第48話【王国SIDE】 王喝
ディアマンテ王国王城に存在する大広間。
以前、ザイーテが平民を集めて一斉解雇を行なった部屋であり、その時はホーラスと500体のゴーレムがいたが、実際にはその三倍くらいは抱えられるほど広い。
そんな広間に倉庫から大量の折りたたみ椅子を持ってきて並べて、千人が座っている。
圧巻の一言。
しかも、そこに座る面々は、冒険者に関してはSSランクのギルドマスターが含まれているほどで、避難民に関しては、この王国に逃げてはきたが、元は高い地位についており、他者を煽動する話術が得意な者もいる。
総じて、『調子に乗っている移民たちの代表クラス』と言えるだろう。
「まったく、さっさと宮廷冒険者を認めればいいってのに」
「だよなぁ。勇者が魔王を倒して、これからは冒険者の時代だ」
「世襲してるだけで何もしねえ貴族に代わって、王国も今は俺たちが主役だぜ!」
「王国が独占してるダンジョンも多い。俺たちが宮廷冒険者になったら、ダンジョンの利益は冒険者のものだ!」
「夢が膨らむぜ。はっはっは!」
冒険者たちの会話は主にこんなものだ。
冒険者が魔王を倒して勇者になったという事実は、冒険者を調子に乗らせるには十分であり、今も、王都の大多数である『平民』の不満を解消しているのは冒険者だ。
王都の傍にはダンジョンも多く……というより、ダンジョンが多いからこそ都市となり、王都が出来上がったわけだが、王国は国家を成り立たせるためにダンジョンの独占権を持っている。
竜石国がキンセカイ大鉱脈を独占しているのと同じ理由である。
『何も得られない未開の地の探索』というのは、時間と金を持て余した冒険者か、多少の損を気にせず、莫大な予算が設定されている『政府』にしかできない。
要するに『新しいダンジョンの発見』に関しても、そんな冒険者か、『国』が見つけている。
そんなダンジョンに入ってモンスターを倒し、硬貨を手に入れて国家予算にしているわけだ。
だが、キンセカイ大鉱脈を独占していることを不満に感じる者……特に、冒険者や他国の商人にそういったものが多いのと同じで、ディアマンテ王国におけるダンジョンの独占に不満を感じる冒険者は多い。
ダンジョンの出入り口に政府の人間が監視についている役場があり、そこでダンジョンから出てくる冒険者に『利用権』を徴収しているため、『実際に現金を取られる』ゆえにその不満も強い。
「まったく、俺たちが魔王の被害者であるということがわかっていないな」
「そうだ。立ち直るためには金が必要なんだ。それを用意できないくせに、何が世界最大の血統国家だよ」
「魔王は侵略はしたけど、建物の破壊とかはやってなかったんだろ? だったら、金を掛ければそこも復活するわけだ。なんでそれをやろうとしないのか」
「常任理事国が六つも代わった。その『跡地』にある財産を受け継ぐべき人間がいる。世界会議は、その復興に力を入れるべきだ」
「そうだ。世界の再生という正義を理解しない者が、なぜこうもデカい顔をするのか、まるで意味が分からん」
避難民の多くは、魔王の侵略によって維持できなくなった国家から逃げてきた者たちだ。
世界会議が定めた法律によって、『血統国家出身の避難民』という被害者はある程度、『立ち直るまでのリソース』を与えることになっている。
そして、ホーラスの影響で、王都という政治の中枢が完全に支えられていたディアマンテ王国は、『血統国家』の中でもっとも供給力やインフラの損失が少ない。
世界中に存在する『大国』の中で、多くの国が勇者コミュニティに莫大な借金を抱えており、その中でディアマンテ王国は一切の借金がなく、自由に動ける。
避難民と言えど、中には『賢い者』は存在し、声のデカい者もいるため、『世界会議のなかで実質的に自由に動ける大国はディアマンテ王国のみ』であるということを理解している。
