第28話 移り変わる世界。しかしそれは、顔を出す愚者の肩書が変わるだけのこと。
ダンジョンは奥に進むにつれてモンスターが強くなる。
そして『ボス部屋』もまた、そのボスの力に比例して広くなっていく。
多少なら暴れてもダンジョンの『仕様』で壁がすぐに修復される。
奥の方のボス部屋であればたどり着くものも少なく、それが『一般的に使われるルート』から外れているとなれば、どれほど暴れても迷惑をかけない。
「しっ!」
ランジェアは剣を振る。
竜の紋章がつばに刻まれた銀の輝きを放つ片手両手兼用の剣であり、それをためらいなく向ける先は、『機械仕掛けの神』を纏うホーラスだ。
未来感のある拵えの片手剣だけ右手に構えて、『竜銀剣テル・アガータ』の斬撃を捌き続ける。
「そこっ!」
ホーラスの横に、少し距離を取ってティアリスが姿を見せる。
その両手に握っているのは拳銃であり、二丁拳銃で魔力を固めて作った弾丸を次々と撃ちまくる。
しかし、ホーラスはランジェアの剣術を捌きつつ、その銃弾を全てはじき落とす。
(……通りませんね。っ!)
突如、ホーラスがランジェアの胸ぐらをつかむ。
そのまま一歩前に出て、地面にランジェアの背中を叩きつけた。
「がはっ!」
叩きつけたホーラスが立ち上がり……その手には剣がない。
「っ! かふっ!」
ティアリスが悲鳴を漏らす。
その腹には、機械剣が衝突していた。
ただ、メイド服の布を一切貫通しておらず、肌に沈むこともない。
むしろ、『圧力』がそこに発生し、ティアリスは後ろに吹き飛んだ。
そのまま地面を転がって、あおむけに倒れて腹を押さえている。
「……」
ホーラスが指をクイクイッと動かすと、剣がホーラスの手に戻ってきた。
「ガイ・ギガントを倒した装備で稽古をつけてほしい。という要求はわかるが、使ってなくても二人がかりで俺に有効打がないのに、よく言ったもんだな。ん?」
左腰のキューブを外して装甲を格納しつつ、ランジェアのほうを見る。
「ぐっ、ううっ……」
全身から滝のような汗を流し、剣を杖にして立ち上がっているが、足はフラフラだ。
「思ったより『入れすぎ』たか。が、立てるとは成長してるな」
ホーラスはランジェアの額に右手でデコピンを入れる。
「うっ……」
デコピンされたランジェアだが……先ほどまでフラフラしていたのが嘘のように、しっかりと足で立っている。
「ティアリスは……まだ無理っぽいか」
ティアリスの近くに行って指をパチンと鳴らす。
「んっ! ……はぁ、はぁ……」
原理はよくわからないが、ティアリスの体がビクっと震えて、息を整えながらティアリスは拳銃を拾いつつ立ち上がった。
「まだまだ、師匠には全然勝てませんね」
「そりゃ、ランジェアを含めた幹部六人に関しては、戦闘技術を叩き込んだのは俺だからな。それに、十も年下の娘に負けてられんよ」
ホーラスは27。ランジェアは17。ティアリスは16である。
「ふぅ……霊天竜ガイ・ギガント。もしも私たちの旅で立ちはだかっていたら、それだけで二か月は攻略に専念していたでしょうね」
「そうね。だからこそ、それを『圧倒』した兵器っていうのがどんなものか気になったけど、全然底が見えないわ」
「そりゃ、俺の最高傑作だからな。完成率は8%くらいだけど」
「ということは、完成したら今の12.5倍ですか、正直、信じられませんね」
「一体何を想定してそこまで……まあ、そこは私たちには想像もできないわね。はぁ……」
ランジェアたちは魔王を討伐し、世界を救った。
もちろん、その道中、『魔王の力で支配された男性の強者』にも多く遭遇しており、当然、彼らを倒すことで道を切り開いてきた。
それを考えれば、世界有数と言える実力者をいくつも相手にしているだろう。
しかし、その経験をもってしても、ホーラスには全くかなわない。
勇者であるランジェアたちにとっても、ホーラスは『格上』なのだ。
「おーい! 師匠ー!」
「おっ」
ホーラスたちがボス部屋の出入り口を見ると、二人の美少女が入ってきていた。
「エリー。ラーメル。帰ってきていたんですね」
「ええ、必要な交渉はほぼ終わりましたから」
「オレも、すべき仕事は終わったからな!」
入ってきたのは、ホーラスの弟子の二人。
名前はエリーとラーメル。
エリーのほうは、パンツスーツを着こなす黒髪美人と言ったところ。
ほかのメンバーと同じくスタイルはよく、無表情だが、それがなおさら『美人の雰囲気』を醸し出している。
アタッシュケースを持っており、キャリアウーマンといった要素が強い。
ラーメルのほうは、上はタンクトップ一枚。下は短パンとスニーカーといったなかなか露出強めの格好の赤髪美少女。
無表情のエリーが隣にいることもあるが、かなり元気いっぱいな様子なのが見てわかる。
腰にはスミスハンマーを持っており、本職は鍛冶師なのだろう。
なお、一人称は『オレ』のようだ。
「屋敷に行ったら、三人でダンジョンに入ったと聞いて、稽古をやってると思っていましたが、間違いないみたいですね」
