第35話【連合SIDE】 独占の未来という皮算用
「フフッ、いいぞいいぞ。連合の規模も大きくなっているようだな」
セデルは宝都ラピスの中でも辺境と呼べるエリアにある建物の執務室で、書類を見ながらニヤニヤしている。
「そうですね。セデル様。このまま規模を大きくすれば、いずれ宝都ラピスの利益を独占できるほどの組織になるでしょう」
「そうだろうそうだろう。アルバロ、このまま裏で規模の拡大を目指せ」
「畏まりました」
アルバロと呼ばれた茶髪でスーツ姿の男は頭を下げる。
「宝都ラピスは、希少な鉱石と優秀な武器を手に入れられる場所だが、いくつか冒険者にとって欠点がある」
「欠点ですか?」
「そうだ。あのダンジョンで金属を手に入れた場合、それらは全て納品することになっている。だが、許可のない冒険者は希少金属が出てくる『中層』や『深層』に入ることができない」
「そうですね」
「主に竜石国の兵士たちが、戦闘経験と鉱石確保のために奥に入り、そこで優秀な鉱石を手に入れ、それが市場に流れる……かと思いきや、最初は国民だけが入れる『レアストーン・マーケット』に流れて、そこで売れ残ったものがようやく一般市場に流れるのだ」
「確かに」
「冒険者の場合、長年、キンセカイ大鉱脈に入り、多くの鉱石を納品し、信用を得たものに『許可』が出る。竜石国と関係が浅い商人や鍛冶師が『深層』の金属を使いたいとなった場合、そういった冒険者に依頼するしか方法はなく、そして冒険者は多くないため、需要に対して供給が安定していない」
セデルは窓から町を見下ろした。
……まあ、辺境なので、かなり人の通りは閑散としているが。
「要するに、多少緩めるフリをしているだけで、実質的に竜石国の『独占状態』なのだ。これはあまりにも不平等だろう」
「確かに不平等です。ダンジョンは誰もが入れるようにするべきでしょう」
「そう、そして誰もが入れるダンジョンで手に入れた鉱石は、我々が独占するのだ!」
不平等を貶しておいて独占を掲げる、などというのはダブルスタンダードもいいところだが、『ワガママでしかない主義』を掲げるものにとっては、これが普通なのだろう。
「この独占計画のために必要なのは、人の数だ。キンセカイ大鉱脈の現状に不満を持っている冒険者や商人、鍛冶師はいくらでもいる。こいつらをかき集めて、巨大な組織を作る。その力で、竜石国を従わせるのだ」
「国を従わせる。ですか」
「そうだ! こんな貧弱国家があのダンジョンを独占しているのが悪い! 俺が宝都ラピスの利益を独占する実質的な支配者になるのは、その悪を正す行為だ」
かなり『支離滅裂』な部分がにじみ出てきたが、要するに、『セデルの最終目的』は『宝都ラピスの利益の独占』ということなのだろう。
何をどう考えたとしても、キンセカイ大鉱脈を支配するということは、そこからとれる金属で発展している宝都ラピスの収益の大部分を独占するのと同じだ。
……その時、ドアがノックされた。
「ん? 誰だ? まあいい。入れ」
ドアが開けられて、五人組が入ってきた。
「おお、お前たちは……って、なんでお前、そんなにボロボロなんだ?」
「聞いてくださいよセデルさん。協会支部にいって『俺たちが統括する』って言ったら、アイツら反撃してきたんですよ!」
Sランクギルド『エクスカリバー』
セデル連合所属となったギルドであり……リーダーはトレイシーにボコボコにされたばかりである。
「何!? 俺はSSランクギルド所属だぞ。その俺がトップの連合は、協会支部を従えるだけの権力があるはずだ。何故こうなった!」
「知りませんよ! クソっ、あのガキと暴力受付嬢、絶対に許さねえ。あの支部も痛い目に合わせてやる!」
「そうだな。この俺の顔に泥を塗ったんだ。絶対に許さん! ……ところで、ガキと受付嬢というのは?」
「十歳くらいの幼女と、茶髪の受付嬢ですよ。Sランクギルドの俺たちを舐めやがって。クソがっ!」
「なるほど、確かに、ガキや受付嬢ごときが俺にたてついたも同然という訳だ。ただ、受付嬢だが……確か冒険者をやっていたやつがいたという話もあるな。まあいい。計画を立てて追い込んでやるか」
「頼みますよセデルさん」
「安心しろ。俺に全部任せておけ」
「……わかりました。セデルさんに任せますよ」
そういって、エクスカリバーの五人は部屋を出ていった。
……どこか、セデルと『エクスカリバー』の間に『差』がないように感じられるが、おそらくこれは、『エクスカリバー』側が、セデルに金と権力はあっても、大した『実力』はないと分かっているからだろう。
もちろん、セデルの『Bランク冒険者』という称号は決して軽いものではない。
が、今回の事態を動かせるほど優れてもいない。
「フンッ、ゴロツキが。支部の制圧もできないとは情けない」
「その程度のギルド。ということでしょう。Sランクギルドという称号も、先代トップが成し遂げた功績によるものです」
「だろうな。まあいい。俺の顔に泥を塗ったことに変わりはないからな」
ニヤニヤしながら、セデルはワインを飲んでいる。
彼の脳内の妄想はどうなっているのか、それはともかく……。
……ただ、一つ指摘することがあるとするなら、セデル連合という組織が、『規模の拡大』の路線であり、同類を集めていることはエリーも分かっているだろう。
その上で、『難癖をつけたいやつを全員呼べ』といって世界会議まで利用するランジェアと、『セデル連合の扱いを保留にしてくれ』というエリー。
どちらも、『一網打尽』という言葉が大好きなのではないだろうか。と、雑な予想ができるというものだ。
「……ゴミ箱の調子は良さそうですね」
屋敷の最上階で、そんなつぶやきがあったそうな。
いや、そもそもだ。そもそもの前提の話をしよう。
キンセカイ大鉱脈から獲得できる金属の独占ということは……ホーラスの邪魔をするということだ。
その報いがどうなるか、それは、『悪魔』呼ばわりされる少女にもわからない。
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