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第40話 支部にパストル来訪。偶然とはいえ、何故ホーラスがいるときに来るんだか。

 ホーラスに手を出した『エクスカリバー』の逮捕。


 これが思ったより『効いた』……というより、勇者の師匠はあくまでも勇者の師匠であって、別に冒険者の『全面的な味方ではない』ということに気が付いたのだろうか。


 そんなホーラスを師匠とする勇者コミュニティが『宝都ラピスにいる冒険者』をどう思うかというのにビビった人は多かったようで、一部まだわかっていない人はいるのだが、当初よりは控える者が多くなったようだ。


 数日後。


 ホーラスは冒険者ギルドに『空気洗浄機』をテストしてもらうための営業に来たところだった。


「おねえちゃーーん!」

「ナーシャ!?」


 ピンク色のロリ巨乳の美少女に、ダンジョンからかえってきたナーシャが元気にとびかかっている。


「はぁ、あの間に入りたい」

「ナーシャ……姉がいたんだな」


 ホーラスはエリーを無視することにしたようだ。


「あの子たちの父親が大けがをしていて、姉……リーシャちゃんがギルドの職員として働いていました。が、そのギルドが『全世風靡』で、セデルの部下として働かされていたので……」

「親の方をどうにか回復させて今に至ると」

「そのような形ですね」

「その父親っていうのは大丈夫なのか?」

「ランクの高いポーションをぶっかけたので治っているでしょう」

「雑……」


 欲望に忠実であることは強くなる秘訣でもあるのでまだおいておくとしても、どんな空気になっていたのか想像するだけで頬が引きつってくる。


「お姉ちゃん。久しぶり!」

「久しぶり。元気にしてた?」

「もっちろん! ここにいる人はみんな優しいからね!」

「よかったよかった」


 ナーシャの頭を撫でているリーシャも笑顔だ。


 ロリ巨乳な姉とロリの妹という、『その道の人』からすると狂喜乱舞するレベルの光景になっている。


(もっと抱き着いていてほしい、そしてできた四つの太ももの中に私の顔を挟みたい)


 とんでもないことを考えている奴もいるにはいるが……。


「エリー。あまり憧れを穢すようなことはするなよ」

「何の話ですか?」

「……もういいです」


 どうしようもなさそうだったのでホーラスは諦めた。


 その時、出入り口のドアが開くとともに、高級なスーツを着た男が入ってきた。


 年齢は二十代前半といったところだろう。

 その後ろに黒いコートを羽織った『兵隊』を連れていて、どこか威圧感がある。


 一瞬で、一階フロアの空気が緊張したものに変わる。


「……ここがこの町の支部か。随分みすぼらしい内装だ」


 初手で軽蔑の視線を向けつつ、周囲を見る。


「まあいい。本部役員である俺、パストルの命令に従ってもらう。この協会支部の諸君には、『セデル連合』の指揮下に入ってもらおうか」

「なっ、いきなり何を……」


 カウンターにいたトレイシーが声を荒らげたが、次の瞬間、彼女の左胸に氷柱(つらら)が迫っており……ホーラスが掴んでとめていた。


 ホーラスが強く握ると、氷柱はパラパラと崩れて消滅する。


「これが本部の兵隊の実力か。随分みすぼらしい魔法だな」

「……挨拶代わりだ。それくらい簡単に防いでもらわないと困る」

「あっそ」


 ホーラスはカウンターから離れつつ、パストルに向かって歩く。


 それを見て、パストルの後ろにいた五人の兵隊が前に出てきた。


 先ほど氷柱を掴んでとめて、普通ならあり得ない現象で崩したのを見て、『実力者』だということはわかったのだろう。

 兵隊たちの表情は緊張感をまとっている。


 それに対して、ホーラスの表情は緩いものだ。


「何者だ、お前は」

「俺はホーラス。わかりやすく言えば、『勇者の師匠』だよ」


 それを聞いたパストルは一瞬視線が揺らいだが、その視界にエリーを発見し、彼女が特に否定しないのを見て、『事実』だと分かったようだ。


「ほう……確か、冒険者ではないはずだな。ならば、ここで冒険者として登録し、私の部下になってもらおう」

「随分強気だな」

「フンッ! 勇者コミュニティは冒険者コミュニティだ。よって、協会本部の役員である俺の下だ」

「まあ、ルール側を決めてるのは協会っていうのはかわらんし、そこはいいけど、冒険者になるつもりもないな」

「ガイ・ギガントを討伐したのは事実だろう? 要するに強者というわけだ。冒険者は民の不安や不満を解消することも役割だ。その誘いを断るということは、あくまでも私利私欲のためだけにその実力を行使するということ。自分勝手だと思わないのか?」

