順調な学園生活
いよいよ学園だ、準備したものはネックレス。異常状態解除の魔石つきだ。かなり太目の丈夫な鎖で出来ている。これで引きちぎろうとしても簡単にはいかない、ラノベのように引きちぎられて魅了にかかるのはいやだ。勿論、浴室やベッドでも外さない。質の高い魔石は叔父上に強請った、魅了魔法にかかりたくないといったら、そんなものはない、人を操る魔法は繊細かつ持続力に欠け、できても一時のものだと言われた。それでもがんばったら、遠い目をして自分で造れとこの魔石を渡された。後でサリバン先生に時価1億円もすると聞いてちょっと反省したけどな。
マジックバッグもある。俺のはブレスレット型だ。はずして付いている魔石に魔力を流すと品物を出し入れできる。個人認証も出来るすぐれものだ。ここに食料をいれたいので街に買い物に行くと言ったら反対された。俺が行くと目立って何事かと思われるそうだ。屋敷にあるものは何でも持っていけと言うので食料、衣服(庶民のものも)武具数種類、野宿の用意、等詰め込んだ。容量があって良かったよ。叔父上にお前はどこに向かうのだと聞かれたので、「田舎でスローライフを送る為です」と答えたら、ため息をついて金貨の詰まった袋もくれた、大金貨(100万円相当)ばかりでは屋台で買い物も出来ませんと言ったら、小金貨(10万円相当)銀貨(1万円相当)銅貨の詰まった袋3個もくれた。いい叔父だよな。いつか恩返しをしよう。
ここの世界は月、日、時間、季節等日本と同じだ、お金も金属貨幣しかないが単位は円だ。
これだけでも乙女ゲーム疑惑は確定だがついでに同級生にいるんだよ、第2王子、宰相の息子、騎士団長の息子が。
ヒロインはピンクか金髪、茶髪なこともある可愛い系の天真爛漫ぶりっこ女子。多すぎて特定できそうにない。ついでに世界の強制力があったらアウトだな。
でも負けない、お胸様にもお尻様にも耐えて輝かしい明日を掴み取ってみせるぞ。
王都にやって来た、十数年ぶりに会う両親と弟にちょっと緊張したが、なんてことはなかった。美中年の夫婦と我侭そうな美少年と思っただけだった。心が動かない。俺の本当の家族は日本にいる。しょぼい父と太目の母、料理の出来が安定しなくて文句を言ったけれど、そこそこうまかったよ。自己中な兄貴もやさしいところがあったし。
王都のゴルドシュタイン邸に来て両親と弟に会ったのは3回だけだった、皆様お忙しいことで。母上と弟は敵愾心に満ちた目で父上はなんともいえない困った顔で俺をみていた。重苦しい雰囲気ととげとげしい会話にはまいった、弟とは少しでも打ち解けたかったんだけどな。叔父上の言うとおりだ。
サリバン先生は学園に講師として勤めるそうで、俺の保護者役も兼ねるそうだ。
叔父上は俺を父方と母方の祖父母に会わせてくれた、皆意外そうに俺を見て、やさしくしてくれた。
好感触ゲットだぜ、母上に何を吹き込まれていたのやら。
他にも何人か会わせてくれたのは助かる、夜会の時にぼっちはつらいものな。
決めた!叔父上は俺の第2の父だ、あいつらとはそれなりにしよう、弟のことは残念だけど。
てなことで入学式の日がやってきました。青空がまぶしいぞ。マッキーも契約獣の印の銀の首輪をして、後をついてくる、かっこいい。クラスで2,3人は魔獣と契約しているそうで大き過ぎなければ連れ歩くも可と言われた。マッキーはぎりぎりだな、大丈夫、大丈夫。
あと俺には従者が2人つけられている、ゴルドシュタイン侯爵家と親しいアルトバーン子爵の3男シュワルツと家令の息子のジョセフィンだ。
どきどきしながら学園の門をくぐったが、なにもなかった。普通だよな、やれやれ。
講堂に入る。いよいよ例の御三方と対面だ。
すぐにわかった、三人が集まっていると派手だ、それはもう目立っている。他にもあいつイケメンじゃねという奴らがそこそこいるのだが格が違う、きらきら光っている、輝かんばかりのお姿で他を圧倒している。皆がひそひそと「白バラの君が」「ダリアの君は」「あそこにカラーの君が」と楽しそうに話している。俺、笑っていいですか、爆笑しそうなんだけど。さすが乙女ゲームだ、男に花の名前をつけるとは。
さて俺はどうしよう、社交界にでたことのない格下の知らない人間の俺から挨拶などできん。
ここはいさぎよく目立たぬように端っこにでも座るか。
