第27話【王SIDE】 調子に乗った貴族たちの終焉
霊天竜ガイ・ギガントは、王都の建造物をいくつか破壊したが、死傷者はゼロでホーラスに討伐された。
このような内容が王都から世界会議の本部に届き、バルゼイルは少し緊張していたのが自然体になったようだ。
「あ、ありえない! かつて、ドワーフ最強の剣聖と言われた男が討伐するまで、大国をいくつも滅ぼしたとされるドラゴンだぞ!」
「たった一体で、SSランク冒険者の拠点がいくつか潰されているという記録も残っている!」
「そうだ。認めない! アレはレクオテニデス公爵家が抱えていた最高の戦力なのだ! それを、こうも簡単に討伐されてたまるか!」
場所は、世界会議の謁見の間。
以前はランジェアが魔王討伐の功績を発表した場所だが、今は、手枷で両手を背中側で拘束された身なりのいい男たちが、横二列に並べられていた。
バルゼイルはそんな男たちを見下ろして言う。
「さて、罪人たちよ。此度の問題で死傷者は出なかった。よって、『最悪』のダンジョンは選択肢から消えたが、王都にモンスターを襲撃させ、制圧すると実行した罰は重い。よって、『牢獄ダンジョン』への連行が確定した」
モンスターは、倒すと硬貨とドロップアイテムを落とす。
自然界にいるモンスターは生態系としてモンスターが存在し、ダンジョンの中は領域の仕様としてモンスターが出てくる。
この世界におけるモンスターというのはそういったものだが、ダンジョンの中には『特殊な仕様』があるものが存在する。
それが『牢獄ダンジョン』であり、その仕様は、
『モンスターを倒して得られる硬貨やドロップアイテム、宝箱を開けて入っていたアイテムは、その場で消滅し、ダンジョンの出入り口付近にある【穴】から出てくる』
というものだ。
そもそも、罪人をダンジョンに連行した場合、硬貨とドロップアイテム、そして宝箱からのアイテムを使って、反撃の準備を進めるというケースはゼロではない。
この世界の魔道具は、エネルギーとしても使用可能な硬貨を入れることで起動する場合が多く、『ダンジョンの中に入れて放置する』ということは、『反撃のチャンスを与える』ことと同じなのだ。
だが、『手に入れたものがダンジョンの出入り口から出てくる』という仕様があれば、その心配はない。
そのため『牢獄ダンジョン』と呼ばれ、多くの国が確保している。
「お、お待ちください! 陛下! 我々の行動には、大義があるのです!」
「ほう? 正しいというのか?」
「そうです! 我々の行動は、全て、陛下を賢王としての道へ戻すためのもの! 陛下に正しき道を示す行為は、正義なのです!」
自分が正しいと信じて……いや違う、正しいと『無意識』に感じている様子で、男は叫ぶ。
バルゼイルはそれを、とても冷めた目で見ている。
「賢王か。それは、選ばれた人間である貴族に、未来永劫の贅沢という特権を与える存在。ということか?」
「その通りです! 我々は古の時代より、【神】に等しきお方である王より選ばれた人間の血を受け継ぐ、正統な支配者なのです! 労働には報酬が必要。人々を支配するという特別な労働には、特別な報酬が必要。よって、『未来永劫の贅沢』を我々が享受するのは正義であり、その特権を陛下が示していただくことこそが、賢王の証なのです!」
自分に酔ったように話す男を見て、バルゼイルは、自らの二十年の王道を『恥』と感じざるを得なかった。
七つの常任理事国のトップたちが自分の周りの席で座っているが、どこか『こんな男に権力を与えるとか、正気か?』という視線がバルゼイルにチクチク刺さる。
「……私を賢王へ導くために、なぜ王都にモンスターを放った?」
「選ばれた血を受け継ぐものは、優れた力を持つ。陛下はそれをお忘れになっておられる。これでは世界に対し、申し訳が立ちませぬ。貴族である我々に、低い評価をつけることはあってはならないのです。それを証明するため、王都にモンスターを放ったのです!」
