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第34話 ラピス支部最強の受付嬢、トレイシー

 協会支部の応接室。


 ホーラスとエリーは、先ほどとんでもない右ストレートを放っていた受付嬢、トレイシーと対面していた。


 別にホーラス側に呼ばれるようなことはしていない。

 というか、あの場で一番ヤバい攻撃を繰り出したのはトレイシーだ。


 ただ、エリーのほうがもともとこの協会支部に用があって、『色々話したいこともあるから』と応接室に呼ばれただけである。


 ……ホーラスの表情は、すごく、頬が引きつったものになっているが。


「そういえば、あんな冒険者って、前から多いのか?」


 先ほど調子に乗っていたSランクギルド『エクスカリバー』に制裁を加えているとき、トレイシーは『高ランク冒険者が寄りやすく、調子に乗ってる連中も多い』と言っていたが、現実はどうなのだろうか。


「あー、あれね。宝都ラピスは性能の高い武器がかなり置いてあるから、それ目当てで来る人間も多いのよ。金貨10枚や100枚の武器とか結構置いてあるからね」

「ほう」

「実際、その金額を用意できるくらい稼いでるって時点で、『自分に自信がある』のは間違いないし、『調子に乗ってもそれが通るし、咎められない』っていう、『経験』を積むやつも多い。高ランクなら特にそうなるもんよ」

「なるほど……」


 トレイシーという受付嬢だが、思ったより『大雑把』な印象だ。

 年齢は二十代に差し掛かったころだろう。茶髪をショートカットにした『お姉さん』といった雰囲気というか、かなり『頼れる人』といった印象がある。


「冒険者って言っても、まあそんなもんだよな。しかし、さっきのパンチ、凄かったな」

「数年前まで冒険者だったのよ。鍛冶師の男とコンビを組んで、我慢できなくなったアタシが襲い掛かって、子供ができちゃってねぇ」

「それは……また……なんというか……」

「それまではあちこちを飛び回っていたけど、『俺が稼ぐからお前は育児に専念してくれ』って言われて、ここを拠点にしてる」

「ほー……で、なんで受付嬢に?」

「しばらくは家でずっと育児をしてたけど、『協会支部には女性職員も多いし、育児くらいできるんじゃ?』って思って支部長のところに行ったら、OKが出たのよ。支部長の頬は引きつってたけどね」

