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第46話【連合SIDE】 古今東西、『無自覚』を超える弱点はない。

 セデル連合の執務室で、落ち着いた声が響く。


「……お前か。シド」

「ええ、四年ぶりですね。パストル君」


 部屋に突如姿を現したのは、四十代半ばの男だ。


 黒いシャツと長ズボンの上に白いロングコートを着ており、なかなか『頼りがいのある男』といった雰囲気はあるものの、すべてを台無しにするほどの薄ら笑いを浮かべている。


「パストル様。この男は……」

「四年前、俺のある作戦の時、『精神異常耐性のマジックアイテムの設計図』を提供してきた男だ」

「フフッ、セデル君は初めましてですね。私は『ファーロスの鍵盤』という工房の代表を務めているシドと申します」

「……それで、ここに何の用だ!」

「まあ、簡単に言いますと、隠れ家と逃走経路を用意しています」

「何? 逃走経路?」

「気が付いていないようですが、すでにこの建物は包囲されています」

「なんだと!?」


 パストルは慌てた様子で窓に近づいて外を見る。


 彼の目に映ったのは、屈強な男たちが包囲している光景だった。


「こ、ここまで早く……本部は、これまでの俺の功績を無視する気か!」

「四年前の大失態をお忘れで? まあ、借金もありますし、おそらくそれを棒引きにするということも含まれているでしょう」

「何? 借金だと?」

「自分が過去に出した命令をお忘れで? 『魔王を討伐すれば莫大な財貨が手に入るから、とにかく金を集めろ』と、そう言ったのはあなたでしょうに」

「そ、それは……だが、借金してまで……」

「役員としての立場を行使するとしても、受けられる援助には限界がある。ならば借金するしかないでしょうに。あなたの作戦に必要な金は、本当に莫大な物でした」


 あの『大失態』だが、何より金が足りなかった。


 当然のことで、『高品質のマジックアイテムを新しく作って揃える』というのはとてもコストがかかる。


 素材の調達、物資の輸送、職人の確保。

 多くの人間の『時間を買う必要』があるわけで、それを補填するという意味でも、そしてその難易度の高さにしても、金はとにかく必要だ。


 しかも、マジックアイテムをそろえるだけでなく、『魔王がいる都市に攻め込む』となれば、マジックアイテム以外にも高品質な装備を揃える必要がある。


 魔王を舐めている者は多かったが、『圧倒的な実力を持つ男性を多数抱えている』ことは認識しており、それを突破するには、高品質な装備が必要になる。


 それを揃えることも必要で、相手が『都市』ゆえに籠城されることを考えると、こちらもしっかりと陣を張って、尽きない補給を続ける必要がある。


 『攻め込む』というのは、言葉にするととても単純だが、大規模な作戦になればなるほど、そこにかかるコストは莫大なものになる。


 そしてそれを、パストルは役員としての権限を使いまくって進めた。


 だが結果は知っての通り、冒険者たちは戦うことすらなく、都市からひょっこり顔を出した魔王によって、全て虜となった。


 そこに集められた物資も、全て魔王のものになった。


 ……これほどの大失態。

 その『後始末』にも莫大な金がかかるのだ。


 前線に来ている職人の数は最低限だったが、千人のAランク冒険者と、その作戦に耐えうる輸送能力がある商人が何人も虜となっている。


 しかも、高品質な装備を丸ごと奪われた。


 この後始末がとんでもないレベルの損害を出しており、今もまだ『取り戻せていない』のである。


「本部職員のふりをして、それとなく勇者コミュニティに聞いてみたんですよ。あなたの借金の総額をね」

「どれほどだ。俺は金貨1万枚程度なら、たやすく動かせ――」

「1億枚」

「……はっ?」

「作戦の準備と大失態の後始末。『騒動が落ち着くまで』に重ねた借金は、金貨1億枚。知らないのですか?」


 たやすく動かせると踏んでいた金額の1万倍の額だ。


 パストルがどれほどのコネを利用しようと、これは払えない。


「作戦の準備期間はとても長かった。後始末にもとても時間がかかった。そして、その作戦に『注力させるため』に、冒険者や商人、職人に払われていた予算が莫大だったのですよ。当時の高級娼館や高級レストランの繁盛具合と言ったら、なかなか見られないほどのレベルでした」

「……バカな」

「特に、冒険者は不満もたまっていましたからね。『男性であるというだけで魔王に挑めない』のですから。全員が美少女の勇者コミュニティが多くの功績を出している中で、何もできていない。そんな中で降ってわいた大チャンスですから、調子に乗るのも分かります」


 薄ら笑いが深くなるシド。


「とはいえ、『調子に乗っている冒険者』が、高級娼館や高級レストランで求められる『弁え方』を知っているはずもなく、中には『壊れた女性がいる娼館』や『施設が壊されたレストラン』も必然的に多くなり、その損害賠償もなかなかのものでしたね」


 クククっと笑う。


「損害賠償が払われる上、何より『魔王討伐という成果の犠牲になれる』と思えば、娼館やレストランのスタッフも我慢できていました。単に金にモノを言わせた冒険者が調子に乗っているだけならともかく、『魔王討伐の犠牲』なら胸を張れますからね。ただ、実際には大失敗。怒り狂うそれらの店に、やはり大金を積むしか解決策はなかった」

「そんなことが……」

「というわけで、金貨1億枚。何人もの本部役員が連日訪れては、勇者コミュニティに頭を下げていました。そして、金を借りる名義は、パステル君。あなたにあります」

「……」


 もはや、言葉も出ない。


「ただ、貴方が隠れることを選ぶのは、貴方にとって正しいでしょう。小国の支部に左遷されたところで、『報復』を考えるものは多いでしょうし、本部役員でなくなったあなたにどれほどの人間が刃物を向けるか、想像も絶するほどでしょうから」

「ヒッ――」

「とまぁ、そういうわけで、私が逃走経路と隠れ家を用意します」

「こ、こんな俺を助けて、何が目的だ!」

「まあ、それはお楽しみに」

「……その話、乗った。俺を逃がせ。シド」

「畏まりました。フフッ」


 その日、パストルとセデルは、突如『消えた』という。


 ……ただ、なんとなく予想はしていたのか、『左遷することを条件に借金を棒引き』という約束だったが、エリーがいろいろ言って『とりあえず保留』という形となった。

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