第16話 過去一番の衝撃。
「私を待たせるとはどういうことだ! 私がディアマンテ王国レクオテニデス公爵家の当主、アシュトン・レクオテニデスだと知らないのか!」
ランジェアとホーラスが表に出てみると、門の前に体重100キログラムくらいの男がいた。
「初耳ですね。それで、何の用ですか?」
「フンッ! 貴様らはいい見た目をしているからな。私の愛人として屋敷に招いてもいいと判断したのだよ」
「お断りします」
「なんだと! いいから私の言うことを聞け! 私に逆らうとどうなるかわかっていないようだな!」
「あなたこそ、勇者を舐めすぎです。私たちがそのような要求を聞くとでも?」
「フンッ! こんな金属しかとれない貧弱な国で何を言っている! ディアマンテ王国という世界最大の国に恐れをなした証拠だろうが!」
「この国は、私が魔王を討伐した時の剣を作成しました。そんな国が貧弱とは、魔王討伐に何も貢献しなかった貴族がよく言いますね」
「何ぃ! 私を侮辱するのもいい加減にしろ!」
荒い息をしているアシュトン。
だが、すぐに息を整えると、ニヤリとゆがんだ笑みを浮かべる。
「フンッ。そんな強情でいられるのも今のうちだ! 貴様らはこの国の国民なのだろう。要するに……この国のトップが借金を返済する義務を負えば、国民もまた、借金を返済するために動かなければならない」
「リュシア王女殿下に金を貸す気ですか? ただ、あなたにその場で返せば……もしや、貸し付けた段階で、『利息1000%』といった法外な設定をするおつもりで?」
「はぁ、これだから学のない平民は。リュシア王女殿下には、レクオテニデス公爵家に対し、『金貨1億枚の借金を買ってもらう』のだよ。そして、勇者コミュニティのメンバー全員に対し、金貨1億枚という値段を我々がつける。それだけのことなのだ」
「はっ? あ、え? あなたたちに金貨1億枚が用意できるのですか? というより、用意した金をそのまま返せばいいという理屈は変わりませんよ?」
ランジェアが理解できていない。
いや……彼女の直感に、あまりにも反しているため、想像できていない。
「ランジェア。そうじゃない。公爵家は『金貨を貸す』って言ってるんじゃなくて、『リュシア王女殿下に、一方的な金貨1億枚の支払い義務を負ってもらう』って言ってるんだ」
「!?」
ホーラスの説明に愕然としているランジェア。
「そ、そんなことが可能なのですか?」
「いや、まあ、『債権』ってのはただの権利だからな。買おうと思えば買えるよ。尤も、成立すると思ってんなら、話は別だ」
「ほう、そっちの平民は多少は頭がいいらしい……ん? その外見の特徴。なるほど、貴様が城で働いていた平民のまとめ役だったのか。なら貴様には、金貨1億枚の借金を買ってもらおう。一生をかけて、城の外に作ったテントで事務作業をこなすのだな!」
アシュトンは愉悦の笑みを浮かべてそう言った。
「何か、こう、『借金を買わせる』っていうのがすごい発明みたいに思ってるんだろうねぇ」
「アシュトン様! 向こうの倉庫に、貴重な金属が並べられていました!」
ホーラスが色々考えていると、歪んだ笑みを浮かべた男性が倉庫のほうから走ってきた。
その手に握っているのは、ホーラスが先ほどダンジョンから持ち帰ってきたもの。
「それは……どういうつもりですか?」
「勇者コミュニティは私のコレクションになるのだ。ならば、その持ち物はすべて私のものに決まっているだろう」
「出入り口に鍵がかかっていたはずです」
「え、壊しましたけど」
インゴットを手に持っている男が疑問すら感じていない様子でそう言った。
「……そういえば、ティアリスが既に資料をまとめていて、商会が来る予定もなかったから、見張りがいなかったですね。不覚」
頭を押さえて頭痛をこらえているランジェア。
インゴットを持っている男を見て、ホーラスは溜息をついた。
「はぁ、こんな救いようのない主義を掲げてるとは……この国が世界会議に対し、キンセカイ大鉱脈の独占権を持っているのは都合がいいんだ。俺の邪魔をするってことでいいかな?」
「邪魔だと? ただの平民出身の元事務員が思い上がるな!」
「……人が集まってきたな。なら……!」
ホーラスは威圧を解き放つ。
次の瞬間、上からの圧力に押しつぶされたかのように、アシュトンは跪いた。
「うっ、おおっ、ふぅ、ふぅ!」
「フフッ、おいおいどうした? こんな公衆の面前で平民に跪くなんて」
「ぐっ、おおおお……」
汗を滝のように流して地面に膝をつくアシュトン。
もう、ホーラスの顔を見上げることすらできない。
……遠くの方で、『写真魔道具』の音がパシャパシャとなっている。
すぐに、アシュトンがホーラスとランジェア相手に跪いたことは、新聞に載るだろう。
たっぷり写真を撮らせた後、ホーラスは威圧をやめた。
「はっ、ぐ、くそっ、わ、私をコケにしたこと、後悔させてやる! 貴様は永遠に書類整理で使いつぶしてやる! 勇者コミュニティは私のコレクションだ! 抱き飽きたら勇者娼館として私の資金源にしてやるからな! 覚悟しておけ!」
そう言って、這う這うの体でアシュトンは去っていった。
姿が見えなくなると、ランジェアはインゴットを手に持っている男のほうを向いた。
絶対零度の殺気を、遠慮なく男のほうに向けている。
『それを置いてさっさと出ていけ。これ以上調子に乗るなら、命を払ってもらうぞ』
「ひっ! うあああああああああああああああっ!」
こちらも滝のような汗を流して去っていった。
「……はぁ、まさか、こんなことになるとは」
ランジェアが深いため息をつくと、屋敷からティアリスが出てきた。
「凄い気配がしましたが、一体何が?」
「あー、レクオテニデス公爵家の当主が調子に乗ってたんだよ」
「レクオテニデス公爵家? ……ああ、何かの資料にありましたね。確か、当主はディアマンテ王国の宰相にして、外交統括だったはず」
「「ええええええええええええええええええええええええっ!?」」
ホーラスとランジェアは同時に絶叫。
過去一番の衝撃だったらしい……そりゃそうか。
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……レクオテニデス。逆から読むと?