「師匠は本当に強いですよ。エリーも戦ってみればわかりますから」
「装甲型の兵器でしょう。狙撃銃でどうしろと」
「うーん。オレのハンマー。当てても変形する気がしねえな」
「傷一つつかんぞ」
「つえええええっ!」
いろいろ言いあいながらも、ボス部屋の中央に集まった。
ティアリスが指を鳴らすと、円形のテーブルと五つの椅子が出てくる。
アイテムボックスか、それに類するものだろう。
いつの間にか二丁拳銃もなくなっているので、そちらに収納したと思われる。
「軽食でも用意しましょう」
「お菓子くらいなら俺が出すよ」
ホーラスが近くに『渦』を作って、そこに手を入れると、中から出来立てほやほやのビスケットが盛られた皿と、入れたばかりの紅茶が入ったカップが五つ置かれたプレートを取り出している。
「えっ……あらかじめ作って、ちょうどいいタイミングでアイテムボックスに入れておいたのですか?」
ティアリスの質問にホーラスは首を横に振った。
「アイテムボックスっていうか……俺の場合、『収納ゴーレム』を異空間に突っ込んでるんだよ。で、『お菓子メイカー型ゴーレム』も一緒に異空間に突っ込んでて連結できるからな」
「どういう技術力ですか?」
「今さらでしょう」
ランジェアがため息交じりに言うと、エリーは冷たく突っ込んだ。
「いやー。そこまで難しいことはできねえけどな」
弟子四人は『世の中のお菓子職人に喧嘩売ってねえか?』と思ったが、突っ込まないことにしたようだ。
「そういえば、二人は合流に時間がかかったな」
「オレはいろんなところで武器を作りまくってたんだよ。魔王の侵略がひどかった地域は男手が少なくなってるから、戦闘員は量を確保できないから質を高めるしかねえからな」
スミスハンマーを持っていることからわかるように、ラーメルは鍛冶師なのだろう。
そして、彼女が言ったこともまた事実で、魔王が死んだあとであっても支配の力が残るゆえに、魔王討伐後も、人手は帰ってこない。
避難民としてディアマンテ王国に集まった面々がまだそれぞれの国に帰っていないので、周辺国は人手が足りず、どうしても一人一人の質を高めるしかないのだ。
それで遅れていたのだろう。
「私は借金関係で話をまとめていました。とはいえ、被害がひどかった地域では、他で調達した魔道具をいくつも破格で提供し、莫大な資金援助も行なっていますがね」
「なるほど、被害が少なかった地域に関しては借金と」
「援助する意味がありませんから。こちらが欲しいものを用意できない国が多いですし」
「それはそうね」
慈善事業ではないし、そもそもラスター・レポートはホーラスの『主義の善悪に興味がない』という思想が色濃いゆえに、周囲から何を言われようとあまり気にしない。
もっとも、個人差はあるし、別に餓死者や病死者の増加を見て見ぬふりをすることもないので、配りまくっていたのだろう。
「そういや、思ったより最近、人の移動が多くねえか? オレがここに来るまでに、結構な数の乗合馬車が通ってたぞ」
「私のほうで調べておきました。どうやら、冒険者が多く移動しているようですね」
「冒険者が?」
「冒険者協会があることで、冒険者たちは国家に対して中立性を確保していますが、やはり無関係ではありません。国家の状態によっては、冒険者たちが活躍しにくい場所というのは必然的に出てきます」
「その通りね。私たちも旅の中で、『差』がいろいろあって苦労したわ」
「要するに……国家が我々に対して借金を抱えていない『ディアマンテ王国』と『カオストン竜石国』は、冒険者に対する締め付けも少ないため、活動しやすいということになります。どちらもダンジョンの数は豊富であり、冒険者の稼ぎ場所に困りませんから」
もちろん、『世界会議』に出席している国の中で、現状、ラスター・レポートに借金がないのが王国と竜石国の二つであるというだけで、それ以外にも借金のない国はある。
というより、世界会議そのものが『神からの自立』を唱えているため、そもそも宗教要素の強い国家はあの世界会議の場に来ていない。
宗教国家の中には大国はいくつかあり、中にはラスター・レポートに対し借金のない大国も存在する。
が、聖剣などをはじめとする特別な剣を振るいでもしない限り、血統国家のほうが動きやすいと考えている冒険者は多い。
国が抱えられる人間はもともと限られており、ディアマンテ王国とカオストン竜石国に人が寄ってくるのは間違いないだろう。
「冒険者がたくさんねぇ……」
「懸念点としては、もともとは平民出身の冒険者コミュニティである我々が魔王を討伐したことで、一部ではありますが、『調子に乗っている冒険者が多い』というのはあちこちで見受けられます」
「うーん……な、なるほどー……」
ホーラスはいろいろ思うところはあったが。
「要するに、要するにだ。バルゼイル陛下頑張って。ということだな」
「その通りです」
バルゼイル。かわいそうに。
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