第59話 ホーラスとシド。会話もとい『解話』
ランジェアとパストルの戦いが始まる少し前。
「……このタイミングで俺に接触するのか。てことは、上でパストルとセデルが暴れてるのか?」
キンセカイ大鉱脈の深層。元ボス部屋。
広々とした空間で、ホーラスはシドに遭遇し、そうつぶやいた。
「ほう、初対面なのによくお分かりで」
「『ファーロスの鍵盤』だな」
「代表のシドと申します。貴方とは話をしたいと思っていました。ホーラス君」
「俺と話ねぇ……」
お互いに隙を見せない様子で対話している。
「ホーラス君。まず最初に、君に聞いておきたいことがあります」
「ん?」
「冒険者が調子に乗り出してから、あなたはどう思いましたか?」
「……」
「『宮廷冒険者』を作ろうという騒動。暴走する協会本部の役員。挑戦でも不満解消でもなく、ただ『傲慢』に振舞うだけの冒険者たち……いろいろありましたが、どう思いますか?」
シドの視線は、本当に『ただ聞いている』といったもの。
別に、ここでホーラスがどのように語ったところで、それに対してアレコレ皮肉を言うということもなさそうだ。
「そうだなぁ。なんか、イライラすると思ってんだが……ああ、そうか。お前たちは、俺が霊天竜ガイ・ギガントを倒したあたりから、俺を意識していたのか」
ホーラスは溜息をついた。
「嫌がらせか。趣味の悪いやつだ」
「嫌がらせ? よく言いますね。コピー機の営業の情報を耳にしたとき、目ん玉が飛び出るかと思いましたよ?」
「あー。やっぱり、そこは引っかかるのか」
「当然です」
シドはコートの裏から金貨を1枚取り出した。
「あなたは予測しているでしょうが、この魔物硬貨は『センサー』になっていまして、欲望……それも、『うまく炊きつければ失敗しそうな強いもの』を感知するようになっています」
「だからお前たちは、この硬貨を多くの人間が『手持ちしている』……言い換えれば、『現金主義』を維持したいわけだ」
「ええ、貨幣というシステムを利用すれば、このコインを多くの人間が持つ状況になり、それはセンサーとしての役割を果たします」
「だが、『人間が金の議論』を続けたことで、誤算が産まれた」
「ええ。特に借金というのは面白いですね。アルバロ君がわかりやすいでしょう。現金ではなく、それをもとに同額の債券を作り出し、交換するシステム……正直脱帽です」
不敵に笑うシド。
彼は金貨をしまうと、呆れた表情でホーラスを見る。
「『硬貨』を持たずとも金銭的な取引ができる。この状況は我々にとって不都合です。そのため、我々は、アルバロ君が作った債券市場や、『国家が独自通貨を作ること』を認めません」
「てことは、四年前の大失態。パストルに魔道具の設計図を持ち込んだのはお前たちか」
「その通り」
四年前のパストルの大失態。
それを実行するに至った『精神異常耐性』の魔道具だが、主に『カード』や『メダル』といった媒体が多く出回っていた。
しかし、魔道具というのは主に、『魔力が通りやすいよう改造された金属』を『芯』にして、それをもとに作成されるため、『性能』と『携帯性』は反比例しやすい。
実際にそれらの魔道具を作成する設計図が出回ったのは、シド達『ファーロスの鍵盤』が配ったからだ。
札や硬貨の加工技術は、独自通貨を認めないというやり方に起因する。
具体的には、『偽物をばらまいて信用を失墜させるため』に普段から研究しているからこそだ。
これによって、ファーロスの鍵盤は『実用的』な魔道具の設計図を用意できた。
「正直に言いますと、あのコピー機とともに送られた『コピー用紙』……アレを作り出す『製紙技術』を我々は持っていない」
「要するに……俺が『紙幣を作ろう』って言い出したら困るってわけか」
「その通り。まあ、貴方はやらないでしょうが」
「そうだな。俺がゴーレムマスターとして強くなる理由は、倒さなければならないやつがいるからだ。生活を便利にするためでも、政治や経済を変えたいわけじゃない」
「ほう、倒さなければならないやつ……ですか。いったい、どういう内容で?」
「『家畜のままでいるのは気分が悪い』……とだけ言っておくよ」
「ふむ、あなたは確か……ああ、なるほど、『視た』というわけですか。これは面白い。そこが我々にもわからなかった」
フフッとほほ笑むシド。
「さて、少し踏み込みすぎましたね。話を戻しましょう。私からの嫌がらせ、気に入っていただけましたか?」
「少なくとも、今回の冒険者の騒動がお前の計画によるものなら、ぶん殴る理由ができた」
「ハハハハハッ! そうでしょうねぇ」
笑みが今までで一番深くなった。
「ゴーレムマスターという技術を世界で初めて確立し、その『理念』を説いて……100年前に世界初の『宮廷冒険者』となり、国を滅ぼした男。ユーディネスを侮辱する行為ですから。確か、貴方が憧れている男でもあるはず」
「ああ。そうだよ。ユーディネスが書いた『自伝』なら、今もアイテムボックスに突っ込んでる。年季が入ってボロボロだけどな」
「なるほど……焚書された筈のアレを手に入れるとはなかなか……」
シドは少し、笑みの種類が変わる。
「ああそれと……嫌がるユーディネスを、世論を動かして無理やり宮廷冒険者に押し込んだのが、我々だとしたらどうします?」
「……そうした理由は、今の俺の『製紙技術』に近いレベルで、ユーディネスが質の高い紙を作れたからか」
「その通り、ユーディネスが作り出した魔道具やゴーレムは、我々が追い付かないレベルで高い質の『紙幣』を作り出す可能性があった」
「技術の進歩は止められない。だからお前たちは、ユーディネスの『信用』を失墜させた。性能が高いか低いかじゃなくて、『ユーディネスが作った魔道具は信用できない』という風潮を作った」
「フフッ……どう思います?」
……ホーラスは少し考えたようだが、すぐに答える。
「憧れてるのは事実だが、崇拝してるわけじゃない。そこは反面教師にしてる」
「ほう……」
「お前をぶん殴りたい回数は増えたけどな」
「貴方に本気で殴られるとシャレになりませんし、遠慮しておきましょうか」
そういって、シドはコートのポケットから、10枚のメダルを取り出した。
「お互い、話はそろそろ終わりでいいでしょう。しかし、ここを通すわけにはいきません。パストル君が上で頑張っていますから」
「パストルが? セデルはどうした」
「殺しました」
「……お前が?」
「はい。私が」
「そっか……それは運がなかったな」
ホーラスはポケットからキューブを取り出した。
「通すわけにはいかないと言われても、無理な話だ。強引にいかせてもらうぞ。ついでにぶん殴ってやる」
「もう一度言いますが、遠慮しておきましょう」
キューブと10枚のメダルが、それぞれ光る。
「『機械仕掛けの神』」
「『誰もいない実験室』」
ホーラスの全身を赤い装甲が覆いつくす。
シドのコートが白衣に代わり、10枚のメダルがフラスコに変貌。両手の先に、水玉が出現した。
「お前がどんな強さだろうと関係ない。俺の勝利で、すでにシナリオは決まっている」
「フフフッ、始めましょうか。結果が『全滅』になる実験をね」
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