投げる。
その分、上に飛んでいった。
「お前の手に『強く感触を残した』から勘違いしてるだろうけど、柄、『本物はこっち』な」
ホーラスが背中側に隠していた『鍔と柄』をオルヴァーに見せた。
「はっ?」
次の瞬間、柄を握るオルヴァーの手が……ブレた。
「ヒイイイッ!」
腰が抜けて地面に座り込むオルヴァー。
ホーラスはそんな彼をしり目に、柄を握りながら鍔を上に向けて……そこに、八等分された刀身が落ちてきて、カンカンッと音を立てて剣の形に戻っていった。
全て落ちてくると、ホーラスはブンブンッと試しに振って、刀身が離れないことを確認すると頷く。
「ほい、返す」
剣を投げると、まっすぐ、オルヴァーの腰にある鞘に入った。
「うおっ! はぁ、はぁ、な、なんなんだお前は!」
「ちょっと父親から剣を習っただけのゴーレムマスターだ。もう十五年も会ってないが、昔はこんな『大道芸』をよくやられたよ」
懐かしそうな様子のホーラスだが、内容は明らかに子供の教育に悪い。
「こ、こんな、こんなレベルに達して……」
「お前の様子を見る限り、どうも……『俺が巷で暴れてるゴーレムの操縦者じゃない』って知ってるよな」
一歩一歩、歩いてオルヴァーに近づく。
ただ、腰が抜けたオルヴァーに離れる力はない。
「そ、そんなわけがあるか! お前があのゴーレムを動かしてるんだ! ここにいても、こんなアンテナがあるんだから、動かせるに決まっている!」
そう叫ぶオルヴァーだが、目は泳いでいる。
どこか『用意していたようなセリフ』であることも踏まえて、明らかに『真実を知っている様子』だ。
「……アンテナは『規格』が決まってるから、それに合わせないといけない。このアンテナは『鉄製』にしか対応しないぞ。次からは石じゃなくて鉄でゴーレムを作ってくれ」
「はっ?」
「お前らの計画が穴だらけだって言ってるんだよ」
オルヴァーの近くまでくると、ホーラスは彼を見下ろしながら言った。
「お前がどこまで『上』に言えるかは知らんが、言っておいてくれ、『俺にはどうしようもなかった』と」
「な、何の話だ!」
「お前は知らない方がいい。あまり踏み込んで、消されたくないだろ? 三年前、確か第六隊隊長が『消された』よな。多分それが原因だからな」
「……」
オルヴァーの顔が真っ青になっている。
彼が何を思い出したのかはわからない。
ただ、ひどく、『恐ろしい事』があったのは間違いない。
「さっさと帰れ。お前じゃ力不足だよ。何もかもな」
少しずつ、威圧が出てくる。
ジリジリと強くなるそれを感じ取ったのか、オルヴァーは跳ねるように逃げ出した。
「く、クソっ、覚えてろよ! シーナチカ教会に楯突いたことを後悔させてやるからな!」
オルヴァーはそう言って、破壊された門から出ていった。
そんな彼を追って、慌てたように部下も撤退していく。
「はぁ……」
ホーラスは門の傍に来ると、右のつま先でトントンと地面をつく。
それだけで、地面が動き、門が高速で修復された。
「全くイライラしない。困ったな。これは」
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