第41話【連合SIDE】 とある過去の大失態。それは今の怒りになっている。
「クソがっ! 絶対に許さんぞあのゴミがああああっ!」
セデル連合が使っている建物にきたパストル。
あまりにも表情が怒りに包まれたもので、執務室で『あのロリ巨乳がいなくなったか、次を調達しないと』とのんきに考えていたセデルは急に入ってきたパストルにびっくり。
彼としては、『そろそろ通信機器が届いたかなー』くらいの印象だったのだ。
実際にパストルが執務室に入ってきて、しかも完璧に怒っているとなれば、びっくりするのも無理はない。
……スッと椅子から立ち上がると、パストルはそれにどっかりと座った。
そして荒れ狂っているというわけである。
「勇者の師匠だからと俺をバカにしやがって、何様のつもりだ!」
セデルはなんとなく何があったのかは予想できた。
もっとも……パストルが冷静なままでここに来ていた場合、ここに用意している家具のレベルが足りないからとネチネチ言われていたはずなので、怒りでそこがわからなくなっているのは幸いである。
……すぐに喉元を過ぎるだろうから、新しい家具の用意はするけど。
「セデル。『宮廷冒険者計画』はどうなっている」
「現在、意見に賛同する冒険者を集めています……しかし、Sランクギルド『エクスカリバー』が、ホーラスの物資を強奪したとか、それで逮捕されています。その結果、勢いは止まってはいませんが、以前ほどではありません」
「またしてもアイツか! アイツは勇者コミュニティの師匠だろう! 勇者コミュニティは冒険者コミュニティでもある。多少の犯罪くらい目をつぶればいいものを……」
フツフツと怒りが湧き上がっているパストル。
「なぜこうも俺の計画が進まん! この宮廷冒険者が認められれば、一気に時代は冒険者のものになる! 貴族も宗教も、魔王討伐には何も貢献していない。勇者コミュニティが単独で、誰の援助も受けずに倒した今、世界を牛耳る流れが冒険者協会にあるのだ! なぜここまで土台が揃っていて、計画が進まない!」
……『冒険者が世界を牛耳った経験』は、この世界にはない。
あくまでも中立なのだ。
要するに、『冒険者であること以外の立場』を掲げることを、冒険者のままですることはない。
ランジェアたちのように、冒険者でありながら大きな功績を手にし、莫大な財力と名声を得たものは歴史の中で少なくない。
だが、そんな冒険者であっても、『功績のもとに建国する』となれば、冒険者をやめなければならない。
建国するということは『王』になるということであり、それは冒険者の在り方ではないからだ。
確かに影響力はある。
モンスターを倒せば硬貨が手に入るという世の中で、強大なモンスターを倒せるものが、冒険者には多くいる。
しかし、あくまでも、『冒険者』は、『冒険者であること』を忘れてはならない。
それをパストルが理解できるかどうかは、別として。
「クソっ、高ランク冒険者は少なくなっている。それもまた向かい風か。クソオオオォォォ……」
唸り声を出すパストル。
高ランク冒険者が以前より少ないというのは当然のこと。
やはり『戦う』ことが多いゆえに、魔力の操作技術に優れている女性なら入ってくることもあるが、基本的に冒険者というのは男性が多い。
当然、高ランク冒険者には男性も多くなる。
そうした中で、『魔王』が現れ、わかりやすい目標ができた。
もちろん、魔王が男性支配の力を持っていることは早々に知れ渡っていたが……現状、勇者という存在を舐めている者がいるように、魔王という存在を舐めている者もいる。
『精神異常耐性』のマジックアイテムを身に着けることで、魔王の力から逃れることができると、本気で考える『本部の職員』も多かった。
それゆえに、協会が抱える細工師や魔道具技師を集めて『精神異常耐性』のマジックアイテムを大量に確保し、金を出せば乗ってくるような高ランク冒険者を集めた。
具体的な数字を出せば、Aランク冒険者1000人。
上級を超え、『優秀』な人材を1000人集めた。
その全員に精神異常耐性のアイテムを与えて、当時、魔王軍の最前線であり、魔王がいると分かっていた『大都市』に攻め込んだ。
これで勝てば、魔王を討伐した英雄になれると意気揚々に攻めこんで……魔王が姿を現した瞬間、全てが虜にされた。
大失態だが、当時、ランジェアたちの活躍が大きかったことと、衰弱を続ける国が多く『良いニュース』を聞きたい人間が多かったこともあって、大失態はもみ消された。
そして、魔王討伐の四年前、この作戦を計画し、実行した張本人こそ、当時19歳のパストルである。
Aランク冒険者1000人と、マジックアイテムを作り出す工房と、必要な物資を運搬する者たち。
これほど若い役員がこれを動かせるのかという点に関しては、『それまでの功績』のこともあり、『権限』は問題なかった。
だが、彼の下には優秀なブレインが何人もついて、彼が動かせる予算だけでは足りず……『協会本部は、勇者コミュニティに借金をしている』というのが現状。
そして何の成果も得られず、すべての冒険者は魔王から与えられた『劇薬』によってモンスター化し、ランジェアたちに討伐された。
少なくとも、パストルがここまで勇者とその師匠を舐めてかかれる以上、借金のことは知らないだろう。
「俺を、俺のバカにしやがって、絶対に宮廷冒険者を認めさせてやる! 俺は本部役員だ! 冒険者を管理する側だ! 俺をバカにする冒険者も、その師匠も、絶対に許さん!」
パストルは覚えている。
自分が大失態を演じた四年前。
あの日から、新聞には勇者コミュニティの功績や歩みが、いつもより掲載されていたことを。
ランジェアをはじめとした『幹部』だけではなく、構成員の小さな功績も評価され、それで『紙面が埋まっていた』ことを。
「宮廷冒険者計画は、『移民』という概念を利用した国家侵略だ。これを成功させれば、冒険者が世界を牛耳る歴史的功績の第一歩として、俺の名が刻まれる。ディアマンテ王国も、カオストン竜石国も、俺の手柄の第一歩になってもらうぞ!」
竜石国は勇者がいるため、冒険者の勢いが強い。
そしてディアマンテ王国は、冒険者が流れ込んだだけではなく、もともと『避難民』という名の『移民問題』を抱えている。
この二国で国家に対し、冒険者協会という権力が侵略する。
それが、彼の考えている筋書き……という名の妄想だろう。
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