だからこそ、彼らは『世界会議』というものを当てにせず、『ディアマンテ王国』に不満を漏らしているわけだ。そもそもディアマンテ王国以外の国だと余裕がないので門前払いである。
「静かに!」
壇上で、バルゼイルの部下であるライザが叫ぶ。
その声で、ざわついていた広間が静まった。
ライザは『拡声魔法』が使える魔道具を手に、周囲を見渡して言う。
「これより、陛下からのお言葉を頂戴する。心して聞くように」
ライザがそう言ったとき……。
「舐めてんのか! 俺たちは冒険者だぞ。いいんだよそんなのは! さっさと宮廷冒険者にしろ! ダンジョンを明け渡せ!」
「復興支援を早く決めろ! それすらできずに、何が最大の血統国家だ! 金、物資、人材、かつての国力を取り戻すまでの多大な支援がなければ、こちらは納得する気はない!」
冒険者も避難民も叫んだ。
バルゼイルは彼らを『調子に乗っている移民』としていたが、彼らも彼らでとある意見を共有している。
すなわち、『魔王討伐に何も貢献できなかった奴が何を偉そうにしているんだ。筋を通したいと思うのなら抱えているモノを出せ!』というもの。
その意見を共有しているため、彼らの間に争いはない。
「……なるほど。この王国を悪者扱いして団結しているということか。とんだ政治屋が紛れ込んだものだ」
バルゼイルはステージの裏から出てくる。
そして、大国の王であるバルゼイルが姿を現したというのに、椅子から立ち上がって憤慨している人間は、座ろうとすらしない。
わざわざ椅子を用意しているし、彼らを呼びよせるために『実際に見せた文書の中』でも、『本質的には血の及ばぬ冒険者と、多大な被害を受けた民ゆえに、跪けとは言わない』と書かれている。
静かに座って、背筋を伸ばし、『傾聴』するというのなら、それでよし。
仮に座らないとしても、それが本当にギリギリで許されるのは、SSランクギルドのギルドマスターくらいだろう。
「私が出てきても座らぬか。勇者を魔王を舐めているのだ。王くらい過小評価して当然というものだな」
つぶやいた後、拡声魔道具を手に取る。
「さて諸君。私は『理解』しているつもりだ」
バルゼイルの声は、拡声魔道具の性能を込みとしても、よく通る。
「血統国家の多くは、此度の魔王がもたらす非常時において、何も成していない」
1つ目に、魔王に対し、多くの血統国家が何もできなかった事実を。
「被害が大きな国に対し、未だ『支援』の二文字を示せていない」
2つ目に、支援の法律がありながら、それができていないことを。
「事実として、魔王を倒したのは、冒険者である」
3つ目に、魔王を倒したのは神でも血でもなく、冒険者であることを。
「世界会議、常任理事国の国王として、それを理解している」
おそらく、この場において認めるべき三つの事実を、バルゼイルは認めた。
「冒険者という存在の評価を改め、宮廷冒険者という枠を作ること。そして、被害国の民に対し、復興するための財を与えること。この二つを諸君が求めていることを、私は知っている」
彼らの要求を、今一度、バルゼイルの口から述べた。
「その上で告げる」
一度目を閉じ、開く。
「恥を知れ!」
赤い威圧のオーラを放つ。
それによって、千に及ぶ『調子に乗っていた者』たちは、椅子に座り落ちた。
「なっ、あ……」
「う、うぅ……」
関係ない。
冒険者の中には、ドラゴンすら倒すほどの傑物もいる。
避難民の中には、高位の貴族だったものもいる。
ここにいる移民は全員、自らが正義だと確信している。
だが、関係ない。
バルゼイルという『王』に対し、勝てる道理はない。
「勘違いしている。大いに勘違いしている。それを教えてやろうか。まず避難民の方だ。貴様らは逃げてきたのだ。敗北してここに来たのだ。『世界会議』は、神から独立し、民を守り抜くという誓いの上に成り立ったもの。貴様らの中には、貴族や騎士だったものがいるようだな!」