「……はぁ」


 ホーラスは溜息を隠しもしない。


「なんだその態度は」

「いや、冒険者協会が誕生した理由の一つは、力を持つ『旅人』が、国家や宗教の権力に邪魔されず、未知を掴む自由を守るためだ。そんな組織が、『奉仕を強要する』なんて……冒険者が旅人であることを、自由であることを忘れたのか?」

「そんな大昔の話など通用するか! 冒険者など、今ではただの社会の歯車にすぎん! そして、協会本部がそんな歯車を管理するからこそ、世界は優れたものになるのだ!」


 パストルの言葉に、一階フロアにいた冒険者たちは眉間にしわを寄せた。


 もっとも、『社会の歯車』だと断定されたのだから、イラつくのも当然だ。


 しかし……世界が優れたものになるかどうかは、別の話だ。


「世界は優れたものになる……ちょっとお前の野心がチラチラ見えるな。お前もしかして、神血旅を全く気にせず、『冒険者協会』だけで、世界のすべてを管理できると思ってないか?」

「当然だろう!」

「……世界の総人口は20億人。冒険者はその1万分の1の20万人だろ? 『それっぽっち』しか管理したことがない協会本部が、『世界』をバカにしすぎだ」


 逆に言えば、総人口の1万分の1の人数だけを扱い、『神血旅』と、『宗教』や『血統』に並ぶだけの権力を築いているのはすさまじいことだ。


 ただし、大きな勘違いを生んでいるのも事実。


 『管理者側』もそれに比例したレベルの人数しかいない。

 しかし、それでも『血統国家の集まり』である世界会議に発言権で負けないということは、権力の集合体として巨大なものだ。


 要するに、『大きな権力を少ない人数で扱っている』ため、一人一人が持つ権力がとても大きなものになる。


 パストルは本部役員。まだ若いので『上級役員』とはならないが、それでも、金貨1万枚程度なら簡単に動かせるだろう。


「勇者コミュニティの師匠が、冒険者協会を愚弄するのか!」

「そうだよ。俺は冒険者は好きだが、協会本部はお前みたいなのがいるから嫌いだ」


 まっすぐにパストルを見るホーラス。

 五人の兵隊を前においておこうとも、『ホーラスが持つ圧力』の前には壁にもならない。


「冒険者っていうのは、『真っ当な自由』のためにあるんだ。別にお前の主義の善悪に興味はないが、それだけは忘れるなよ」


 少し威圧する。


 押しつぶすのではなく、ジワジワ恐怖を与えるような、そんな質の威圧だ。


 パストルはそれに負けて数歩下がり……。


「きょ、今日はこれで帰ってやる。だが……ホーラス。勇者の師匠だからと言って調子に乗るなよ! 貴様は元冒険者だが、城で働くためにそれをやめ、今は城での勤務もやめている。ただの一般人にすぎ――」


 次の瞬間、パストルと兵隊五人は、ホーラスの威圧で上から押さえつけられた。


「俺が一般人だって? 面白い奴だ。お前が本部役員だから、俺が口だけで手を出さないと高を括ってるのがよーくわかるぞ。まあ権力は大きいし、実際、反撃されたことなんてほぼないんだろうな」


 ゆっくり歩きながら、パストルに近づく。

 兵隊の間を素通りしながら、彼に近づいて、胸ぐらをつかんで持ち上げた。


「なっ、かっ……」

「まあとりあえず……一発で勘弁してやる。安心しろ。傷が残らず、痛みだけにしてやるから」

「まっ」


 ホーラスは右の拳を振りぬいて、パストルの頬にぶち込んだ。


 パストルはそのまま支部の外まで飛んでいく。


「……お前らも、パストルを回収してさっさと帰りな。いいか? この町には俺がいるんだ。あんまり調子に乗るなよ」


 威圧を解除。

 すると、兵隊たちはふらつきながらも、支部を出て、パストルを回収して帰っていった。


「で、エリーは何やってんだ?」


 エリーだが、リーシャとナーシャを向き合わせて、自分の胸に二人の耳を当てて、その反対側を自分の手で塞いでいた。


「こんな大人の醜い部分を見せるわけにはいきません」


 無表情で二人から離れつつそう言っているエリーだが、内心はお察しだろう。


「まあ、俺からは何も言わんよ。しっかし、アイツも随分、調子に乗るようになったなぁ……」


 外を見ながら、ホーラスはつぶやく。


「……竜石国と王国の『宮廷冒険者』の話はアイツか。ふざけたことしやがって」


 最後に一度、ホーラスは大きなため息をついた。

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