第36話【王国SIDE】 バルゼイルの推論
冒険者の動きにおいて忘れてはいけないのが、竜石国だけではなく、ディアマンテ王国でも増えているという事実である。
「……『宮廷冒険者』か」
バルゼイルは訝し気な視線で報告書を読んでいる。
「多くの冒険者が王都に流れ込んできました、中には高ランクギルドも多数。このような制度を設けるべきだという冒険者の声が大きくなっています」
部下の補足を聞いて、バルゼイルは顎髭を撫でつつ……。
「お前はどう思……いや、私の意見を先に言おうか。私としては『正気を疑う』というレベルだ」
「神血旅。宗教国家、血統国家、冒険者協会に分かれ、バランスを取っているというのが現状です」
「そうだ。『侵略行為』であるということが、コレの提案者にはわかっていないのだろう」
そもそもの話だが、冒険者ギルドは『中立』を掲げている。
どこかの国家に肩入れすることは中立に反する行為だが、『人のために行動すること』の善悪は中立以前の問題なので、『不満を解消する行為』であるクエストの発行がすべての国家で認められている。
だが、『国家の要職』として『冒険者』という枠を作ろうという行為は、『侵略行為』なのだ。
「もしもこれが通った場合、『多くの国で、宮廷冒険者という枠を作るための前例』になる。これは、『冒険者協会による国家への侵略行為』だ」
「もともと、冒険者たちは国家権力からの庇護が少なく、冒険者とその関係者たちだけで解決できることが多いため、『国家を軽んじている』というケースはありますが……」
「それが顕著になった形というわけか。舐められたものだ」
バルゼイルは報告書を机においてため息をついた。
「あいつらは『宮廷冒険者』というものを、『国家によって認められた冒険者』とか、そんなふうに考えていないか?」
「噂を集める限りでは、私もそのように思います」
「それなら『宮廷専属冒険者』だろう。あくまでも『宮廷という範囲とは別』だ。冒険者のままで宮廷の『中』に取り込むなど、ありえん」
中立であり、どこかの国家に肩入れすることはない。それは事実だが、前提として『不満を解消する』という権利を持っているのだ。
その不満の解消に長い時間が必要な場合もあるため、『専属』という形は存在する。
この一言の差を利用して、上手く高ランク冒険者たちを煽った者がいる。
「ふーむ……この動きに対して、王都民はどう思っている?」
「不満がたまっているようです。暴動が発生する可能性も」
「一番多い意見は?」
「私が聞く限りでは、一番多いものは『直感的に受け入れられない』という具体性のないものですが、その次あたりで、『冒険者のままで仕官できることは、中立という言葉を拡大解釈しすぎている』というものでした」
「ならば、こんなものは要らんな。なぜこうも、受け入れられないモノをやろうとするのか……」
「ただ……」
「一部、『貴族ではなく冒険者を頼りにしている者』は、王都に増えていく冒険者を制御する意味でも、『宮廷冒険者』が必要なのではないか。と考えると」
「その通りです」
「……もう一度言おう。舐められたものだ」
バルゼイルはため息をついた。
「ただ、しばらくは泳がせておくか。まだ、今回のこれを描いている者の姿が見えん」
「ここで中途半端に止めた場合、他国で採用されるケースもあります。見せしめは必要です……しかし、その間の王都民のコントロールはどのように?」
「向こうが尻尾を見せるかどうか、それで判断しよう」
「畏まりました」
「……はぁ、歴史の勉強というのは、暗記ではないのだがな。百年前、今回のような『宮廷冒険者』のような制度を作った国が、ものの数年で滅びたことを、多くの民は知らないらしい」
バルゼイルはつぶやきつつ……何かを思い出したようだ。
「そういえば、あの『アンテナ』……勇者屋敷に届くのはそろそろか」
「確かに、私もそう考えています」
「……いろいろ言えることはあるが、私なら……あの町で調子に乗るのはしばらくやめておくがね」
「私もです」
「ありとあらゆる戦術には『間合い』がある。どの方向にどこまで届くのか。これがわかるからこそ、回避することができるわけだ。ただ……『アンテナ』という、圧倒的な『間合い』を生み出すアイテムがあれば、そしてそれを、ホーラスが自由に扱えるとなれば……」
「あまり無防備でいると、流れ弾で何が起こるかわかりません」
「うむ」
しかも、ホーラスは十年近く使い続けてきて、その構造も理解している。
そして『ホーラスのものになる』のだから、ある程度の改造も可能。
文字通りホーラス専用になる可能性も高く、そうなった場合に『どこまで広くなるのか』が想定できない。
「竜石国のほうにも冒険者は多く流れている。何か企んでいる者はいるだろうが……おそらくアンテナが届いた時点で、ホーラスはそんなものは気にならなくなるだろう。あまりにもいい『おもちゃ』だからな」
「ほとぼりが冷めるまで引っ込んでいるのが定石でしょう」
「そうだ。竜石国にあるあらゆる正義も悪も、気が付いたときには踏みつぶしている可能性もある」
バルゼイルは目を閉じて思考を巡らせる。
「……しかも、この町と違って、竜石国はゴーレムマスターにとって重要な希少鉱石も手に入れやすい。本当に何が起こるかわからんぞ」
「竜石国に向かわせた商会への報告はどうしますか?」
「宝都ラピスから一番近い町まで下がり、様子見だな」
「では、そのように」
「うむ」
バルゼイルは目を開いて、窓の外をみて、空を見上げた。
……勇者コミュニティという名の『冒険者』が魔王を討伐し、世界を救ったことで、冒険者という存在が調子に乗る土台はできている。
実際、冒険者に憧れる人間も着々と増えているだろう。
その上で、『弁える』ことができなければ、いずれ崩壊するのだ。
冒険者が仕官できる世の中を作った場合、『冒険者に依存した国』が出来上がる。
冒険者は中立を盾にどこの国にも入れる。こんな状態で仕官してもいいというのは、『移民政策に失敗している』のと同じだ。
移民政策に失敗した国が、一体どんな悲劇を歩むのか。
そして百年前、実際に悲劇は起きている。
「……冒険者か。神血旅と分けられている以上、強く追い込むこともできんが、王として示さなければならないことはあるな」
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