そう、そもそもの『原則』の話。
避難民は、確かに被害者だ。
しかし、中には、守り抜くという誓いを破り、ここまで逃げてきた貴族や騎士もいる。
「平民たちもそうだ! 戦う義理がないなどと思っているのなら厚かましいにもほどがある! 剣を握る勇気がなくとも、できることは多くあったはず。できる選択はまだまだたくさんある!」
バルゼイルが彼らの何を許す気がないか。それは……。
「自分に何ができるか考えず、周囲に煽られ、『支援すべき』という『法律』を盾に難癖をつけるだけか! それを、恥ずかしいとは思わなかったのか!」
支援する法律があるのは事実だ。
しかし、支援のやりがいすら感じないような、『態度のデカい避難民』がそれを口にしたところで、『人の心は動かせない』のである。
「無力な過去に後悔がないのなら、何も持たず、何もない祖国に帰れ! 無力な国で、後悔なく生きるがいい!」
暴論もいいところ。
しかし……そもそも、『避難民』は多くとも、『調子に乗っているモノ』が多数なわけではない。
多くの避難民は、世界会議が何も言えない状況であっても、何かをやろうとしている。
そんな『支援のやりがい』のある避難民と、この場に集まった者たちを同じにする気はないのだ。
もちろん、何をすればいいのかわからない者もたくさんいるが、そんな者たちも、『そんな厚かましい事が言える』ほど、羞恥がないわけではない。
「次の冒険者。貴様らは『勇者が魔王を倒したこと』で、これからは冒険者の時代だと騒いでいるようだな! ふざけるなよ。血統国家の常任理事国の国王である私が認めるのは、ラスター・レポートと、その師匠だけだ!」
たった十七の少女が、あれほどの威圧を放つ。
それがどれほど過酷だったのか。
何より……魔王の力は『絶対に解けない』ゆえに、魅了された男は殺すしかない。
そう……何人も、殺めなければならなかった。
魔王が討伐されれば魅了が解けると信じ、苦しい決断ができないものは多かったし、容赦ない『処分』をする勇者を罵倒するものもいた。
今でこそ、『魔王の魅了は解けない』と証明されたことでそこを非難する資格があるものはいなくなった。
だが、世界は、そんな凄惨なことを、幼い少女たちに押し付けてきたのだ。
「彼女たちにはいくらでも感謝しよう。功績を称えよう。勇者の師匠が彼女たちを導いたことは絶対に忘れん! だが、お前たちに何ができた! 何をしていた! いいか、何もできなかったのは貴様らも同じだ!」
冒険者の時代? そんなものは鼻で笑ってやる。
それが、バルゼイルの信条。
「勇者は、誰の援助も受けず、大人が何人集まっても出せない金を何度も何度も出して、世界がよくなる方へ支援している! それほど大きなことをしているのだ。それとお前たちが『同類』だと? そんなことを考える者が多いから、世界が安くなるのだ!」
バルゼイルは『会見』の場で、勇者に感謝を述べた。威圧を習得して可能性を示した。
だが、それでもまだまだ、世界はとても安い。
「宮廷冒険者など絶対に認めん。優遇もせん。被害国への支援も必要最低限だ。私を非難する資格など貴様らにはないぞ! 私の意見を変えたければ、私の心を動かしたければ、まずは貴様らが、人として成長せよ!」
そういって、バルゼイルは威圧をとめた。
空気が弛緩し、まともに呼吸できていなかった千人は、荒い息をしている。
「……ライザ。衛兵を呼んでこいつらをたたき出しておけ」
「はっ」
ライザが敬礼すると、そのまま壇上から離れていった。
その後ろ姿を見つつ、バルゼイルも壇上から離れていく。
「……これが『一網打尽』か。なるほど」
バルゼイルは何かに納得しつつ、呟いた。
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