第29話 王族はどの国も大変だ。
「全然終わりませんよ~~っ!」
宝都ラピスの北側に存在する宮殿。
その一室で、リュシア王女は悲鳴を上げていた。
十四歳で、身長は低く、体の起伏は乏しく、顔だちもとても幼い。
ロリコン大歓喜になるような見た目をしているということであり、幼いながらも働いているので、国民からの人気は高い。
病気で療養している父親に代わって元気に働いている姿は宮殿の中でとても和む要素となっている。
なんならロリコンに目覚めているものも多いだろう。それで大丈夫なのかと言われれば、まあ、すでに大丈夫ではないので問題はない。
そんなリュシア王女の目の前には、書類が積みあがっている。
多くの冒険者……それも、もともと希少な鉱石が手に入りやすいゆえに、高ランク冒険者が集まってきている。
そして、ラーメルという、勇者コミュニティに所属する『鍛冶師』の存在もあり、『失敗作』が世に出回るだけで大きな意味を持つ。
そんな状態なので、自分の装備のランクを上げたい冒険者にとって、この国は魅力があるのだ。
「こんなたくさんの宿泊施設。用意できませんよ~!」
装備を選り好みするに値する場所なので長期滞在する場合もあるのだが、高ランク冒険者というのは金があり、払うからいいところに泊めろという空気を出してくる。
要するに、建築関係の書類がリュシアのところに来るわけだが、建物がそんな簡単にできてたまるか。という話だ。
最優先で仕上げないと不満がたまるが、『鍛冶師』をはじめとした『金属を加工するもの』は多くとも、別に建築関係が優れているわけではない。
「むふー……いったいどうすれば……」
「殿下。面会を希望している方が……」
「こんなに書類が多いのに誰かと会っている暇なんてありませんよ! ぷんぷん!」
「それが……勇者コミュニティの『商人』を束ねているエリー様で……」
「え、勇者コミュニティ?」
勇者コミュニティの商人長エリー。
パンツスーツを着こなす黒髪美人であり、メンバーの中で最も冷静沈着、かつ無表情で表情がほぼ動かない。
最近は資金援助だったり借金関係で調整していたりと、『商人っていうより銀行家だろお前』と言いたくなるようなものだが、あくまでも自称は商人である。
「応接室に通してください。私もすぐに行きます」
「わかりました」
女性騎士が一礼して、部屋を出ていった。
「この国はラスター・レポートに対して借金はないはず。一体何でしょうか……」
リュシアはかなり働き者で、国民からの信頼も厚い王女だ。
見た目はとても可愛らしく、勇者コミュニティのメンバーもそんな彼女に対して好印象なので、『怖い』という印象は持っていない。
……世界会議の場で久しぶりに会ったランジェアは結構怖かったが。
「行きましょう!」
というわけで、リュシアは書類整理……というよりは確認とハンコをおして『書類作成』するのを中断して、応接室に向かった。
扉を開けて入ると、下座にエリーが座っている。
リュシアよりも四歳上の18歳ということはわかっている。
わかっているのだが……あまりにも蠱惑的な体つきなのがスーツを着ていてもよくわかるほどだ。
「エリーさん! お久しぶりです」
「久しぶりですね。リュシア殿下」
そう言って、エリーは立ち上がると、組んでいた腕を広げてリュシアを招いた。
「おおおっ!」
リュシアは嬉しそうにエリーに抱き着いた。
そんなリュシアを、エリーは優しく抱きしめて……。
「ああ~♡」
めっちゃ幸せそうな顔になっていた。
これは明らかにロリコンである。
そのまま十秒ほどハグハグした後、二人は離れて、リュシアは上座に座った。
「あの、エリーさん。今日はどんな用件ですか?」
「建築関係で悩んでいるという話を聞きましたので、それを解決するアイテムを用意しました」
「えっ?」
「大型の魔道具なので外に用意していますが、こちらを使えば、質の高い建造物を、三階建てまでなら半日で作ることが可能です」
「建築を舐めてません!?」
「師匠が遊びで作ったものですから、こんなものです」
「え? でも、魔道具ですよね? ホーラスさんはゴーレムマスターでは?」
「魔道具もゴーレムも似たようなものですよ。ただ、使用者によって性能が変わらないのが魔道具。性能が使い手に左右されるのがゴーレムであるというだけです」
「?」
「要するに、魔道具からいくつか『性能面で重要なパーツ』を抜いて、そこを自分で動かしているのがゴーレムマスターということです」
「おおっ! 初めて知りました!」
ぱああっ! と輝くような笑顔を浮かべている。
エリーは似たような笑顔をどこかで見たような気がしたが、おそらくホーラスを相手にしているときのランジェアだ。
ランジェアの場合は周囲にヒマワリ畑が見えるが、リュシアの場合は青空だろう。いったい何を言っているのやら。
「ということは、ホーラスさんが作ったゴーレムにいくつかパーツを組み込んで、魔道具にしたということですか?」
「はい。師匠と同じ操作能力を求めることはできませんから。硬貨さえ投入すれば使えるようにしています」
「硬貨を……」
先ほど、エリーは『大型の魔道具』といった。
その手のアイテムは使用する硬貨の量も多くなるので、雲行きが怪しくなったということなのだろう。
「もちろん、ある程度の資金はこちらで用意しますよ。金貨1万枚でどうでしょう」
「この国の国家予算の10分の1じゃないですか! そんなポンっと出さないでくださいよ」
「こんな端金……いえ、これくらいの金額なら、竜石国に援助するのは当然です。我々はこの国の民ですし」
「いま端金って言いましたよね! 聞き逃してませんからね! 遠慮なく貰いますけど!」
「よろしい」
王女に向かって『よろしい』とは自由過ぎるが、それが許されるのが勇者コミュニティである。
「というより、テストも兼ねています。安全性は確保していますが、実際に使ってみないと分かりません」
「わかりました。城にいる建築士と相談して使ってみます」
「では、私はこれで」
「え、もう帰っちゃうんですか?」
「成分を補給できたので」
「何の?」
「秘密です。それではまた」
そう言って、エリーは無表情のままで一礼し、部屋を出ていった。
リュシアは首をかしげたが……仕事が多いことに変わりはない。
早速、建築士とそのほかの作業員を呼んで、魔道具の実験を指示した。
……その性能にびっくり仰天したのは、言うまでもない。
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