隠密モードで気配を消して、よしよし、これでOKだ。
昨日は逃げられたが今日もできるかと言えば残念ながら無理だ。
騎士団長の息子、リッター伯爵家嫡男ルドヴィックが剣術科に在籍しているからだ。
悪いが俺の知らないところで幸せになってくれ、と願った時もありました。はかなく消えたけどな。
あいつは俺に気が付くと親しみをこめてニッカと笑い、白い歯がきらりと輝いた。漫画かよ。
そして、あっというまにクラスメートに囲まれる俺たち。引きこもりの俺は皆の興味を引いたらしく質問が雨あられと降り注ぐ←今ここ。
密かに過ごすのは無理だった、ルドヴィックの奴どこでもいつでもくっついてくるんだぜ、トイレに一緒に行きたがる女子かよ。いまのところ例の方々とのお茶会は断っている、用事があるといってな。でも時間の問題だろう、ご一緒させていただくのは。
3日目に捕まった、いきたくねーと思っても王子の3回目のお誘いを断るのは不味かろう。
学園の奥にある桜の木の側にテーブルが置かれ、用意はばっちりだ。
ご挨拶、ご挨拶、入学したばかりの多忙を謝ると気にしないでくれとジルベスター王子は流してくれた。
「そのようなことは従者に任せてゆっくりお過ごしになればよろしいのに」
腹黒宰相子息が口を出す、王子の誘いを断ったのが気に食わないのか、暗に従者を使いこなすことも出来ないのかと責めてくる、根性悪め。
「こちらに来るために新たに雇った者たちですので私の好みもまだわからず、すべてに指示を求めてくるので時間が掛かって困っております。」
「剣術科に一緒に入ったと、ではその者も腕がたつのでしょうね」
「はい、若手の有望株だと聞いております。」
直前に押し付けられた従者だ、知らないよ、そんなこと。こういっとけば間違いないだろう。
「フェルは魔術科に入るものだと思っていたのでクラスメートも皆、驚いていていた。
でも彼、強いのなんの、私のいい対戦相手になってくれているよ。」
「そんなに強いんだ、驚きだね、でもゴルドシュタイン家はどうするのですか、あそこは魔術を得意とすると聞いていますが」
また腹黒かしょうもないことばかり言いやがって。
「今は剣に興味がありますので、このまま剣を学んでいこうかと。
魔法が使えないわけでもないですから。若いうちは何でもやってみるようにいわれています。それに魔術師は象牙の塔の住人というわけでもないので、体力も必要ですよ。」
「つまらない話はそこまでにしておこう。君のいうとおり色々試してみるのも大事だからね」
そこからはとりとめもない話になった、腹黒宰相子息も言いたいことを言って気が済んだのか大人しくなったのでやれやれだ。
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フェルディナンドが去った後で。
「殿下なに笑っているんですか」
「いや、彼、派手なこと嫌いだろう。
だから派手な私たちには近づきたくないと」
「まぁ、そういうことでしょうね、ずうずうしい」
「ずうずうしいってマキシミリアン、それは言い過ぎではないですか」
「いやー、いい足りないね、だってルド、君は彼のことどう見てる」
「フェルか、賢そうで、落ち着いていて、剣が強くて、うん、彼の側は気持ちがいいよ。」
「あんまりべたべたしていると嫌われますよ」
「そんなつもりはないんだが、同じクラスで彼、知り合いが居なかったしね、友達になろうと思っているんだ。」
「決めました」
「なにをです殿下」
「彼は白いぼたんの君です」
「はぁ、白いぼたんですか」
「柔らかくて繊細なところが似ています。
私達に負けず劣らず華やかで優雅でしなやかです。
それに魔術の腕もたいしたものだと思いますよ、彼の後ろに居た魔獣はとても強い、あれを従わせている彼も強いはずです。
それでなければゴルドシュタインが剣術をやってもいいといわないでしょう。」
「彼を引き込みますか」
「おいおいね、強引なことは嫌いそうですから
だいたい彼だけ蚊帳の外でのんびりするなんて、許しません。
侯爵家の責務をしっかり果していただきましょう。」
「はい、花の名前の犠牲者一人確定ですね。」
「おい、おい」
こうしてフェルディナンドの田舎でスローライフの夢の実現率は100%から40%に下がりました。
チ~ン!