第63話 最も雑な理屈から、間違いは始まる。
パストルが宝都ラピスの辺境でドラゴンに変貌して大暴れしたという事件は世間をにぎわせた。
まず彼自身が冒険者協会本部役員であったことや、『役員が引き起こした大損』ということで隠していた『四年前の大失態』が漏れたこと。
冒険者協会の信用問題に発展するほどのものであることに間違いはない。
……しかし、これはいとも簡単にかき消された。
「……宗教国家の多くで、ゴーレムが暴れてると」
「岩とかレンガとつなげて作ったような……『モンスターとして一般的なゴーレム』が、町に入って施設を壊したり、村で畑を荒らしたりしていると」
「それが師匠のせいになっているとシーナチカ教会が公式に発表していて、『このままでは世界崩壊につながる』として、師匠を『報酬無制限』の指名手配にしたというわけね」
「なんていうか。杜撰だな」
ホーラス、ランジェア、ティアリス、ラーメルの四人で、ロビーに集まって話している。
ここ数日で集めた新聞や噂の資料をもとに、導いた『現状』がこれだ。
まず、世界中に数多くあるシーナチカ教会を置いている国家で、ゴーレムが暴れだしている。
岩やレンガをつなげたような『モンスターとして一般的なゴーレム』が暴れており、何故か、このゴーレムを操作しているのがホーラスであるということになっている。
このままでは世界中の供給力が破壊され、世界が滅亡する可能性もある。
この事態を解決するために、ホーラスを何としてでも打ち倒すべきであり、そのために『限度額無制限の報酬』を設定し、指名手配書をばらまいた。
これがシーナチカ大神殿の公式発表であり、話が広まり続けて止まる様子がないので、『公式』であることに疑いの余地はない。
そして、とても穴がありすぎる。
「……情報の中に、『三日三晩動き続けたゴーレムが、交易都市を破壊しつくした』って情報があるけど、これ明らかにおかしいぜ」
「ええ、師匠がこの町に来てから、『ダンジョンに入らなかった日』はありません。そして、ダンジョンの中にいる場合、ダンジョンの外に魔力を飛ばすことはできません」
「確か、出入り口に分厚い『魔力の壁』みたいなのがあるって理論よね。ダンジョンの中から、ダンジョンの外にあるゴーレムは操作できない。これは大原則よ」
「俺もできなかった。ダンジョンの中からダンジョンの外のゴーレムを動かそうとする場合、唯一の条件は、その『壁』が破壊される『魔物氾濫』が発生した時だけ。というか……それが破られると、この世界の安全保障が全て崩れる」
ダンジョンの中と外で、魔力の受け渡しはできない。
その壁の力は強く、どれほど強力な魔道具を使っていたとしても、出入り口を通過するときは全ての機能が停止する。
これはホーラスであっても突破することは不可能。
シドと戦ったときに使った『大型機械銃』の最大火力であっても、壁を貫通することはできない。
一定以上の『エネルギー』を発揮する魔力は、全て通過できないのだ。
「俺がダンジョンに一日一度、絶対に入ってることは、出入り口の事務室に確認すればわかることだ。明らかに、『全ての人間に納得させるための理屈』じゃない」
「ということは……師匠に難癖をつけたい人間に、難癖をつける理由を与えるためだけに広められたと?」
「わけわかんねえな。こんな世界中から非難されても文句言えねえ理屈。普通に出せる神経が理解できねえ」
正直に言って、『荒唐無稽』なのだ。
明らかに『ホーラスの印象をただ下げたいだけ』である。
ただ、人間というのは『最初に荒唐無稽だと思っても、その後に続く理屈』で、何度も踊らされる。
「……あと、俺がもともと、世界を支配する野望があった話になってるな」
「え?」
「弟子を利用して借金という形で世界を支配する計画だったが、それが上手くいかないからゴーレムの暴力による制圧に切り替えた」
資料を読みながら、ホーラスは溜息をついた後、言った。
「これで俺を打ち倒せば、借金という計画を指示した元凶が消えるから、債務が全て帳消しになるだろうってさ」
「……あー、なんというか。賢いわね」
「そうだな。賢い。援助という形で最初は金貨を渡していたが、エリーが計算して、『これ以上は復興支援の枠を超える』となった場合は借金になってるが、その部分も俺の指示だったってことにして、俺を倒せばどうにかなるような形にしてる」
辻褄合わせ。
それが正確なのか否か。正しいかどうかは関係ない。
ただ、都合のいいデータを選び、つなげて、そこから『推測』で、ホーラスが悪者であるという結論に導いている。
「まあ、現状、一番の疑問点は……師匠が『怒り』を感じていないことね」
ティアリスは微笑を浮かべたままで、ホーラスを見る。
「そういや、最初から、なんか……」
「『同情』……といった雰囲気ですね。何か知っているのですか?」
「……ああ、知っているが……お前たちでも納得できない事実に触れる必要があるからな」
「それはいったい――」
その時、扉が開いた。
「みんな、『神聖騎士』がこの屋敷を囲ってる!」
メンバーが焦った顔つきでそう言ったのを見て、ホーラスは溜息をついた。
この作品を読んで面白いと思った方、もっと多くの人に読んでほしいと思った方は、
ブックマークと高評価、よろしくお願いします!
とても励みになります!