「だろうな」

「そこからは、私自身、時々モンスター討伐に行きながら、受付で冒険者の面倒を見てるってこと」

「あのパンチは今もクエストをこなしてるからなのか」

「そういうこと」


 力こぶを作るトレイシーだが、おそらく魔力で強化するタイプなのだろう。別に腕は太くない。

 もちろん、腕が太くないからと言って油断することはできないのが冒険者というものだが。


「てことは、上の階で子供の面倒を誰かが見てるってことか」

「可愛い女の子よ。ただ、旦那に似たのか、武器に視線が向いてるときが多くなったけどね」

「将来はいい鍛冶師になるといいな」

「ははは! 勇者の師匠が応援してくれてるなんて、うれしい限りだね」


 トレイシーは良い笑顔だ。


「あと、この町は高ランクの冒険者と、それを支える人が多いんだ。だから、私みたいな人も少なくないみたい」

「それは……そうだろうな」


 ホーラスがラーメルと向かった『鍛冶師エリア』だが、あそこで店を構えることができれば、それだけで国から最低限の生活費を貰える。


 本人の腕がよければ、それだけ補助金も増えるだろうし、装備を売った収入もプラスして、大人二人と子供を育てることもできるといったところか。


「そういや、昨日の夜、旦那がすごくニヤニヤしててキモかったなぁ」

「……」


 これが現実というものなのだろうか。とホーラスは思う。


「なんかすごい人が来て、剣を二本買っていったらしいんだけど、別に剣を二本、あんまり高くないのを買うのならそこまで珍しい事でもないし、何があったのやら」

「あー。それ、多分俺だ」

「え?」

「『スミスハウス・アンヘル』って店だろ? そこで、ラーメルの勉強になりそうな剣があってな。あんまり高くなかったと思うけど、二本買ったよ」

「旦那のことだけど、そりゃうれしいねぇ」


 ラスター・レポート、その中でも六人の幹部は多くの人間が知っている。

 ラーメルという名前を出すだけで、ラスター・レポート最高の鍛冶師であることはわかるだろう。


 そんな人物に買い与える剣を買うというのは大きなことだ。


 商売である以上、『誰が買いに来たのか』も重要なので、そりゃニヤニヤするだろう。


「そっかそっか、勇者の師匠がかぁ。確かにそりゃ自慢できるね。フフッ」


 若干ニヤッとしている。

 余計なことを吹き込んでしまったかもしれないが……ホーラスのせいではない(無責任)。


「そういや、アンタは大丈夫なの?」

「大丈夫とは?」

「いや、あの屋敷を買いに来たメイドが来てて、性欲強そうだったから」

「……………………………………………うーん」


 ずいぶん『間』があるホーラス。


「その様子だとすでに襲われた後か。勇者の師匠って言っても、ベッドの中だと弱いんだね」

「いや、あの、アイツらの眼、めちゃくちゃ怖いんだもん」

「ら? もしかしてメイド全員に襲われたとか?」

「……それは、まあ」


 ホーラスは思う。


 『なんで27にもなって夜のことを赤裸々に語ってるんだ俺は』と。


 ただ、なんとなく、トレイシーにはそれをしてもよさそうな雰囲気を感じるのだ。何故かはホーラスにもわからないが。


「さて、そろそろ私の用件を済ませましょう」


 エリーがここで話に入ってきた。

 あんまり夜のことを話していると、メイドたちに対する怒りがわいてくるからだろう。知らんけど。


「まっ、勇者の師匠がここに用事があるわけもないか。何の用?」

「セデル連合。という組織ですが、協会支部としてどうするか。その判断を待っていただきたい」

「へー……なるほど、何か企んでるってわけか。いいよ。私から支部長に言いつけとく。こっちも忙しいし、バカがはしゃいでるのに一々かまってられないしね」

「忙しい?」

「ディアマンテ王国のほうで、『宮廷冒険者』という枠を設けようって話が出ていて、その話がこっちにも飛んできてんの」

「宮廷冒険者……」

「国が実力と素行で問題がない冒険者に称号を与えて、『王国における冒険者の見本になってほしい』みたいなものだと思うよ。ただそれだけだとふわっとしてるから、活動範囲を王国にしてもらう代わりに、特権を与えるとか、そういう感じになるかな」

「そんな制度を……なかなか攻めたやり方ですね」


 神血旅と分けることで、均衡を保っているのが人の社会だ。


 ただ、『宮廷冒険者』という称号は、『血統国家』と『冒険者』をまとめてしまうものだ。


 バランスが崩れることを嫌うものは血統国家の中にも冒険者の中にもいるだろうし、連携されることを嫌う宗教国家から何を言われるかわからない。


「とまぁ、とにかく、セデル連合はうまく流しておくよ。ただそれだけだと上が納得しないかもしれないし、勇者コミュニティにヘイトをコントロールしてもいい?」

「問題ありません」

「なら、そんな方針で。ほかには?」

「特にありません。ただ……ナーシャちゃんですが、もうちょっと見張るようにしてください。今回の一件で、あの子に何かがあるかもしれません」

「それはありうる……ってか相変わらず……いやなんでもない」


 エリーの視線が若干怖くなったのか、続きは言わなかった。


「それでは、私たちはこれで、それではまた。師匠、行きましょう」

「ん? あ、ああ……それじゃあまた、アンヘルさんがまた妙な鉱石に手を出したら、教えてくれ」

「わかった。それじゃ」


 エリーがかなり強引に話を終わらせたような気もするが、そんな形で、ホーラスとエリーは支部を後にした。

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― 新着の感想 ―
[一言] ディアマンテ大国やばいことになるぞ 国民が暴動起こす可能性が大やん
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