「制圧。とはいうが、王都の建物がいくつも破壊されておる。死者が出る可能性もあったぞ」
「何を言います。陛下」
この男が次に語った言葉に、バルゼイルは寒気すら覚えた。
「力の強さは、死者の数によって示されるのです。庶民を大量に殺せば、陛下も我々の偉大さを理解していただけるはず!」
……。
「はぁ、元は平民である勇者を認めず、貴様らは難癖をつけた。暴言を吐いた。それに対し罰を与えるという私の行動が、貴族を軽んじていると、そういう理屈を持つのは、予想できたことだ。ただ、ここまで愚かだったとはな」
「我々のどこか愚かだというのですか!」
「ああいや、貴様が語った大部分のほうは別にいいのだよ」
バルゼイルは溜息を押し殺しつつ、指を一本立てて、言葉を続ける。
「私が賢王であれば、国は豊かになり、王である私のもとに多くの財が集まる。それを、統治を任せる者に対し、高い報酬を払うというのは当然のことだ」
二本目の指を立てる。
「『力』を持つ貴族に対し低い評価をつけるなど、王の眼に狂いがあるとしか思えん。力というのは、示す時など来なければそれに越したことはないが、モンスターが世に蔓延るなかで必要だ」
三本目の指を立てる。
「人間は長い歴史の中で、戦争を繰り返し、他国の民を虐殺し、その殺した数が多いものに英雄という称号を与えたことも事実だ」
立てた指をすべて閉じた。
「貴様が語った理屈に対し、理解を示さないことは、愚王の証明だろう」
「おお、では、陛下……」
「そして、貴様らは愚か者だ」
「なにっ!」
理解は示した。
だが、貴族の男たちを愚か者と断じる。
それに驚愕したようだが、当然のことだ。
「お前たちは、貴族であるということ以前に、『世界会議設立の二大理念』を蔑ろにしている」
「? ……そ、そんなものが?」
「やはり知らぬか」
バルゼイルは溜息を隠そうともしなかった。
「二大理念の一つは、『神に祈らずとも、我々は民を守り抜く』というもの。守るというのはモンスターからの襲撃だけではないぞ。飢餓、病気、そして人間同士の戦い。人に寿命が尽きるまで生きることを妨げる全てから、人を守ることだ」
机に手のひらを叩きつけて、彼は言葉を続ける。
「民は守らなければならぬ! 自国の民に対し、いくら殺してもいいなど、よくほざいたな!」
「なっ、そ、そんな……」
「もう一つ!」
「!」
「二大理念のもう一つは、『【神】を超える言葉を作れぬ人類にとって、神とは限界である。神を名乗ってはならない。人としてどこまでも成長せよ』……お前は先ほど、王というものが『神に等しい』と言ったな!」
「い、言え、決してそのような意味では……」
「取り繕い方も杜撰になったな。そして淀みなく先ほどのセリフをほざいたところを見れば、控室の場でそれを吹聴し、他の貴族も納得していたということだろう!」
怒りを顔ににじませて、バルゼイルは言った。
「貴様らは、【世界会議の祖】を侮辱したのだ! それで貴族を語ろうなど、恥を知れ!」
赤い威圧のオーラが放たれ、『何があろうと許される』と思っていた貴族たちは、全員が頭を深く下げた。下げさせられた。
「……沙汰はすでに決まっておる。貴様らは全員、牢獄ダンジョン『万魔夜行』にて終身刑とする」
「お、お待ちください! 陛下!」
「衛兵! こいつらをダンジョンにぶち込んでおけ! 刑は確定だ! 絶対に覆りはせん!」
「「「「はっ!」」」」
兵士たちが横から出てきて、貴族たちを無理やりに立たせて連行している。
当然、彼らは喚き、嘆き、呪詛すら吐いていたが……バルゼイルは表情一つ動かすことなく、連行される貴族たちを見ていた。
(……何かが違えば、私も……今は、胸に刻むしかないな)
裁きの場は閉廷となった。
ただ……この場にいた人々は、バルゼイルが持つ王としての威風を目に焼き付け……それを忘れることはないだろう。
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