第60話 ホーラスVSシド 弾幕パーティーに見えて実は居合
ホーラスが二丁拳銃で魔力弾丸をばらまき、シドは両手の先にある水玉から触手を出して防いでいる。
シドの周囲に浮かぶ十個のフラスコは、中にそれぞれ別の色の液体が入っており、時折水玉の触手が入って成分を取り込んでいるようだ。
触手は銃弾を防ぐだけではなく、自らも水属性の弾丸を使ってホーラスに放っている。
……ただし、ホーラスの装甲に対して、ほぼ無力の様子。
時折、二人は接近し、触手の直撃はホーラスも武器で防ぐが、遠距離攻撃になると通用しないようだ。
「……その十個のフラスコの中にいろんな成分が含まれていて、それをもとに触手を強化して戦ってるわけか」
「その通り。なかなか使い勝手が良いでしょう」
「有用性はわかるさ。俺が『ゴーレムマスター』なら、そっちは『スライムマスター』ってところか? あんまり頑丈じゃなさそうだが、汎用性が高い」
「フフッ、そちらは相当性能が高い。ただ……あなた自身、ゴーレムの操作能力は高くても、製造速度はそうでもない様子。強い武器を作ることはできても、作成には時間がかかると言ったところでしょうか」
「やっぱりわかるか」
「当然です。あなたが霊天竜ガイ・ギガントと戦ったときの噂は聞きましたが、その時とあまり武装が変わらないところを見ると、まず間違いはない」
お互いにドカドカと銃弾を撃ち続けていて大変うるさい状態になっているが、普通に会話している。
お互いに聴力を強化する術があるのだろう。
「ただ、ホーラス君。多くのハンデを抱えながら、よく戦えるものです」
「ハンデ?」
「あなたに私を殺すことはできない。私の魔力を乱し、戦力として低下させることもできない。その事実があるからです」
「……お前がそれを言うってことは、『アレ』の復活も近いか」
「貴方の勝利条件は、私を深く傷つけず、魔力を乱さず、一撃で気絶させるなどして戦闘不能にさせること。まあもっとも、その条件は私も同じですが」
お互いに何かの情報を持っており、それを前提にした場合、『相手の命を奪うことはおろか、戦力として崩すこともできない』ということだ。
本気も全力も出せない。
そして、お互いに、『手加減を前提とした手段』が不足している上に、そういった調整をしてもお互いの技術力が高すぎて使い道がないので、どうにもならない。
しかし、ホーラスは『上』で起きていることに介入したいがゆえに、上手く一撃で意識を刈り取りたい。
シドは上にホーラスを介入することを防ぎたいので、ここで足止めしている。
「はぁ、ずいぶん面倒だ」
「フフッ……しかしその装備。なかなか面白い設計ですね」
「ん?」
「攻撃力や防御力、速度が『可変式』の様子。十個前後の『アビリティスロット』があり、その枠を使うことで攻撃力や防御力が強化できる。それらの枠をガチャガチャと入れ替えて戦っているのでしょう」
「よくわかったな」
「観察力は必須でしょう。ちなみに枠はいくつあるので?」
「12だ。ちなみに、武装を使う場合もスロットの枠が必要で、片手剣や拳銃は1つ使う」
「ほう……では、ガイ・ギガントを倒した両手剣は?」
「5だ」
「これは恐ろしい……」
ホーラスがここまで情報を提示するのは、それをすることによってできる戦略を構築するためだろう。
単純に武力と武力のぶつかり合いになる場合、隠し玉というのは重要だが、ホーラスやシドの場合、『相手に与えることで行動を制限する』ことも必要だ。
「要するに、あの両手剣を使う場合、あなた自身のスペックが少し落ちる……ん? いや、違う、ガイ・ギガントを倒した時より、五割程度強い? まさか……」
一瞬、シドの思考がブレた。
次の瞬間、ホーラスの両手から二丁拳銃が消失し、大型の機械銃が出現している。
ホーラスがトリガーを引くと、黄色の光線が銃口から放たれる。
シドは慌てたように触手を大量に出して搦めて盾を作ったが、光線はそれでは止まらない。
そのまま触手の盾を貫通し、シドの全身を捉えた。
「……ふう、集中力が足りんよ」
ホーラスは、体がしびれて動けなくなったシドを見下ろしながらそう言った。
「お前が想定した通り、コイツの完成率は、以前は8%だったが、今は12%まで上がっている。それを教えたら、『お前の頭の中で計算が狂う』とは思ったが、あそこまで思考がブレるとは思っていなかった」
「あー。シドの悪い癖ではあるんだよねー」
「!」
シドの後ろから姿を現したのは、青髪を伸ばした、中性的な顔立ちでスーツの少年。
「おまえは?」
「僕はソラ。シドの仲間だよ」
「なるほど……アルバロの『資金』はお前が用意したのか」
「そのとーり。彼は債券で市場を作るシステムを考え付く頭脳と、実際に運用するだけの行動力があった。だからそこで接触して、『借金という信用を前提とするシステムはいずれ破滅を招く』という風潮を作る任務を遂行してもらっていたのさ」
楽しそうに微笑むソラ。
「アルバロの奴は、失敗することを前提に動いていなかったと思うが?」
「それも事実。彼は債券というシステムをうまく作ることで、世界を変えらえると思っていて……成功すれば本当に変えていただろうね」
「……事業を大きくすることを考えていたが、結局、失敗したというわけか」
「そうだね。まあ、僕らからすると『任務完了』……言い換えれば『君の負け』という形に終わった」
「……」
「ん? 何か?」
ホーラスなりに、何か考えている様子だったが、すぐにつぶやく。
「現金主義を浸透させる。これの本質がわかっていなかったが、お前の説明と今の状況でわかった。『信用』がなければ、人は金を『自分で持つ』……お前たちの作戦はそれを軸に立ててるわけだ」
「そうだね。硬貨を金庫に預ける。それだけのことであっても、金庫に信用がなければ成立しない。信用だ。信用というものが、社会を形成するうえでどれほど重要なのか……金の議論が進むと同時に研究して、今に至るという感じだね」
ソラは本当に楽しそうだ。
「しっかし、ホーラス君。本当に頭がいいね」
「そうか?」
「思ったより打てば響くような会話だ。フフッ……まあ、そろそろ終わりにしよう。僕はシドを回収して帰るとするよ」
「……」
「上……もう終わったよ? パストル君は無事、ランジェア君に負けて、今は肌の色が変わった人間って形になってる」
「!」
ソラがそう言うとホーラスは驚愕し、全速力でボス部屋から出ていった。
「……さーて、シドもヘマしたね。同格かそれ以上が相手だよ? 一瞬の隙が勝敗につながるに決まってるじゃん。弾幕パーティーの形にしてお互いに距離を取れてるからって油断したらダメでしょ」
「……」
「口だけなら動くよね。ぐうの音も出ないってことか」
「……あなたが彼を止めればよかったのですがね」
「止められないでしょ。僕、シドより弱いんだし。さてと、ここにいても仕方がないし、さっさと移動しようか」
ソラはシドの体を肩に担ぐと、ダンジョンの外に向かって歩き始めた。
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